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福岡地裁による「被疑事実の要旨」に、抜け落ちている部分があることが、ハッキリしたので、ここで、改めて、不起訴処分の妥当性について検証してみたいと思う。
1.不起訴処分の理由
被疑事実は、事実であったとしても、公務員職権濫用罪の構成要件には該当しない。
2.公務員職権濫用罪の構成要件
公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した。
3.被疑事実の要旨
被疑者◯◯◯◯、同◯◯◯◯及び同◯◯◯◯は、福岡市中央区城内所在の福岡高等裁判所裁判官であったものであるが、被疑者らは、共謀の上、平成26年6月24日、請求人の実母が提起した不動産の共有持分に基づく不当利得返還請求訴訟の控訴審判決において、前訴訴訟物が「『単独所有権』に基づく不当利得返還請求権」であったのに、前訴訴訟物が「『所有権』に基づく不当利得返還請求権」であったと判断した上、前訴の既判力は「『所有権』に基づく不当利得返還請求権は存在しない」旨の判断であったと認定した上、共有持分は所有権の一部であることを理由に、本訴の共有持分は、前訴の所有権に含まれ、前訴の既判力により、本訴の不当利得返還請求は認められない旨判断し、もって職権を濫用して、同人の不当利得返還請求権の行使を妨害した。
4.職権濫用行為について
⑴ 前訴既判力について
前訴訴訟物(審判の対象)は、単独所有権に基づく不当利得返還請求権であって、前訴既判力は(単独所有権が不存在であるから)単独所有権に基づく不当利得返還請求権は存在しない旨の判断である。
⑵ 被疑者らが認定した前訴既判力について(既判力の捏造行為)
前訴訴訟物(審判の対象)は、所有権に基づく不当利得返還請求権であって、前訴既判力は(所有権が不存在であるから)所有権に基づく不当利得返還請求権は存在しない旨の判断である。
⑶ 後訴訴訟物について
後訴訴訟物(審判の対象)は、共有持分に基づく不当利得返還請求権である。
⑷ 前訴既判力に抵触するか否かについて
ア.上記⑴と⑶は、矛盾抵触しない。
(単独所有権が不存在であるから)単独所有権に基づく不当利得返還請求権は存在しない旨の判断と(共有持分は存在するから)共有持分に基づく不当利得返還請求権は存在する旨の判断は、矛盾抵触しない。なぜなら、単独所有権が不存在であっても、共有持分は存在する可能性があるから。
イ.上記⑵と⑶は、矛盾抵触する。
(所有権が不存在であるから)所有権に基づく不当利得返還請求権は存在しない旨の判断と(共有持分は存在するから)共有持分に基づく不当利得返還請求権は存在する旨の判断は、矛盾抵触する。なぜなら、前訴において、所有権の不存在が確定しているから。
⑸ 権利行使の妨害について
以上により、共有持分に基づく不当利得返還請求権(上記⑶)は、前訴既判力に抵触しない(上記⑷のア)のに、被疑者らの既判力の捏造行為(上記⑵)によって、前訴既判力に抵触する(上記⑷のイ)旨の判断を下されたので、その権利行使を不当に妨害された。
5.結論
わざわざ、このように理論づけしなくても、被疑者らによる既判力の捏造、そして、そのことによる正当な権利行使の妨害行為は明らかであるから、被疑者らの職務上の行為が、公務員職権濫用罪の構成要件に該当するのは当然である。
よって、被疑事実は罪にはならないとした不起訴処分は、明らかに間違いである。