たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子15

2018-12-23 20:35:24 | 日記
山の裾野から近江の湖へと霧が流れ立ち込めている。

姉上が立っている。誰よりも美しい、優しい人。

太陽も霧で白く見える。

手招きし微笑んでいる。

思わず強く抱きしめた。二人の身体に隙間が出来ぬよう。

温もりが消え驚いて目を開けると暗闇であった。

夢か…新妻の山辺皇女が背中の後ろで横になっている。

山辺皇女をいつか抱く日が来るかもしれないが、今はだめだ。

姉上と再会したばかりで、無理だ。

大津は部屋の外に出た。月光が大津を濡らした。

濡れたまま東の空に向かい拝んだ。

月光を逃れたさんざめく星の輝きを見つめ大伯のしあわせを祈った。

朝になるまで。

夢でいい、姉上また逢いに来てください。


大伯は目が覚め先ほどまで温かいものに包まれていた感覚を拭えないでいた。

戸を開け月光のもと大津はそこにいると大伯は感じた。

私が今まで感じていなかっただけで大津と私はいつも一緒なのね。

この月光は大津であり、照らされている草木のあいだにも広がっている。

寂しいと感じるのは私の心が作った幻にすぎない。

きちんと感じるだけなのだわ…大津はそこにいる。

私の手のひらにも、草木、花、川の流れ、風の中、揺れるろうそくの灯りの火にも、全てに私がどう感じるだけなのね。

大伯は偶然知りえた、しあわせに手を合わせ感謝していた。

心無い皇女達に、天皇の第一皇女なのに孤島のようなところでお可哀想と言われるという場所でも。