1%の“インフレ目標”完成? 日銀、28日に政策会合
2011/4/27 15:56 ニュースソース 日本経済新聞 電子版
日銀は28日、金融政策決定会合を開く。資産購入拡大など追加緩和策は温存する方向だが、望ましいインフレ率を対外的に示す「中長期的な物価安定の理解」は、見直しがあり得る。4月に就任した白井早由里審議委員(前慶応大教授)が、前任の須田美矢子氏と異なり「望ましい物価上昇率の中心は1%」という点で他のメンバーと足並みをそろえるなら、1%が日銀にとっての事実上のインフレ目標である点が明確になりそうだ。それは同時に、「女性の審議委員は(物価上昇により警戒的な)タカ派」という“常識”が崩れる可能性が出てきたことも意味する。
「物価安定の理解」は、正副総裁および審議委員からなる政策委員会メンバーが、中長期的にみて物価が安定していると理解する消費者物価上昇率の水準を出し合って決めたものだ。日銀はインフレ目標と呼ばないが、それに近いものと見なして差し支えない。見直しが必要かを点検する作業を年1回やっており、昨年4月末に決まった現行の内容は「委員の大勢は1%程度を中心と考えている」となっている。
これを読んで、何となくインパクトが弱いと感じる人もいるだろう。「大勢は」が入っているためだ。3月に退任した須田前審議委員が他のメンバーと比べて低めのインフレ率を主張したことへの配慮から入れた文言である。後任の白井氏が「1%を中心と考えている」物価観を持っているなら、1年ぶりとなる今回の点検作業で「大勢」を落とせる。過去数年間、「物価安定の理解」は「1%」が徐々に強調される形で変遷を経てきており、「大勢」がなくなれば、1%の“インフレ目標”がいわば完成するわけだ。物価だけを過度に重視せずに資産価格などにも目配りして政策を運営するという建前もあるため、日銀は公の場でそう明言はしないだろうが……。
その結果、どんな効果が生まれるのか。日銀はかねて、ゼロ金利政策解除の時期を決める際に「物価安定の理解」を主な物差しとして使うとしてきた。「中心は1%」をはっきりと打ち出せば、1%の物価上昇が見通せない限り日銀は利上げしないという受け止め方が市場にさらに浸透するだろう。長期金利を低位安定させる時間軸政策の効果が強まる可能性も指摘される。ただ、時間軸効果が強まるかは、日銀が今回、同時にまとめる物価見通しにも左右される点には留意が必要だ。また、日銀は表向きは認めないだろうが、政策委メンバー全員が同じようなスタンスをとるようになれば、今後1%をさらに上げて時間軸効果を強める追加緩和の合意形成がやりやすくなる面もありそうである。
では、肝心の白井氏の出方はどうなるのか。審議委員就任時の記者会見でヒントは与えなかったが、須田氏のような主張はしないのではないかという声が日銀内や市場で聞かれる。その結果、「1%が中心」とする点で白井氏が他の委員と足並みをそろえるなら、デフレよりインフレのリスクを重視するタカ派という従来の女性審議委員のイメージを変える動きという見方も出そうだ。
1998年の新日銀法施行後、政策委員会のメンバーのうちひとりは女性枠と見られていて、白井氏は3代目。初代の篠塚英子氏は超低金利政策に批判的な発言が目立ち、2代目の須田氏は長期金利低下を促すための国債買い増しに反対するなど、いずれもタカ派的だった。白井氏が須田氏より高い物価上昇率を主張するなら、その分将来の利上げ時期が遅れる可能性を受け入れることを意味する。それだけで白井氏をハト派と決めつけるのは早計だが、タカ派とはいいにくくなるかもしれないのである。いずれにせよ、白井氏がどんな物価観を披露するのかを注視したい。
(編集委員 清水功哉)
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