「私のしあわせが姉上のしあわせなのですか。」と大津は驚いて聞いた。
「そう。もし大津がふしあわせであれば我もふしあわせになってしまう。ただそれだけよ。」と優しく微笑み大伯は答えた。
「私は天皇家の安泰を願って生きています。でもやはりどこかで大津を気にかけているわ。」
「同母姉弟だからですか。」
大津がすがるような瞳をして聞いた。
大伯は、皇后陛下から聞かされた真実を一瞬大津に伝えたい気持ちになった。しかし抑えて「たった2人の姉弟なのよ。父上は天皇でおありだし、父上とお呼びするには畏れ多いわ。国父であられるし、母は、お亡くなりになられて…ね。だからあなたは特別よ。」とたどたどしく答えた。透き通っている白い肌がやや紅潮しているのが大津にもわかった。
それでも大津は言いたかった。
「父上はどうしてたった2人の姉弟をこんな風に遠く
お離しになられたもうたか。姉上の年齢で母はもう私を産んでいた。父上はどうして皇女として妻になり母になるしあわせをお奪いか。納得いかない。」
「大津…でも草壁皇子とて兄弟もなく私たちよりもお寂しいかもよ。」と大伯は嘘をついた。額の勾玉が少し揺れた。
「大丈夫ですよ。あ奴には皇后がおられる。それに皇后は天皇の第一の妃であるし。母が生きてさえいれば間違いなく皇后は我らの母であったのだし。」と白けたように大津は言った。
確かに大田皇女は、今の皇后の姉であり、生きていれば間違いなく天皇の第一妃で皇后にもなっていただろう。
大津は「天皇が私に教えてくれました。数多い妃の中でも本当に愛していたのは我らの母であったと。大田の面影を探して何人も妃にしたが結局余は大田でしか満足出来なかった、と。大田皇女、母の生き写しが姉上なのだとも。」と一気に言った。
悲しそうな顔の大津に違うのよ、あなたの母上は皇后様なのと何度か言いかけそうになるのを喉の奥で大伯は堪えた。
「でもあなたがひきつぎのみこ…皇太子なのだから。皇后さまが第一妃でも父上と皇后さまは草壁皇子を皇太子にしなかったことを考えるとあなたを大切にしていると…ひいては母、大田皇女を大切にしてくださっているお二人のお気持ちを大切に受け止めなくてはね、大津。」
「はい。」と昔、近江で悪戯をしては姉に叱られ、慰められていた頃を思い出し大津は返事をした。
大伯も同じように昔を思い出し、くすっと笑った。
逞ましい身体に成長しても心の素直さが可愛らしくてたまらないと思った。
「姉上は女神なのですね。」と大津はぼそっと言った。
「我が女神ですか。」
「誰にも触れさせない清らかさ、美しさを保ち私を見守ってくださる女神さま。私が草壁皇子に嫉妬していたのが馬鹿らしく感じるほど…姉上は私にとって母であり女神さまです。しかし、それが私には悔しい。」と大津が言うと大伯は一瞬戸惑ったが少し勇気を出し「大津と一緒よ。大津が悔しいのなら我も悔しいわ。」と言った。
そしてお互いを見つめあい、「私がしあわせなら姉上もしあわせなのですよね。」と大津が言い「そうよ。」と大伯が言うと大津は「では姉上はしあわせですね」と言い二人とも少し笑った。
笑ってしまったのは、嬉しいのにお互いの立場を守らなくてはと心にお互い隠した気持ちを大伯も大津も感じていたからであった。しかし隠した気持ちがお互いいつのまにか切なさに変わっているのも気づいていた。
「そう。もし大津がふしあわせであれば我もふしあわせになってしまう。ただそれだけよ。」と優しく微笑み大伯は答えた。
「私は天皇家の安泰を願って生きています。でもやはりどこかで大津を気にかけているわ。」
「同母姉弟だからですか。」
大津がすがるような瞳をして聞いた。
大伯は、皇后陛下から聞かされた真実を一瞬大津に伝えたい気持ちになった。しかし抑えて「たった2人の姉弟なのよ。父上は天皇でおありだし、父上とお呼びするには畏れ多いわ。国父であられるし、母は、お亡くなりになられて…ね。だからあなたは特別よ。」とたどたどしく答えた。透き通っている白い肌がやや紅潮しているのが大津にもわかった。
それでも大津は言いたかった。
「父上はどうしてたった2人の姉弟をこんな風に遠く
お離しになられたもうたか。姉上の年齢で母はもう私を産んでいた。父上はどうして皇女として妻になり母になるしあわせをお奪いか。納得いかない。」
「大津…でも草壁皇子とて兄弟もなく私たちよりもお寂しいかもよ。」と大伯は嘘をついた。額の勾玉が少し揺れた。
「大丈夫ですよ。あ奴には皇后がおられる。それに皇后は天皇の第一の妃であるし。母が生きてさえいれば間違いなく皇后は我らの母であったのだし。」と白けたように大津は言った。
確かに大田皇女は、今の皇后の姉であり、生きていれば間違いなく天皇の第一妃で皇后にもなっていただろう。
大津は「天皇が私に教えてくれました。数多い妃の中でも本当に愛していたのは我らの母であったと。大田の面影を探して何人も妃にしたが結局余は大田でしか満足出来なかった、と。大田皇女、母の生き写しが姉上なのだとも。」と一気に言った。
悲しそうな顔の大津に違うのよ、あなたの母上は皇后様なのと何度か言いかけそうになるのを喉の奥で大伯は堪えた。
「でもあなたがひきつぎのみこ…皇太子なのだから。皇后さまが第一妃でも父上と皇后さまは草壁皇子を皇太子にしなかったことを考えるとあなたを大切にしていると…ひいては母、大田皇女を大切にしてくださっているお二人のお気持ちを大切に受け止めなくてはね、大津。」
「はい。」と昔、近江で悪戯をしては姉に叱られ、慰められていた頃を思い出し大津は返事をした。
大伯も同じように昔を思い出し、くすっと笑った。
逞ましい身体に成長しても心の素直さが可愛らしくてたまらないと思った。
「姉上は女神なのですね。」と大津はぼそっと言った。
「我が女神ですか。」
「誰にも触れさせない清らかさ、美しさを保ち私を見守ってくださる女神さま。私が草壁皇子に嫉妬していたのが馬鹿らしく感じるほど…姉上は私にとって母であり女神さまです。しかし、それが私には悔しい。」と大津が言うと大伯は一瞬戸惑ったが少し勇気を出し「大津と一緒よ。大津が悔しいのなら我も悔しいわ。」と言った。
そしてお互いを見つめあい、「私がしあわせなら姉上もしあわせなのですよね。」と大津が言い「そうよ。」と大伯が言うと大津は「では姉上はしあわせですね」と言い二人とも少し笑った。
笑ってしまったのは、嬉しいのにお互いの立場を守らなくてはと心にお互い隠した気持ちを大伯も大津も感じていたからであった。しかし隠した気持ちがお互いいつのまにか切なさに変わっているのも気づいていた。