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日本共和国憲法私案要綱

2023年07月20日 | 憲法研究

 

日本共和国憲法私案要綱

日本共和国憲法私案要綱

昭和二十年十一月二十一日 十二月十日 高野岩三郎
根本原則 天皇制ヲ廃止シ、之ニ代ヘテ大統領ヲ元首トスル共和制採用
参考 北米合衆国憲法
ソヴィエット聯邦憲法
瑞西聯邦憲法
独逸ワイマール憲法
現行帝国憲法制定ノ由来ト推移△
現行憲法ヲ改正シ政体ヲ変更スルニ現時ヲ以テ絶好ノ機会ナリトスル理由
△明治初期ニ於ル民権論ノ興隆、之ニ対スル藩閥政府ノ対策、国会開設ノ誓約、憲法ノ制定、其ノ以後ニ於ル軍閥ノ一貫セル組織的陰謀、最近ニ至ルマデノ民衆ノ奴隷化、現時ヲ以テ絶好ノ機会ナリトスル理由ハ「憲法改正要綱」ノ中ニアリ
上記根本原則ニ基テ立案セル憲法私案ノ要綱

一、 第一章 主権及ビ元首

日本国ノ主権ハ日本国民ニ属スル
日本国ノ元首ハ国民ノ選挙スル大統領トスル
(帝国憲法第一条乃至第五条削除)
大統領ノ任期ハ四年トシ、再選ヲ妨ゲザルモ三選ヲ禁ズル
大統領ハ国ノ内外ニ対シテ国民ヲ代表スル
立法権ハ国会ニ属スル
国会ノ召集 其ノ開会及閉会ハ国会ノ決議ニヨリ大統領之ニ当ル、大統領ハ国会ヲ解散スルヲ得ズ
国会閉会中公益上緊急ノ必要アリト認ムルトキハ大統領ハ臨時国会ヲ召集スル
大統領ハ行政権ヲ執行シ国務大臣ヲ任免スル
条約ノ締結ハ国会ノ議決ヲ経テ大統領之ニ当ルv 爵位勲章其ノ他ノ栄典ハ一切廃止、其ノ効力ハ過去ニ於テ授与サレタルモノニ及ブ

一、 第二章 国民ノ権利義務

国民ハ居住及ビ移転ノ自由ヲ有ス
国民ハ通信ノ自由ヲ有ス
国民ハ公益ノ必要アル場合ノ外、其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ〔営業ノ自由ヲ含ム〕
国民ハ信教ノ自由ヲ有ス
国民ハ言論著作出版集会及結社ノ自由ヲ有ス
国民ハ労働ノ権利、生存ノ権利ヲ有ス
国民ハ教育ヲ受ルノ権利ヲ有ス
国民ハ文化的享楽ノ権利ヲ有ス
国民ハ休養ノ権利(労働不能トナレル勤労者ノ休養、妊婦産婦ノ保護等ヲ含ム)ヲ有ス
国民ハ憲法ヲ遵守シ社会的共同生活ノ法則ヲ尊重奉スルノ義務ヲ有ス
国民ハ納税ノ義務ヲ有ス

一、 第三章 国会

国会ハ第一院及第二院ヨリ成ル
第一院ハ選挙法ノ定ムル法ニヨリ国民ノ直接選挙シタル議員ヲ以テ組織ス
第二院ハ各種ノ職業及ビ其ノ内ニ於ル階層ヨリ選挙セラレタル議員ヲ以テ組織ス、議員ノ任期ハ三年トシ毎年三分一ヅツ改選スル
何人モ同時ニ両院ノ議員タルヲ得ズ
二タビ第一院ヲ通過シタル法律案ハ第二院ニ於テ否決スルヲ得ズ
両院ハ各々其ノ総議院三分一以上出席スルニ非ザレバ議決ヲナスコトヲ得ズ
両院ノ議事ハ過半数ヲ以テ決ス可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
両院ノ議事ハ一切公開トシ、之ヲ速記シテ公表スヘシ
両院ハ各々其ノ議決ニ依リ特殊問題ニ就テ委員会ヲ設ケコレニ人民ヲ召喚シ意見ヲ聴聞スルコトヲ得
両院ノ議員ハ院内ニ於テナシタル発言及表決ニ就キ院外ニ於テ責ヲ負フコトナシ
両院ノ議員ハ現行犯罪ヲ除クノ外会期中又ハ院ノ許諾アリシテ逮捕セラルルコトナシ
両院ハ各々政府又ハ大臣ニ対シ不信任ノ表決ヲナスコトヲ得此ノ場合政府又ハ大臣ハ直チニ其ノ職ヲ去ルヘシ

一、 第四章 政府及大臣

政府ハ各省大臣及無任所大臣ヲ以テ組織ス
(枢密院ノ廃止、宮内大臣内大臣ノ廃止)

一、 第五章 経済及労働

土地ハ国有トスル
公益上必要ナル生産手段ハ国会ノ議決ニ依リ漸次国有ニ移スベシ
労働ハ如何ナル場合ニモ一日八時間(実労働時間六時間)ヲ超ルコトヲ得ズ
労働ノ報酬ハ労働者ノ文化的生計水準以下ニ下ルコトヲ得ズ

一、 第六章 文化及科学

凡テ教育其他文化ノ享受ハ男女ノ間ニ差異ヲ設クベカラズ
一切ノ教育・文化ハ真理ノ追究・真実ノ闡明ヲ目標トスル科学性ニ其ノ根底ヲ措クベシ

一、 第七章 司法

司法権ハ裁判所構成法及陪審法ノ規定ニ従ヒ裁判所之ヲ行フ
司法権ハ行政権ニ依リ侵害セラルルコトナシ
行政官庁処分ニ依リ権利ヲ傷害セラレ又ハ正当ノ利益ヲ損害セラレタリトスル場合ニ対シ別ニ行政裁判所ヲ設ク

一、 第八章 財政

国ノ歳出歳入ハ詳密ニ併カモ判明ニ予算ニ規定シ毎年国会ニ提出シ其ノ承認ヲ経ベシ
予算ハ先ヅ第一院ニ提出スベシ其ノ承認ヲ経タル項目及金額ニ就テハ第二院之ヲ否決スルヲ得ズ
租税ノ賦課ガ公正ニ行ハレ苟モ消費税ヲ偏重シテ民衆ノ負担ノ過重ヲ来サザルヤウ注意スルヲ要ス
歳入歳出ノ決算ハ速ニ会計検査院ニ提出シ其ノ検査確定ヲ得タル後政府ハ之ヲ国会ニ提出シテ承認ヲ経ベシ

一、 第九章 憲法ノ改正及国民投票

将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アリト認メタルトキハ大統領又ハ第一院若クハ第二院ハ議案ヲ作成シ之ヲ国会ノ議ニ付スヘシ
此ノ場合ニ於テ両院ハ各々其ノ議員三分二以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲナスコトヲ得ス
国民全般ノ利害ニ関係アル問題ニシテ国民投票ニ附スルノ必要アリト認メラルル事項アルトキハ前憲法改正ノ規定ニ遵準シテ其ノ可否ヲ決スへシ
 
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2-13 高野岩三郎の憲法改正案

高野岩三郎は、明治から大正時代にかけて、東大教授として統計学を講じていたが、労働運動家の兄房太郎の影響で、労働問題に関心を深め、東大教授を辞して、大原社会問題研究所の創立に参画し所長に就任(1920年)。戦後は、日本社会党の創立に参加、また日本文化人連盟を結成するとともに憲法研究会を組織、1946(昭和21)年には日本放送協会会長に就任した。

憲法研究会は、鈴木安蔵が作成した原案をもとに討議をすすめたが、多数意見は、天皇制の存続を容認するものであった。高野は、研究会案の討議に参加する一方で、主権在民の原則を徹底し、天皇制廃止・共和制樹立の立場から、1945(昭和20)年11月下旬、独自案である「日本共和国憲法私案要綱」を起草し、完成稿を鈴木に手渡した(掲出資料の日付表記によれば、11月21日に執筆し、12月10日に加筆したように見える)。この中には、大統領制の採用とともに、土地や公益上必要な生産手段を国有化する旨の規定が含まれている。

同要綱は、第二章を修正するとともに、全体に若干の字句の修正を加えて、『新生』1946(昭和21)年2月号に掲載された論文「囚われたる民衆」の中に、「改正憲法私案要綱」と題されて収録された。

資料名 日本共和国憲法私案要綱
年月日 昭和20年11月21日、12月10日
資料番号  
所蔵 法政大学大原社会問題研究所
原所蔵  
注記  
資料名 改正憲法私案要綱 高野岩三郎(「新生」昭和二一年二月號所載)
年月日  
資料番号 入江俊郎文書 11(「憲法改正参考書類(憲法問題調査委員会資料)」の内)
所蔵 国立国会図書館
原所蔵  
注記  
    ※出典
    高野岩三郎の憲法改正案 | 日本国憲法の誕生 https://is.gd/sKNf0z
     
     
     
     

    進歩黨 憲法改正要綱

    2023年07月19日 | 憲法研究

    進歩黨 憲法改正要綱

    (参考)

    進歩党 憲法改正要綱 (二月十四日発表)

    一、統治権行使の原則

    一、天皇は臣民の輔翼に依り憲法の条規に従ひ統治権を行ふ
    立法は帝国議会の協賛に由り、行政は内閣の輔弼を要し、司法は裁判所に之を託す
    二、委任立法並に独立命令は之を廃止す
    三、緊急勅令の制定は議会常置委員会の議を経るを要す
    四、宣戦、媾和、同盟条約、立法事項又は重大事項を含む条約の締結は帝国議会の議を経るを要す
    五、統帥大権、編成大権及非常大権に関する条項は之を削除す
    六、戒厳の宣告は帝国議会の議を経るを要す
    七、内閣、各省其の他重要なる官制は法律に拠る
    八、教育の制度に関する重要なる事項は法律に拠る
    九、栄典大権中爵位の授与は之を廃止す

    二、臣民の権利義務

    十、日本臣民不法に逮捕、監禁せられたりとするときは裁判所に対し呼出を求め弁明を聴取せられんことを請願することを得
    十一、日本臣民は自己を犯罪人たらしむべき告白を強要せらるることなし
    十二、住所の不可侵、信書の秘密、信教、言論、著作、印行、集会、結社の自由の制限の法律は公安保持の為め必要なる場合に限り之を制定することを得

    三、帝国議会

    十三、貴族院を廃止し参議院を置く
    参議院は参議院法の定むる所に依り学識経験者及選挙に依る議員を以て之を組織す
    十四、予算案及財政法案は衆議院に於て之を先議す
    参議院は衆議院に於て削減せる予算案の復活を決議することを得ず
    十五、衆議院に於て引続き二回通過したる法案は参議院の同意なくして成立したるものと看做さる
    十六、衆議院は内閣及各国務大臣に対し不信任又は弾劾を決議することを得
    十七、帝国議会の会期を五箇月とす
    衆議院は会期の延長並に臨時議会の召集を求むることを得
    十八、議会常置委員会を設く
    常置委員会は議会閉会中緊急勅令の制定、臨時議会召集の請求緊急財政処分、予備金の支出、暫定予算、其の他緊急実施を要する重要事項を議決す此等の議決は次の帝国議会の承認を要す常置委員は衆議院議員任期満了及衆議院解散の場合に於ても新議会成立迄其の資格を存続す

    四、国務大臣

    十九、天皇内閣総理大臣を親任せんとするときは両院議長に諮問す
    各国務大臣の親任は内閣総理大臣の奏薦に依る
    内閣総理大臣及国務大臣を以て内閣を組織す
    二十、内閣総理大臣及国務大臣は帝国議会に対し其の責に任ず
    二十一、枢密院は之を廃止す

    五、司法

    二十二、大審院を最高裁判所とす大審院は法律又は命令が違憲又は違法なりやを審査するの権を有す
    二十三、行政裁判所を廃止しその権限を裁判所の管轄に属せしむ

    六、会計

    二十四、総予算不成立の場合には前年度予算の月額範囲内に於て三箇月限り暫定予算を作成す、暫定予算は常置委員会の承認を要す
    政府は三箇月の期間内に新予算の成立し得るやう帝国議会を召集することを要す
    七、補則
    二十五、各議院は各其の現在議員の三分の二以上の同意を以て憲法改正案を発議することを得
     
     
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    資料と解説

    2-12 各政党の憲法改正諸案

    敗戦後、それまで非合法化されていた日本共産党が再建され、また、共産党を除く戦前の無産政党関係者により日本社会党が結成された。他方、保守政党では、非翼賛系議員を中心とした日本自由党と旧大日本政治会の多数を結集した日本進歩党が相次いで結成された。これら左右の各政党は、組織が整うにつれて、順次、独自の憲法改正草案を発表していった。

    共産党の「新憲法の骨子」は、1945(昭和20)年11月8日の全国協議会で決議されたものである。なお、当日決議されたものは、掲出資料より1項目多く全7項目となっていた。翌年の6月29日に、条文化された憲法草案が発表されたが、その特徴は、天皇制を廃止して共和制を採用していること、自由権・生活権等が社会主義の原則に基づいて保障されていることである。

    自由党は、同党の憲法改正特別調査会の浅井清慶大教授と金森徳次郎が中心となり、「憲法改正要綱」を作成し、1946(昭和21)年1月21日の総会で決定した。また進歩党は、2月14日の総務会で「憲法改正要綱」を決定した。両党の案は、天皇大権の廃止、制限や人権の拡張に関する条項があるものの、共和制を否定して、天皇の位置付けを統治権の「総攬者」もしくは統治権を「行ふ」ものとしており、総じて明治憲法の枠組みを堅持した保守的なものであった。

    一方社会党は、民間の憲法研究会案の作成にも加わった高野岩三郎、森戸辰男等が起草委員となり、党内左右両派の妥協の産物という色合いが強い「憲法改正要綱」を、2月23日に発表した(掲出資料の表記は2月24日発表)。同要綱は、「主権は国家」にあるとし、統治権を分割、その大半を議会に、一部を天皇に帰属させることで、天皇制を存続するとともに、議会の権限を増大し、国民の生存権の保障や死刑制度の廃止等を打ち出した点に特色がある。

    なお、共産党案以外の3点の掲出資料は、いずれも憲法問題調査委員会において配布された参考資料の一部である。

    資料名 日本共産党の新憲法の骨子
    年月日 昭和20年11月11日
    資料番号 佐藤達夫文書 26(「政党その他の団体の憲法改正案」の内)
    所蔵 国立国会図書館
    原所蔵  
    注記 当該資料は、当時の憲法問題調査委員会において配布された資料ではなく、後年に憲法制定関連の資料の一つとして作成されたものと思われる。11月8日の全国協議会で決議されたものには、第4項として「民主議会の議員は人民に責任を負ふ、選挙者に対して報告をなさず、その他不誠実不正の行為があった者は即時辞めさせる」とある。以下第5項から第7項の部分は、本資料中の第4項から第6項に該当する。(1945年11月12日付『朝日新聞』)
    資料名 自由黨 憲法改正要綱
    年月日 昭和21年1月21日
    資料番号 入江俊郎文書 9(「憲法問題調査委員会関係」の内)
    所蔵 国立国会図書館
    原所蔵  
    注記  
    資料名 進歩黨 憲法改正要綱
    年月日 昭和21年2月14日
    資料番号 入江俊郎文書 11(「憲法改正参考書類(憲法問題調査委員会資料)」の内)
    所蔵 国立国会図書館
    原所蔵  
    注記  
    資料名 社会黨 憲法改正要綱
    年月日 昭和21年2月24日発表
    資料番号 入江俊郎文書 11(「憲法改正参考書類(憲法問題調査委員会資料)」の内)
    所蔵 国立国会図書館
    原所蔵  
    注記  
    資料名 日本共産黨の日本人民共和國憲法(草案)
    年月日 1946年6月29日発表
    資料番号 憲法調査会資料(西沢哲四郎旧蔵)42(「憲資・総第10号 帝国憲法改正諸案及び関係文書(二)-政党その他の憲法改正案」の内)
    所蔵 国立国会図書館
    原所蔵  
    注記 当該資料は、憲法調査会の資料として昭和32年に翻刻刊行されたもの。6月29日発表当時のものには、当該の表題は付されておらず、「日本共産党憲法草案」となっている。(1946年7月15日付『アカハタ』)
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