-The late Pliocene Greek megafauna-
背景にエーゲ海を望む鮮新世時代のギリシャに特有の動物相は、下記のとおり。
ボルソン(ボーソン)マストドン(Mammut borsoni)は、旧大陸を代表するマストドン科・マストドン属の長鼻類です。本種の化石を世界で初めて所蔵した博物館の館長、A.E.Borson氏に因んで命名されたとのこと。
1834年以来、南欧産を中心にごく断片的な骨格は集積していたものの、1996年より断続的に実施されている、ギリシャのミリア古地層での発掘は、相次ぐ重大な発見をもたらしました(Agusti, 2002)。
頭骨に関しては保存状態のよい下顎や歯、長大な直牙型の象牙を含めて、かなりのところまで全貌が分かってきています。
下顎に矮小ながら残存する一対の象牙など、北米マストドンや南米ゴンフォテリウム科種には絶えて見られない原始的形態であり、長鼻類進化を考える上でも価値ある発見だと思います。'postcranial' の情報は対照的に乏しいとはいえ、ほぼ完全な長骨を含む四肢骨などが知られています。
早くも96年の発掘では当時の最長記録となる4.39mの象牙がお披露目しましたが、2007年には片方が5.02mに達する一対の象牙が出て、記録は大幅に塗り替えられました(Mol,Van Logham, 2008)。
本種はマストドン科の最大種になります。雄成獣の肩高は、先の四肢骨長に基づいて3.5mほどと推定されていましたが、2007年発掘によるpostcranial の追加情報を受けて、およそ4mに上方修正されました(Mol,Van Logham, 2008)。ゾウ科やデイノテリウム属の巨大種と比べてもそん色ない大きさですが、サイズについて特筆すべきは、ゾウ科種よりも長い胴を持つ点と、四肢の骨幅(limb bone
circumferences)の分厚さ、すなわち、マストドン特有の超重厚な骨格をも兼備していた点。
生前の推定体重はといえば、15t を超えます(Larramendi, 2015)。
本種に比肩しうる力強さの陸獣は、鮮新世中、いや、新生代全体で見ても、皆無だったとすら、言えるかもしれません。
なお、古くは本種をジゴロフォドン属(Zygolophodon)に分類する試み(Kurten,1968)もみられ、現在までに複数のシノニムが知られていますが、マストドン属か否かに拘わらず、マストドン科(Mammutidae)の種類であるということについて、一応の総意は得られているようです。
本作は、完成までもう少し手を入れていくことになります。あわせて、生息地などについても詳細を付加したいと思います。
それでは、よろしくお願いします。
:手前から:
ボルソンマストドン Mammut / Zygolophodon borsoni
ヨーロッパニルガイ Boselaphine bovid
エトラスカサイ Dicerorhinus sp.
ジャイアントシミターキャット Homotherium crenatidens
(南欧やアナトリア産の亜種は北方ヨーロッパ産よりも小型だとはいえ、現生の雄クルーガーライオン大になった。ホモテリウム属種とロコタンジャイルルス属種のいわゆる「シミターキャット」は、マカイロドゥス亜科(剣歯猫群)のうち、唯一走行性(cursoliality)に特化していたという、変わり種である)
ヒッパリオン属種 Hipparion crassum
アグリオテリウム属種 Agriotherium sp.
(最大クラスのクマ科種。ショートフェイスベア群と同様、肉食傾向性が強かった)
オーヴァーニュマストドン Anancus arvernensis
(アナンクス属種。「マストドン」という俗称とは裏腹に、ゴンフォテリウム科に分類されている。長大な直牙型の象牙を有する点はボルソンマストドンと共通するが、象牙の形状には違いがある)
ヨーロッパガゼル Gazella borbonica
イラスト&テキスト ⓒThe saber panther サーベル・パンサー
あと、ボルソンマストドンの下顎の牙の使い道はあったのでしょうか?小さいので、役に立ちそうにもないですが。
おっしゃる通りです。
鮮新世-更新世境界のヴィラフランカ期の前半まで生き残っていたボルソンマストドンが滅んだのち、
南方マンモスが欧州の地に現れたという流れです。
ボルソンマストドンの下顎tushは消失する手前のところまで退化しています。
事実上、使い道などはなかったでしょうね。
それでは、ヨーロッパカバの絶滅しなかった理由が説明できないのですが、ヨーロッパカバはどうやって生き残ったのでしょうか?
力を得た、ということは事実でしょうね。ただ、初期マンモスである南方マンモスは、まだグレー
ジングに特化していたわけではないし、ボルソンマストドンの歯形もある程度ヴァーサタイル
で、色々な植生に対応できた(いわゆる、mixed feeder)ようです。彼らの栄枯盛衰劇の裏に
は、別の諸要因があったのかもしれません。
ヨーロッパカバが長く存続したことは、確かに興味深いですね。ご質問に答えるというよりも事
実をありていに述べると、ヴィラフランカ期末尾に欧州に出現したヨーロッパカバ(アフ
リカ起源)は、更新世後期まで生き延びました。無論、間氷期に大きく栄えたわけですが、エム
間氷期の頃にブリテンのような高緯度地域に定着していたというから、驚きです。更新世の間
氷期は今日より温暖な場合が多いとはいえ、冬季の氷結など、障害は多そうですが。我々の
想像以上に、寒地適応力に優れていたということでしょうか。驚異的なサイズも、この適応のプ
ロセスで得た特徴かもしれません。ちなみに、グレイザーとされます。