ひねもすのたりのたり 朝ドラ・ちょこ三昧

 
━ 15分のお楽しみ ━
 

★『都の風』 第20週(115)

2008-02-18 08:06:31 | ★’07(本’86) 37『都の風』
★『都の風』第20週(115)

脚本:重森孝子
音楽:中村滋延
語り手:藤田弓子   なぜか「語り手」に

題字:坂野雄一
考証:伊勢戸佐一郎
資料:森 南海子  

   出 演

悠    加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女。

雄一郎 村上弘明 :悠の夫。「吉野屋」の息子。毎朝新聞の記者に復帰したが入院中

智太郎 柳葉敏郎 :悠の初恋の人。商社マンになった

良子  末広真季子:長屋の部屋の前住人、水仙で働く(笹原の妻)

デスク 田端猛雄 :毎朝新聞社会部のデスク

板前  田中雅和  「水仙」の板前


      アクタープロ
      キャストプラン
      東京宝映


お初  野川由美子:「水仙」の女将。かつて「おたふく」の女将で悠を預かっていた





制作 八木雅次

美術 増田 哲
効果 片岡 健
技術 沼田明夫
照明 田渕英憲
撮影 神田 茂
音声 土屋忠昭

演出 兼歳正英      NHK大阪

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

悠は誰の手も借りず、夜はお初の元で働きながら
雄一郎の看病を続けることに決めたのです。
しかし、その夜、商社マンに変身した智太郎が客として来るなど想像もしていませんでした。
智太郎もまた、雄一郎が病気であることを聞いても、悠の前に姿を見せる勇気はありませんでした



帰り支度をして薫を抱っこする悠

「女将さん」
「ああ、ご苦労さん。もう、あんたこんな遅なって帰らんでも泊まっていったらええのに」
「いいえ、近いし走っていったら大丈夫です。今日はおおきに」
「あんたも意地っ張りやなぁ。ま、それぐらいの気力がないと子ども抱えて生きていけんわな」
「はいっ」
「退院はいつになるやわからんし、さびしなったらいつでも泊まって行ってかまわんで」
「はい。薫がいたら寂しいなんて言うてられへんですし。この子が支えですし」
「ほな、気をつけてな」

障子を開けて、話しを聞く智太郎 (朝ドラ名物? 盗み聞き)

「あたし、そこまで送っていくわ。あそこ暗いやろ? なぁ~、薫ちゃん


智太郎のモノローグ
「奈良で幸せに暮らしていると思っていた。京都にも奈良にも帰れるはずなのに‥
 どうしてこんなところで働いているんだ」

「お客さん、もうご気分よろしいんですか」良子が聞きに来た
「はい、迷惑をかけました」
「いいえ。女将さんは、良かったらゆっくり泊まっていってくれはったらええのに言うてはります」
「いえ、帰ります」ネクタイをしめ直す智太郎
「大丈夫ですか」
「はい」

良子はお冷を片付けながら言う
「社長さんはもうお帰になられましたし、後でお宿までお送りするように言うてはりました」
「ありがとう」

「あ、君。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「はぁ」
「洗い場で働いている悠さんという人のことなんだ」
「はぁ」
「どうしてここで働くようになったのか」
「さぁ、私は詳しいことはわからしませんけど、
 ここの女将さんと古うからのお知り合いやそうですよ」
「女将は、昔からここで?」
「いいえ、戦争前は川筋で小さい食堂をやってはったんです。
 なかなかのやり手でねぇ、借金でここをドーンを買うてしまはったんです」
「その食堂というのは、『おたふく』という店ですか?」
「さぁ、名前までは‥ なんでも悠さんとはその頃からのお知り合いだそうですけど?
 あの‥、おともすぐ、お呼びしてよろしいですか?」
「ああ、頼みます。
 ああ、それから! 私が悠さんのことを聞いたことは、悠さんにも女将にも内緒にしてください」
「はぁ‥」

良子は出て行った


「‥‥ もう私とはなんの関係もない人だ。今さら何ができる。」

智太郎は、あのお水取りの日の別れを思い出していた
   「けど忘れません、5年前のことも、今日のことも‥」
   「ボクは多分忘れます。それでいいですね」
   「‥  」
   「もう一度だけ笑顔を見せてください」




悠は、薫を寝かしつけながら、寝巻きを縫っていた。
「上と下に別れていた方が便利やもんな。お父ちゃん、こんな寝巻き恥ずかしい、言わはるやろか」


翌日。

薫をベッドに座らせて、悠は雄一郎に着替えさせた
「よう似合いはる。やっぱりうちの思ったとおりや‥」
「しかしこんな派手なの着て、便所にも行けないよ」
「薫、お父ちゃんカッコええよなぁ」
「ホンマか?」
「ホンマやんなぁ」
「けど、こんなもん買うたんか?」
「はい。年末の大安売りで。いっぺんお洗濯したら柔らこうなってちょうどよろしい。
 それに袖口が広いから、お注射の時簡単やし、診察の時も便利やし。
 それに何より、病人らしいないのがよろしいな」
「はぁ‥」

そこに、ノック。 「よお!」と入って来たのはデスクだった。

「デスク!」
「変わった寝巻きだなぁ」
「いや‥」と慌ててベッドに入る雄一郎 「すみません」
「奥さんの手作りですか」
「はい」
「なかなかよろしい」
「しかしこの病室は明るくて見舞いに来た気がせんなぁ」
「部長さんからもおっしゃってください。こんなの着て廊下に出られへん言うんです」
「けっこうじゃないか。奥さんのおかげで病院暮らしも楽しそうで」
「はぁ」
「何だ、その顔は。 奥さん、これ」と見舞いの品を渡すデスク

「吉野、不本意だろうが、休職願い出してくれるか。
 実は今、医長に会ってきた、病状も聞いた。 今は何よりも休養が第一だそうじゃないか。
 病気休職なら、費用も社から出るし、まずゆっくり病気を治すことだ。
 社のことを気にしてイライラするより、そのほうが君も楽だし、奥さんも安心だろう。
 奥さん、こいつは素直すぎて一途なところがあるから、
 今は社のことを心配せずに元気になることだけを考えさせてやってください」
「はい。ありがとうございます」

「じゃ、よろしく頼みますよ。そいじゃ。  いえ、ここで結構ですから‥」


雄一郎は布団を叩き、
「原爆の放射線については、俺にだって少しは知識がある。
 医者に言われた時はショックだったが、はっきりとまだ放射線を受けてるとはわかってないんだ。
 まだ何にもわかってないのに、何が休養だ」
「部長さんも、親切で言うてくれてはんのやし」
「お前もデスクと同じことを言うのか」
「仕事も大事ですけど、うちは雄一郎さんの体の方が大事です。
 元気にならはったら仕事なんてなんぼでもできます」
「今が大事なんだよ、仕事は!」

「雄一郎さん、病気と戦うことも今の雄一郎さんの仕事のひとつとちがうんですか。
 何も、新聞に記事を書くことだけが仕事と違うって思います。
 もし、もし‥広島や長崎の人とおんなじ病気やったら、病気に勝つことのほうが大事やと思います。
 今ムリをして死んでしもうたら、戦争で命をなくすよりも惨めです。
 大丈夫、うちがついている限りきっと治してみせます。
 女将さんが言うてはりました。 惚れた男の人が生きててくれるだけでありがたい。
 薫やうちのために、今は自分の体のことだけ考えてください」



薫をおんぶして、水仙に「今日は!」と入っていく悠

「ご苦労さんです」と板前

良子さんが「ちょっと‥」と悠を手招きし
「女将さんにも内緒にしててほしんやけどね」と、懐から封筒を渡す
「お客さんがあんたに渡してくれって」

「お客さんて?」
「私もわからへんねんけど、昨日、高橋興業の社長さんと一緒に来はったお客さん」
「けど、何でうちに」
「昔の食堂のこと、よう知ってはる人みたいやしね。その頃のあんたを知ってた人と違うかなぁ?」
「けど‥」
「ま、手紙読んだらわかりますやんか。な、渡しましたで」

その場で開けた封筒にはお札が入っていた

サラリーマンの初任給が6~7千円と言われていたその頃、悠には思ってもみない大金でした



悠はあわてて、お初のところに行った。

「わー、手が切れそうなお札やなぁ。いや~、まさかにせもんとちゃうやろな」
「女将さん! そんな暢気なこと言うてはらんと、はよちゃんと調べてもろうてください」
「今さっき社長さんに電話したら外出中やて。で帰ってきたらすぐここに電話もらうことになってますがな」
「とにかく、どんなお人でも、こんなお金いただくわけにいきません」
「けどやで。悠の主人が病気やって聞いてこれ置いていかはったんやろ?
 となると、あの人、奈良の吉野屋さんの常連さんかもしれんで」
「けど、それやったら、なんにもこそこそせんでも、堂々とウチに会うてくれはったらよろしいのや」
「それもそうやなぁ。いや、東京から来はったな大事な客さんやって、社長さん言わはったんや。
 あ、おたふくの頃にやな、あんたに片思いしてた人がいたんかも知れんがな」
「そいでも、名前ぐらいちゃんと言うてくれはったらええのに」

「うん。名前は言えんやろ、東京から来た人やろ、年カッコからすると‥ まさか!
 わては、ちらっとたったいっぺん会ったきりやから 」
「いいえ、違います。あのお人は大学病院の先生か、お医者さんになってはります」
「そうか」
「それにあのお人は、うちのこと忘れるって、そうハッキリ言ってくれはったんです。 
 ウチが雄一郎さんと結婚したことも知ってはりますし、
 それやったら堂々と会うてくれはると思います」

「あんた、もう ‥‥ 好きでもなんでもないんか? 」

「(はい) 復員して奈良に来はったとき、ウチ、はっきり雄一郎さんが好きやて言いました」
「そうか‥」
「懐かしい気持ちはありますけど、こんなことしはるお人と違います」
「智太郎さんとは違います」
「そやな。商社にお勤めして、洋行までしてきた言うてはったし
 それなら堂々とあんたの前に現れてもええ筈やな」
「どっちにしても、このお金は女将さんの方からちゃんとお返ししといてください」
「もったいない~、あんた~。恩返しなら直接本人に会って渡してやってくれ言いますがな」
「どんなお人でも、こんな大金、いただけません」


「女将さん、高橋興業の社長さんからお電話です」と良子が呼びに来た

「そうか、はいはい、来ました来ました、来たで」

もしその人が智太郎であったなら、悠は今は、ただ懐かしい気持ちで会ってみたいと思っていました



(つづく)


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。