
食べすぎて、
すみません。
「子供の頃の自分にとって、最も
苦痛な時刻は、実に、自分の家の
食事の時間でした。」
そんな『人間失格』の一節からは
想像できないほど、実際の太宰治
は、よく食べよく飲む大食漢だっ
た。
高校時代は、いつも三杯分の味噌
汁を魔法瓶に入れ登校し、作家に
なってからも、その大食漢ぶりで
周囲を驚かせたという。
結婚後は、得に家では素材も調理
も出身地である津軽風にこだわっ
た。郷里から毛ガニが送られてき
たときなどは、大の男がまるで子
どものように有頂天になって喜ん
だ。
ほかにも、湯豆腐、筋子納豆、
根曲がり竹などが好物で、美知子
夫人は、自身の回想録で三鷹の
街を毎日食糧集めに奔走したこと
を記している。
『HUMAN LOST』の中の
「私は、筋子に味の素の雪きらきら
降らせ、納豆に、青のり、と、から
し、添えて在れば、他には何も不足
なかった。」という
主人公の語りも太宰自身の本心なの
だろう。
貪欲なまでの食事への執着は、
この作家の生きることに対する
力の限りの執着のように思えてくる。
食は 人をつくる。