米の「アジア重視」修正に備えよ 平和安全保障研究所理事長・西原正
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121113/plc12111303150004-n1.htm
アジア最重視戦略を掲げたオバマ米大統領が再選された。地域覇権や海洋強国を目指す中国を牽制(けんせい)する必要 はあるとしても、2期目のオバマ政権が、イランの核、シリアの内戦、エジプトの不安定、リビアのアルカーイダ系テロ活動などが続く状況で、中東・アフガニ スタンから手を引くことが賢明な戦略かどうかは疑問である。
米国はまだまだ、これらの地域から目が離せないはずである。日本は、オバマ政権がアジア最重視戦略の修正を迫られるというシナリオも想定して、外交および安全保障政策を進めるべきである。
≪オバマ氏重要課題はイラン核≫
現在の重要な安全保障問題の一つはイランの核開発である。9月27日、イスラエルのネタニヤフ首相は国連総会の演説で、イランの核開発を阻止する ためのレッドライン(越えてはならない一線)の「基準」を設けるべきであると説いた。同首相によると、イランは遅くとも来夏には、ウラン濃縮を最終段階に もっていくことができるとし、その後1年以内に起爆装置を設置可能だ、と説明した。
民主党のオバマ大統領は、軍事力行使の選択肢を排除しないとしながらも外交手段による解決を主張してきたが、選挙戦では共和党のロムニー陣営から イランに対する「弱腰」を強く批判された。2期目のオバマ政権は、イランに対してより強硬な姿勢をとらざるを得ない。でなければ、「イランの核保有を許し た大統領」というレッテルを貼られることになる。
イスラエルがイランに対し軍事的に動けば、米国も引きずり込まれるであろう。イランによるペルシャ湾封鎖は自国の首を絞めることになるので、可能 性は低いと思われるが、日本を含む西側約30カ国の海軍はこの9月にペルシャ湾封鎖を想定した機雷掃海合同訓練をすでに行った。日本も深刻な事態を考えて おかねばならない。
「アラブの春」はチュニジア、エジプトなどでは、比較的短期間に体制変革をもたらした。しかしシリアでの「アラブの春」は、2011年1月から間 もなく2年になろうとしているが、アサド政権の反体制勢力への弾圧が続き、内乱は、激化するとともに、周辺国との対立をも拡大させている。
≪周辺巻き込むシリアの内乱≫
隣国レバノンには、シリアのアサド政権側(イスラム教シーア派系とされるアラウィ派)と反体制側(スンニ派)の宗教的対立が波及している。スンニ 派が多数を占め同派の盟主であるサウジアラビアは反体制側を支援し、シーア派の指導国としてサウジと敵対するイランは、アサド政権側を支援し兵力や武器を 送りこんでいる。
シリアは北隣のトルコとも緊張関係にある。トルコは、両国にまたがるクルド少数民族がシリアを独立運動の拠点にしていることを警戒している。そし て10月には、トルコがシリアの民間旅客機を強制着陸させて調べたところ、ロシアの軍事企業からの軍事物資が発見された。NATO(北大西洋条約機構)加 盟国のトルコが、シリアと本格的に軍事衝突すれば、米国は巻き込まれることになる。
米国はこれまでのところ介入を控えているが、オバマ大統領は8月、「アサド政権が化学兵器を移動ないし使用する兆候があれば米軍の出動を命じる」と明言した。
米国やイスラエルがアサド政権を攻撃することになれば、同政権側はイラン、ロシア、中国の支援を受けるであろう。そうなれば、シリアをめぐってNATOとロシア・中国が対立することになる。米軍のイラク撤退は、中東に新たな複雑な力関係を生んでいる。
≪南西アジアの「バルカン」化≫
米欧軍が14年末にアフガンからも全面撤退することになれば、イスラム原理主義武装勢力タリバンを勢いづかせることになる。すでに首都カブールや米軍基地もタリバンの攻撃を受け始め、米欧軍が訓練したアフガン兵の多くがタリバン側に寝返っているという。
米欧軍が撤退した後は、西アジアおよび南アジアが「バルカン化」するとの説が有力である。
アフガンでは、インドと中国が影響力を競い、パキスタンは米中角逐の場となりそうである。パキスタンは米国から莫大(ばくだい)な支援を受けなが ら、米国との信頼関係が築けず、強い反米感情を抱く。パキスタンは、敵性国インドとの競合関係にある中国と密接な関係にある。その中国はインド大陸を取り 巻いて首飾りのように並ぶミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンにある港湾施設の軍事目的化を進めて、「真珠の首飾り」作戦を実現しつつあ る。米印関係が強化される所以(ゆえん)である。インド洋のシーレーンの安全は、日本にとっても極めて重要だ。
こうみてくると、オバマ政権のアジア最重視戦略は、米国および友邦国の国益を守る上において、本当に賢明なことか疑わしい面がある。日本にしてみ れば、米国が中東に再び軍を派遣する可能性があることを想定して、中東でどのような協力ができるのか、またアジア太平洋において米軍の力をどう補完するの かに関して真剣な検討がこの点からも必要である。(にしはら まさし)
© 2012 The Sankei Shimbun & Sankei Digital
※赤外線
中東におけるアメリカの外交政策が、上記の論文のように変革を余儀なくされ、戦力の相当部分を中東に投入することを余儀なくされた場合、南西太平洋における日米対中の戦力均衡が崩れる可能性がある。
その場合、尖閣諸島の中国侵攻の可能性は増大する。政府、防衛庁の指導者たちに、その備えはできているか。根本的には、米国の弱体化と中国の国内体制の危機の深刻化にともない、日米安全保障条約の効力の弱まることを想定しておかなければならない。防衛省の解体と、国防省の創設、核武装など、日本の自主防衛能力の強化を早急に実行してゆくべきだろう。