作物病害 メモ帳 主に畑作物に寄生するネコブカビ類

作物の病害に関するメモ #コムギ #テンサイ #バレイショ #マメ類 #ソルガム #Polymyxa

Polymyxa属菌には、生育適温の異なる3グループがある

2022-04-12 22:45:45 | 文献概要

(マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(7))

Title: Differences in temperature requirements between Polymyxa sp. of Indian origin and Polymyxa graminis and Polymyxa betae from temperate areas.
(インド起源のPolymyxa sp.とPolymyxa graminisと温帯のPolymyxa betaeの温度要求性の差異)
Author: Legreve A., Delfosse P. et al.
Journal: European Journal of Plant Pathology 104: 195-205 (1998)

★ひとこと★
Polymyxa属には、生育適温の異なる3グループがあり、この研究で詳しく調査された。それぞれのグループの生態を明らかにすることは分類上の意義の他に、防除にもつながる情報となる可能性がある。Polymyxa属菌は、宿主が無くとも土壌中で何年も生存することができるが、絶対寄生性のため一度発芽したあとは、宿主が無ければ短期間で死滅する。そのため、宿主が無い状態で発芽させることができれば、密度を減らすことができる可能性がある。発芽に適した温度条件を明らかにすることは、発芽促進物質の探索と同様に重要である。
 
Summary
 インドで得られた3株のPolymyxa sp.の単休眠胞子塊分離系統の温度要求性が15-18、19-22、23-26、27-30℃(昼-夜の温度)で調査され、ベルギー、カナダ、フランスのP. graminis3株、ベルギー、トルコのP. betae2株と比較された。インド株は宿主植物としてソルガムを用い、温帯のP. graminisとP. betaeはそれぞれオオムギとテンサイで増殖された。インドのPolymyxa sp.の休眠胞子の発芽、変形体、遊走子のう、休眠胞子の生育の最適温度は27-30℃であった。感染の進行は27-30より23-26℃でゆっくりだった。19-22℃では、感染はわずかであった。19℃以下では、感染は生じなかった。対照的に温帯のP. graminisのオオムギへの感染は15-18℃が最適で、19-22℃では感染は少なく、生育は着実なものではなかった。22℃以上では感染はわずかであった。P. betaeの菌株は15-18から27-30℃で着実な感染を示した。ベルギー株の変形体の形成と休眠胞子の検出は19-22℃に比べて23-26℃でわずかに促進したが、27-30℃ではあきらかに抑制された。トルコのP. betaeの菌株の生育はほぼ27-30℃でも、それより低い温度と同様に多かった。これらの結果は、インドのPolymyxa sp.と温帯のP. graminis、P. betaeを区別する事例を増加させた。

Introduction
 ピーナッツクランプ病は、西アフリカでpeanut clump virus (PCV) 、インドでIndian PCVによって起こされ、P. graminisによって媒介されることが示されている。Polymyxa属菌は、最初にコムギに感染することが報告されたP. graminisとテンサイへの感染が報告されたP. betaeを含む。これらの種は異なる宿主範囲によって識別され、P. graminisは単子葉植物、P. betaeは双子葉植物に感染するとされている。それらは温帯において、経済的な重要な植物ウイルスを伝搬するとされている。PCVとIPCVを伝搬するPolymyxa sp.株は、以下の3点で注目される。1.単子葉植物から検出される分離株は、ラッカセイに両ウイルスを伝搬させる。2.それらの分離株の宿主域は単子葉植物と双子葉植物の両者を含む。3.それらの分離株は熱帯から分離され、温帯域から分離されたPolymyxaとは温度要求性が異なると考えられる
 IPCV-Polymyxaの生態的を明確にするため、これまで広範には調査されていない
温度要求性の調査を開始した。インドで分離されたIPCV-Polymyxaのソルガム上での15~30℃での生育をベルギー、カナダ、フランスのオオムギで生育させたP. graminis、ベルギーとトルコで分離されたP. betaeをテンサイで生育させ、比較した。
 Polymyxaは、絶対寄生性のため植物を用いてのみ土壌から分離できる。そのため、他の寄生性の土壌微生物の感染を防ぐために、単休眠胞子塊分離株を用いた。

Methods
Isolation of Polymyxa from IPCV-infested soil
 サンプル土壌と滅菌した砂を混合し、ソルガム、オオムギ、コムギを栽培した。夜20昼25℃または夜25昼30℃で生育させ、pH7.2のHoagland液を潅水した。感染の調査は、根をコットンブルーで染色して実体顕微鏡で行った。

Production of IPCV-Polymyxa single cystosorus strains
 単休眠胞子塊系統の作成は、根こぶ病の単胞子接種の方法を利用した。感染ソルガム根磨砕液から懸濁液を調製し、寒天上に塗布したのち、マイクロスピアで拾い上げた。滅菌砂を入れたチューブ上に休眠胞子塊を置き苗を移植、または苗の根に直接付着させて移植した。25~30℃で10週間栽培し、Polymyxaの感染と他の微生物のコンタミネーションの有無を調査した。調査した残りの根は乾燥して保存された。

P. graminis and P. betae strains
 P. graminisの3菌株、P. betaeの2菌株をそれぞれオオムギ、テンサイで増殖して使用した。

Multiplication of Polymyxa spp. strains
 多量のそれぞれの菌株の増殖は、automatic immersion system(AIS)Fig.1で行った。P. graminisは15-20℃、P. betaeは20-25℃、IPCV-Polymyxaは25-30℃で栽培した。

Temperature requirements
 調査は15-18℃、19-22℃、23-26℃、27-30℃(昼-夜)で行った。1本のチューブに2500個の休眠胞子塊を接種した。接種後15、25、35、56、56日後に調査した。IPCV-Polymyxaにはソルガム、P. betaeにはテンサイ、P. graminisにはオオムギを宿主に使用した。

Results
Isolation of Polymyxa from IPCV-infested soil
 IPCVに汚染した土壌に栽培した場合に休眠胞子塊が観察されたのは、植物にソルガムを用いて25-30℃で3ヵ月栽培した場合のみだった。20-25℃やコムギ、テンサイを用いた場合には感染していなかった。

Production and multiplication of IPCV-Polymyxa single cystosorus strains
 単休眠胞子塊接種したソルガムのうち、感染が確認されたのは316個体のうち3個体であった。

Effect of temperature
 IPCV-Polymyxa菌株は、概ね23℃以上で生育した。27-30℃では移植後15日で80%が感染した。この時期ではPolymyxaの3ステージ(変形体、遊走子のう、休眠胞子)のいずれも観察されたが、遊走子のうが最も多かった。25日目では、変形体よりも遊走子のう、休眠胞子塊が増加した。35日目でも休眠胞子塊は増加していた。その後、変形体と遊走子のうはわずかになり、休眠胞子が主になった。46日目では皮層の分解が起こったが、容器が小さいことが関係している可能性がある。23-26℃では、感染の進行は27-30℃より緩慢で、15日目に10%、25日目に38%の感染個体率だった。56日目には、菌株により67-83%となった。この温度では、休眠胞子塊は菌株により25-35日後に観察された。19-22℃では、IPCV-Polymyxaは56日目に休眠胞子塊がわずか1個体に観察された。15-18℃では、ソルガムには感染は観察されなかった。30-35℃ではまばらな感染で、10-15では感染が無かった。
 IPCV-Polymyxaとは対照的に、ベルギー、カナダ、フランスからのP. graminisは主に23℃以下で生育した。15-18℃では19-22℃に比べて生育が早く感染程度も高かった。23-26℃では感染はまばらで、27-30では感染は認められなかった。
 P. betaeのテンサイへの感染は、15から30℃で生じた。接種15日後には、19-22℃、23-26℃では休眠胞子塊が観察された。35日目には、23-26℃で100%、19-22℃で78%、15-18℃で70%の個体に休眠胞子塊の状態での強い寄生が観察された。27-30℃では、25日目に16%の植物に変形体が観察されたが、56日目でも感染程度は低く休眠胞子塊は観察されなかった。ただし、トルコ株は27-30℃でも休眠胞子塊が見られ、高い感染程度に達した。


Discussion
 IPCV-Polymyxaの豊富な生育には23℃以上が必要で、27-30℃で最も早い。23-26℃で遅れたが最終的な感染程度は、23-30℃と同程度だった。この系統は25-30℃で分離されていることから、高温に適応していると考えられた。ラッカセイのクランプ病は雨期の25-30℃で高い発病程度になっており、乾季の低温期には無視できるほどの発病となっている。25-30℃では、ウイルス、菌ともにコムギに検出され、ラッカセイにはIPCVに感染した。IPCVの汁液接種では15℃でも30℃でもクランプ症状が発現することから低温はウイルスの複製を制限しないが菌への伝搬を制限すると考えられた。
 P. betaeについてはIPCV-PolymyxaやP. graminisより広い範囲で生育した。その中でも分離地により差異が見られた。
 IPCV-Polymyxaの単休眠胞子塊系統の作成成功率は、1%以下と低かった。これは、多くの休眠胞子塊が発芽しないか、感染に成功しないかということを示している。Polymyxaの成熟や発芽のメカニズムは不明だが、発芽に及ぼす刺激に関する知識は防除法の策定に役立つはずである。
 開発されたautomatic immersion system(AIS)は、各地から分離されたPolymyxaを増殖させるのに優れたシステムである。休眠胞子塊の生産と活性のあるPolymyxaの維持、また遊走子の接種源を生産できる可能性もある。他の遊走子形成菌や水生菌にも適応すると考えられる


Indian peanut clump virusもPCVと同様にPolymyxa graminisによって媒介されることが明らかとなった

2022-04-12 22:45:45 | 文献概要

(マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(6))

Title: Studies on transmission of Indian peanut clump virus disease by Polymyxa graminis
(Polymyxa graminisによるIndian peanut clump virusの伝搬の研究)
Author: A S Ratna et al.
Journal: Ann. app. Biol. 118: 71-78 (1991)

★コメント★
 peanut clump病は、初めpeanut clump virusを病原とするものが発見されたが、のちにインド方面の同病は別種のウイルスによるものであることが報告された。そのIndian peanut clump virusもPCVと同様にPolymyxa graminisによって媒介されることを観察結果から示した。分子生物学的手法で種の識別ができなかった時代には、P.graminisとP.betaeが別種とされることに異論もあったが、現在は別種ということで落ち着いている。

summary
 plasmodiophoromycete(ネコブカビ綱、現在はPhytomyxea綱とするのが主流)に属するPolymyxa graminisは、Indian peanut clump virus(IPCV)汚染圃場から採集されたSorghum bicolor(ソルガム)、S. sudanense(スーダングラス)、Pennisetum glaucum(トウジンビエ)、Triticum aestivum(コムギ)、Cyperus rotundus(ハマスゲ)、Eleucine coracana(シコクビエ(Eleusineの表記もあり、はっきりしないが両者とも英名はFinger Millet))、Zea mays(トウモロコシ)、Tridax procumbens(コトブキギク)、Arachis hypogaea(ラッカセイ)の根に観察された。あらかじめ乾燥させた圃場土で栽培しIPCVに感染したS. bicolor、S. sudanense、P. glaucum、T. aestivumの根にはP. graminisの休眠胞子塊が観察された。3年間室温で保存したIPCV汚染土壌A.  hypogaea、T. aestivum、S. bicolorにウイルスを伝搬した。IPCVに感染し休眠胞子塊を含むP. glaucumとS. bicolorの根抽出物と、乾燥根片を滅菌土壌に混合すると、ウルルスをA. hypogaeaとT. aestivumに伝搬させた。根抽出物に含まれていた第一次遊走子は、おそらく休眠胞子塊から生じた。P. graminisの接種源としての休眠胞子塊を含むS. sudanenseの根の細片は、単子葉にも双子葉植物にも感染することが示された。根への豊富な休眠胞子塊の生成は、単子葉植物のみで認められた。概ね、双子葉植物においては、わずかな根にのみ休眠胞子塊が見られた。インドから分離されたP. graminisは、広い宿主域を持ち双子葉植物にも感染できる温帯の土壌からの分離株と明らかに異なっている。

 ラッカセイのclump病のうちインドで発生しているものは西アフリカで発生しているものとは血清型が異なり、Reddyら(1983)などによりIndian PCV(IPCV)と命名されている。両者とも土壌及び種子で伝搬する。この論文では、IPCVがP. graminisで伝搬される可能性とP. graminisの宿主域についての研究を報告した。


Materials and Methodsの概要
・ 土壌中のP. graminisの検出: 25~30℃の温室でSorghum bicolor(ソルガム)、S. sudanense(スーダングラス)、P. glaucum(トウジンビエ)、T. aestivum(コムギ)を4―6週間栽培し、酸性フクシンで根を染色して休眠胞子塊を観察した。
・ P. graminisの宿主域: 接種源として汚染土壌または感染したスーダングラスの乾燥根を用いた。出芽後4―12日は毎日、その後は1週間ごとに根を採集し検鏡した。
・ 風乾した土壌によるIPCVの伝搬: 3年間室温で保存した風乾土壌(Bapatla(B-IPCV)、Hyderabad(H-IPCV))にS. bicolor、T. aestivum、A. hypogaeaを4週間栽培し、DAC-ELISAによって葉のウイルスを検出した。
・ 乾燥根によるH-IPCVの伝搬: H-IPCV汚染土壌に栽培したP. glaucumの乾燥根を滅菌土壌に混合し、T. aestivumとA. hypogaeaの幼苗を移植し4週間25―30℃で栽培した。葉のウイルスをDAC-ELISAで調査した。
・ 根抽出物によるウイルスの伝搬: S. bicolorとP. glaucumの乾燥根からの抽出物はカイネチンとストレプトマイシンで処理後にチーズクロスでろ過したのち、根が2―3cmに伸長したT. aestivumとA. hypogaeaをろ液に2日間浸した。ろ液中の第一次遊走子の有無を確認し滅菌砂に移植し30℃で栽培した。4週間後に葉のH-IPCVをDAC-ELISAで調査した。

Results
・ P. graminisの感染: 温室内の栽培で4種の植物の根にP. graminisの感染が観察され、P. graminisの感染があった個体の葉から抗体によってウイルスが検出された。発芽6~7日後のP. glaucumとS. sudanenseの根には変形体が観察された。いくつかの変形体は7日以内に遊走子のうに分化し、発芽8~9日後にはexit tubeが形成された。休眠胞子塊は、11日後以降に形成された。
・ 圃場から採集されたCyperus rotundus、Eleucine coracana、S. bicolor、S. sudanense、P. glaucum、T. aestivumの根には、P. graminisの休眠胞子が存在した。ラッカセイに関しては、6週未満の個体のみにごくわずか観察されただけであった。
・ 双子葉植物に関しては、病土を詰めたポット栽培で、17種に中~少量の休眠胞子塊が観察された。7種の単子葉植物には、多量の休眠胞子塊が観察された。
・ IPCVが感染したスーダングラスの根を混合した滅菌土に栽培した6種の単子葉植物には、休眠胞子塊が一般的に認められるが、双子葉植物については試験した12種のうち8種にまれに見られた。

・ 風乾したIPCV汚染土壌に栽培した32%のラッカセイ、40%のS. bicolor、80%のT. aestivumの葉にウイルスが検出され、感染個体の根にはP. graminisの休眠胞子塊が観察された。IPCVに感染したP. glaucumの根を接種源に用いた場合、T. aestivumとラッカセイに高率にウイルスが感染した。汁液接種でも高率に伝搬した。
・ 根抽出物の中を観察すると、遊走子は2本の長さの異なるムチタイプの鞭毛を持ち、回転するような典型的なP. graminisの泳ぎ方をした。

Discussion
以上の結果からP. graminisはラッカセイに感染し、IPCVの媒介者であることが示された。過去の研究でラッカセイへのP. glaucumの観察が失敗したのは、若い細根にのみ休眠胞子塊が存在し、それらの根は引き抜くときに容易に脱落するからと考えられた。
一般的な雑草がIPCVの宿主になることから、連作は効果的な防除法とは考えられない。
P. graminisも双子葉植物に感染することから、P. graminisとP. betaeの分類について、再度検討する必要がある。


Indian peanut clump virusとPeanut clump virusの類縁性についての研究結果の報告

2022-04-12 11:55:49 | 文献概要
(マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(5))
 
Title: Genome properties and relationships of Indian peanut clump virus
(Indian Peanut Clump Virusのゲノムの特性と類縁関係)
Author: Reddy D V R et al.
Journal: J. fen. Virol.  66: 2011-2016 (1985)
 
★コメント★
 この論文が書かれた時期には、まだIPCVとPCVの類縁関係や、Polymyxaで媒介される他のウイルスとの類縁関係がはっきりしていなかった。この論文では、IPCVはPCVと血清学的な関係は無いが、他の特性で似ているところがあることから、1系統と結論している。現在では、別種とされています。また、IPCVとPCVは、SBWMV、ジャガイモモップトップウイルスと科は同じで属が異なり、ビートえそ性葉脈黄化ウイルスとは科が異なります。
 
Summary
 Indian peanut clump virus(IPCV)のL株の棒状粒子から抽出したRNAは主に2つのsingle-strand種からなり、グリオキサールで変性させたサンプルのゲル電気泳動で推定した分子量はRNA-1が1.83×106、RNA-2が1.35×106であった。RNA-1とRNA-2は両者がPhaseolus vulgaris(インゲンマメ、品種Topcrop)の葉に病斑を生じるために必要だった。核酸のハイブリダイゼーションテストによって、IPCVの3株の間に強い塩基配列の相動性が検出された。これらのインド株と西アフリカのpeanut clump virus(PCV)の間の相動性は強くはなかった。これらの結果と、症状、粒子サイズ、自然の拡散状況からインド株は、PCVの系統と考えるのが良いと思われた。しかし、免疫捕捉電顕法ではインドの3株の間、インドの3株と西アフリカ株の間に関連が検出できなかった。PCVは典型的なfurovirusグループの特性を持つが、4株とbeet necrotic yellow vein、potato mop-top、soil borne wheat mosaic virusとの間に血清学的な関連は検出されなかった。
 
Introduction
 インドのPunjab州で見つけられたPeanut clump症状のウイルスは、西アフリカのウイルスとは血清学的な類縁性が無いため、Indian peanut clump virusと命名した。さらにPunjab州のウイルスは、BapatlaとHyderabadのウイルスとは血清学的な類縁性が少ないか無かった。この論文ではインドの2種のRNAが感染に必要であるか、抗原性(antigenic)の関係の欠如にもかかわらずインド株と西アフリカ株に類縁性があるかを記述した。また、これらのウイルスと棒状の粒子で土壌生息性のネコブカビ類がベクターの他のウイルスとの特性の比較を行った。
 
Methods
Sources and propagation of virus isolates
Purification of IPCV particles
Preparation of virus RNA
Electrophoresis of glyoxalated IPCV RNA for mol. wt. determination
Electrophoresis of IPCV RNA for infectivity assay
Treatment of virus RNA with proteinase K
Infectivity assay
immunosorbent electron microscopy (ISEM)
Preparation of complementary DNA and hybridization with RNA
 
Results
Size and infectivity of IPCV RNA species
 Dundeeで栽培した場合、N. benthamianaにはIPCV-B、H、Lともに全身モザイク症状を示した。N. clevelandiiは、IPCV-Lのみ強いモザイク症状を示したが他の2株はほぼ無病徴の全身感染であった。両種ともに計数できる局部病斑はできなかったが、全身感染した葉はウイルスの純化の材料にできた。インゲンマメでは局部えそ病斑、アカザには局部退緑斑が形成された。インゲンマメにおけるIPCV-Lはより個別の病斑となり感染性の量的な測定に向いていた。IPCV-LのRNA 5µg/mlはインゲンマメの葉の半分に約25個の病斑を形成した。抽出したRNAは、等量のRNAを含むウイルス粒子の0.5%の感染性を示した。
 glyoxalate(グリオキサル酸)で処理したIPCV-LのRNAはアガロースゲルによる電気泳動で2本の主バンドを形成し、それぞれ1.83×106と1.35×106mol.wt.と推定された。これらの値は未変性の場合の値より低いが2粒子の長さの比とはほぼ一致していた。250nmの粒子は大きい方のRNA(RNA-1)を含み、184nmは小さいほうのRNA-2を含むと推察された。
 電気泳動で分離したIPCV-LのRNA-1と2をインゲンマメに接種したところ、少数の病斑が形成されたが、両者を混合して接種すると非常に増加した。このことは両RNAはIPCVの異なるゲノムでありインゲンマメに病斑を形成するためには、両者が必要であることが推察された。
 
Sequence homology between RNA preparations from IPCV strains and PCV
 IPCV-LのRNAおよびcDNAを用いたハイブリダイゼーションの試験を実施し、結果はTable 2に示された。IPCVの3株は明らかに本質的な共通の配列を持っており、IPCV-HとBはLに比べてより近縁であると思われた。IPCVの3株はPCV-WAとも配列を共有しているが、IPCVの3株同士よりも広範ではない。さらに、IPCV-Lとpepper ringspot tobravirusとは相動性は無かった。
 
Serological relationships of isolates
 Table3に、ISEM(immunosorbent electron microscopy 免疫捕捉電子顕微鏡法)で調査した、インド株、西アフリカ株、形態が似る他のウイルスの間の血清学的な類縁関係を示した。その結果、ジャガイモモップトップウイルスとSBWMV(コムギ萎縮ウイルス)の間にのみ関連が見られた。
 
Discussion
 核酸のハイブリダイゼーションテストの結果は、血清学的に関係が見られなかったIPCVの3株で塩基配列相動性が高く、PCV西アフリカ株との間も高かった。IPCVとPCVはラッカセイに同じような病気を起こし、同様な粒子の形態をもち、同様な実験上の宿主範囲(アカザ属、タバコ属)を持ち、土壌伝染、種子伝染性であった。血清学的な関係は無いが、著者らはIPCVの3株をPCVの系統であると判断した。
 棒状ウイルスの中でPCVはSBWMVと類縁性が高い。SBWMVはPolymyxaを媒介者とするが、恐らくPCVもそう考えられる。SBWMVは、コムギの全身感染に必要でポリアデニル化していないssRNAを2種の粒子に含んでいる。さらにSBWMVのRNA1の翻訳物は大きなポリペプチド、RNA2はウイルス粒子タンパク質を生じる。インドのPCVはコムギに感染する。両ウイルスは粒子の長さは異なる。Shirako&Brakke(1984)は、SBWMVは新しい糸状菌が媒介する棒状のウイルスグループの基準となるメンバーで、暫定的にfurovirusと命名された。PCVはそのグループの候補メンバーである。他の可能性のあるメンバーとして、ジャガイモモップトップウイルス、ビートえそ性葉脈黄化ウイルスがあり、ツボカビ類が媒介者でdsRNAを有するtobacco stunt virusは異なる。

インドでもピーナッツ・クランプ病と同様の症状のウイルス病が発生したが、ウイルスはピーナッツクランプウイルスとは血清学的な関係はなかった

2022-02-17 16:02:38 | 文献概要
マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(4)

Title: The occurrence of Indian peanut clump, a soil-borne virus disease of groundnuts (Arachis hypogaea) in India
(ラッカセイ(Arachis hypogaea)の土壌伝染性ウイルス病のIndian peanut clump病のインドでの発生)
Author: Reddy D V R et al.
Journal: Ann. appl. Biol. 102: 305-310 (1983)

★ラッカセイが茂み状になり強い生育抑制を起こすclump diseaseの病原として、PCVが知られていたが、インドでは別のウイルスであるIPCVが病原であることを示した。

Summary
 インドのPunjab州の砂質土のラッカセイ(Arachis hypogaea)に小さい暗い緑の葉をつけ、ひどく生育阻害がある病害が発見された。この病害は圃場にパッチ状に発生し、同じ位置の引き続き栽培されたラッカセイに再度現れた。生育初期に感染した植物では、成熟した莢を着生しなかった。汚染圃場から採取した土に播種すると、典型的な症状を示す植物が生育した。Phaseolus vulgaris cv. Local(インゲンマメ)とChenopodium quinoa(キヌア)は、診断に適した宿主であることを見出した。この病害は、酢酸ウラニル染色で、直径約24nm、主に長さ約249と184nmの棒状の粒子のウイルスに起因することが示された。Indian peanut clump virus(IPCV)と命名されたこのウイルスは、西アフリカから報告されたpeanut clump virus(PCV)と、ラッカセイの症状、粒子の形状、土壌伝染性の点で似ていた。しかし、microprecipitin(微量沈降反応)、ELISA、immunosorbent electron microscopy(免疫捕捉電子顕微鏡観察)で試験したPCVの2系統とtobacco rattle (PRNとCAM系統)、pea early browning virusと血清学的な関係はなかった。

Introduction
 激しい生育抑制が特徴のラッカセイの病害は、最初にインドのPunjab州で1977年に観察された。この病害の発生は、砂土と砂壌土に限られていた。Punjab州のSangrurでは、調査したすべてのラッカセイ畑にこの病害が存在し、他にも砂質土壌での栽培で被害が発生していた。本病原ウイルスは、西アフリカで発生しているPCVとは血清学的に異なるため、Indian peanut clump virus(IPCV)と命名した。

Materials and Methods
・Virus culture
・Host range
・Physical properties
・Soil transmission
・Electron microscopy
・Serology

Results
・Symptoms in groundnut
 圃場では図1のようにいつもパッチ状に病気が生じた。典型的な症状は2~3週令の苗に現れた。植物体は生育抑制があり、新しい四枚葉(quadrifoliates)に退緑したリングを伴うモザイク症状が現れた。その後、感染葉は暗緑色になり光に透かすとわずかに斑点が見えた。開花しても子房柄(peg)は、通常のサイズの莢にはならなかった。根は暗色になり外層ははがれ落ち、ピンク色の内層が現れた。汁液接種では、根の症状は無いがそれ以外のすべての症状が再現された。
・Host range
 局部えそ病斑(necrotic local lesions)、Canavalia ensiformis(タチナタマメ)、Cassia obtusifolia(エビスグサ)、Vicia faba(ソラマメ)。
 局部退緑病斑(chlorotic local lesions)、Chenopodium quinoa(キヌア)、Cyamopsis tetragonoloba(クラスタマメ)、Vigna unguiculate(ササゲ)。
 全身葉脈えそ(systemic veinal necrosis)、Phaseolus vulgaris(インゲンマメ)。
 全身モザイク(systemic mosaic symptoms)、Capsicum annuum(トウガラシ)、Cassia occidentalis(ハブソウ)、Crotalaria juncea(緑肥クロタラリアの一種)、Nicotiana clevelandii(和名不明)、N. hybrid(和名不明)、N. benthamiana(ベンサミアナタバコ)。
 未感染、Cajanus cajan cv.Sharada(キマメ、品種Sharada)、Datura stramonium(シロバナヨウシュチョウセンアサガオ)、Glycine max(ダイズ、品種Bragg)、Nicotiana rustica(マルバタバコ)、N. tabacum(タバコ、品種White Burley)、Pisum sativum(エンドウ、品種Bonneville)、Vigna radiata(リョクトウ)。
・Physical properties
 失活する温度は60~65℃、希釈限界は10-3~10-4。25~30℃の室温で20日以上活性を保った。
・Soil transmission
 10~25cmの深さの土壌を採集し、160粒のラッカセイを播種したところ72の苗に典型的な症状が生じた。発病植物の葉の汁液からはELISA法によってIPCVが検出された。
・Electron microscopy
 切片にはウイルス様粒子がヘリンボーン(矢筈模様)状に観察された。
 圃場感染または汁液接種のラッカセイ、N. hybrid、N. clevelandiiの葉の汁液中の棒状の粒子の密度は非常に低かった。ISEM法では他の方法に比べ100~700倍の粒子が観察された。粒子のサイズは酢酸ウラニル中で直径24±2nm、長さ249±8nmと184±4nm。
・Serology
 微量沈降反応ではIPCVの抗血清はN. hybridの健全汁液とは反応せず、罹病葉では力価が64倍であった。PCVアフリカ株、TRV、PEBVの抗血清とN. hybridの健全葉と罹病葉汁液は反応しなかった。ELISAによるテストでも同様の結果となった。

Discussion
 この論文では55年前に記録されたインドにおけるclump diseaseが、ウイルスによって起こることを示した。この病害は西アフリカのPCVと症状、土壌病害、ウイルス粒子において似ていた。しかし、血清学的な反応は異なった。さらに宿主範囲も異なった。PCVと比べて壊れたIPCVのウイルス粒子が多く観察されたことなどから、粒子は不安定な性質であることが示された。
 調査からIPCVはインドに広く分布し、ラッカセイの経済的損失を招いているとみられた。インド各地のIPCVの特性調査、媒介者の確認、粒子の分離、化学的特性調査、外国産およびインドの抵抗性遺伝子源の大規模スクリーニングが進行中である。


peanut clump virus (PCV)はPolymyxa graminisによって媒介され、イネ科植物が重要な役割を持つ可能性

2021-04-20 22:25:00 | 文献概要
マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(3)

Title: Further properties of peanut clump virus and studies on its natural transmission(ピーナッツクランプウイルスの詳細とその自然伝搬の研究)
Author: J C Thouvenel and Fauquet
Journal: Ann. appl. Biol. 97:99-107 (1981)

★ポイント★
  
peanut clump virus (PCV)がPolymyxa graminisによって媒介されることを推察したことを報告した論文。
PCVはラッカセイに感染するが、ラッカセイの根にはベクターのPolymyxa graminisの休眠胞子が観察されない。また、ラッカセイの根を接種源にしても他の植物に感染させることができていない。このことは、ラッカセイはウイルスにとっては好適な宿主だが、P. graminisにとっては適していない可能性を示している。また、PCVのライフサイクルを考えた場合、自然界で生活環が完結しているのはイネ科植物であり、イネ科植物が感染源として重要であることを示している。

要旨
PCV粒子の純化物は1.00のA260/A280値(光散乱の補正後)を持つ。それらは、183Sと224Sの沈降係数を持つ棒状粒子で、塩化セシウムによる1.32g/mlの密度である。PCVは、8科に属する36種の植物に感染する。PCVとbarley stripe mosaic(大麦斑葉モザイクウイルス)、beet necrotic yellow vein(ビートえそ性葉脈黄化ウイルス)、Nicotiana velutina mosaic(和名不明)、tobacco mosaic viruses(タバコモザイクウイルス)とは血清関係が無い。
 PCVはラッカセイにおいて2世代にわたり種子伝染するが、great milletモロコシ属和名不明(Sorghum arundinaceum)、Phaseolus mungo(インゲンマメ属)、Nicotiana benthamianaでは種子伝染しない。
 ラッカセイ、great millet、コムギはクランプ病が発生しているラッカセイ圃場の土に栽培すると感染する。土壌の感染性は、乾燥条件25℃、3ヵ月間は保たれる。ラッカセイの苗は洗浄した自然感染したS.a.の根を混合した滅菌土壌で栽培すると感染したが、自然感染したラッカセイや茎を加えたり、汁液接種したラッカセイを同時に栽培したりしても感染しなかった。作物中のまばらなPCVの分布はラッカセイへの土壌の感染性と、Polymyxa graminisの休眠胞子が捕捉用のS.a.の苗の根には検出されるが、ラッカセイにはされないことが関連している。
 PCVはS.a.の根に強く関係し乾燥に強い媒介者によって伝搬されることが示された。これらの理由から、P. graminisはPCVの媒介者と考えられた。

・この論文では、純化したPCV粒子のin vitro特性、宿主域、土壌からと種子でのウイルスの伝搬を記述した。

材料と方法の概要
 PCVはアカザ葉で増殖させ、純化したものを用いた。無病徴感染は、アカザかラッカセイへの戻し接種で確認した。その他、ウイルス濃度、吸光スペクトル、平衡沈降、超遠心の調査方法を記載。

結果の概要
Properties of purified PCV
 Density in caesium chloride 1.32±0.01
 Analytical ultracentrifugation 沈降係数183S、224S、330S
 UV absorption spectrum 最大270nm、最小249nm、Amax/Amin=1.32

Host range(汁液接種による)
アカザの粗汁液では阻害物質のために、接種が不成功になることがあるので、純化ウイルスを用いた。結果はTable 1で、以下の科に属する種が含まれる。Aizoaceae(ハマミズナ科 ツルナ属を含む)、Amaranthaceae(ヒユ科 ケイトウ属、センニチコウ属の種を含む)、Chenopodiaceae(アカザ科だがヒユ科に統合された フダンソウ属、アカザ属)、Cucurbitaceae(ウリ科 キュウリ属、カボチャ属)、Gramineae(イネ科 =Poaceae スズメノチャヒキ属、モロコシ属、コムギ属)、Leguminosae(マメ科=Fabaceae ラッカセイ属、タヌキマメ属、レンリソウ属、シナガワハギ属、Scrophulariaceae(ゴマノハグサ科、表に記載のある2種は現在では科が移動になり、オオバコ科キンギョソウ属、アゼナ科ツルウリクサ属)、Solanaceae(ナス科、タバコ属、ペチュニア属、ホオズキ属)。
 ラッカセイ品種については、調査した品種は感染率にばらつきはあるものの、すべての品種で感染した。すべての場合で接種葉は無病徴だが、クランプ状になり退緑斑、眼紋斑の全身症状が若い葉で観察された。

Serological tests
純化PCVとビートえそ性葉脈黄化ウイルス、Nicotiana velutina mosaic、タバコモザイクウイルスの抗体とはmicro-precipitin techniqueでは反応が無かった。PCV抗体とタバコモザイクウイルス、オオムギ斑葉モザイクウイルスとも反応が無かった。

Seed transmission
 本病が広範囲に離れた地点で見られることから、種子伝染の可能性が示唆され、過去の報告でも伝搬するとされている。本研究でも罹病植物から採取された種子の苗を調査したところ、19.2%がPCVに感染していた。Sorghum arundinaceum、Phaseolus mungo、Nicotiana benthamianaは種子伝染しなかった。

Soil transmission
 ラッカセイ、great millet、コムギは、汚染土壌に播種した場合にPCVに感染し、病徴は、ラッカセイ、コムギに生じた。25℃乾燥状態で3ヵ月経過した汚染土壌にラッカセイを播種した場合は、8%に病徴が生じた。
 圃場から採取したラッカセイとgreat milletの根を染色して検鏡したところ、great milletの根のみからplasmodiophoromyceteのものと思われる休眠胞子塊が観察された。他のステージの観察からは、exit tubeを伴う遊走子のうになる多核の変形体が観察され、Polymyxa graminisと考えられた。
 P. graminisの休眠胞子は、Sorghum cernuum、Triticum aestivum、T. durumや他のイネ科植物に観察され、PCVに感染した。しかし、ラッカセイには観察されなかった。
 発生地の中心部の汚染土壌に栽培した植物は周辺部に比べて、本病によく感染しP. graminisも観察された。
 感染したgreat milletからラッカセイとgreat milletにはPCVは伝搬したが、ラッカセイからラッカセイとgreat milletには伝搬しなかった。PCVに感染したgreat milletの根を乾燥し25℃で2年間保存後にgreat milletに接種した場合は、根にP. graminisは観察されたが、PCVには感染しなかった。

考察の概要
・完全な抵抗性品種は無かったが、他の品種に比べて感染しにくい品種は存在した。
・他の棒状ウイルスと血清学的な関連はない。
・伝搬試験の結果、PCVの自然条件下でのベクターは、Polymyxa graminisであることが示された。
・P. graminisはラッカセイの根に観察されないが、P. graminisが感染後に生育しない可能性が考えられる。PCVに感染したラッカセイが他の植物への感染源にならないことは、これを支持する。
・PCVは、環境条件によっては2年間で感染性を失うこともあるが、条件によっては持続する。
・P. graminisは低温で活性が高いにも関わらず、Clump病は30℃以下ではあまり進行しない。
・PCVはhordeivirusとtobamovirusの中間的なものであるかもしれない。