地下鉄を降りて、階段を上る
汗をふきながら、顔をしかめたサラリーマンが何人も何人も、すれ違いながら吸い込まれていく
地下へ地下へ
大手町駅は複雑だ
この出口も知らない人は知らないだろう
ビルへの道を急ぐ
ゆとりを持って出たはずだが、途中、駅のトイレで化粧を直しているうちに時間が過ぎた
別にそうじゃない
彼に会うかも、と思ったからではない
身だしなみを整えただけだ
半ば、自分に言い聞かせた
昼の時間帯だった
この界隈では名の知れたラーメン屋は、この炎天下の中でも、それなりの行列ができていた
目は、一応、行列の中に彼の姿がないことを確認していた
会ったからと言って、声をかけられるのだろうか
まったく自信がなかった
向こうさえ気づかなければ、身を隠すかもしれない、とさえ、思った
一方、もし会ったら、もう以前の私とは違うのよ、とでもいうように、余裕の笑みを見せようか、とも思った
いやいや、それはないや…
彼の勤め先のビルに差し掛かった
偶然を願いつつ、偶然を願っていなかった
暑さに頭がクラクラしてきた
夏のせいでもあり、彼のせいでもある、と、わけのわからぬ濡れ衣を着せた