大航海時代~ロイルート編~

大航海みたいな日々の事。そんな日のこと。

『この虹の先へ…』第二十四回

2007-07-08 | 小説
          10月11日

 この日、宿題が出された。それは、別に珍しい事ではない。ただ、この先生から宿題出されるなんて思わなかった。昨年も同じ先生の講義を受けた。講義内容もそこそこ良かったし、宿題が一度も出なかった。あと、単位を取る為にちょうど良かったので再びこの先生の講義(昨年とは講義名と内容が違う)を履修したわけなのだが…。その宿題が小論文なのだから恐れ入る。期限は来週のこの時間提出。もちろん、単位取得に響く。今回の講義内容もなかなか面白いのは良いのだが、小論文は苦手なんだよなぁ…。資料を探しておいて土日に書きまくるしかないか。
 と、いうわけで図書館に来ていた。インターネットでも資料は探せるが、書物も十分に役に立ってくれる。むしろ、必須。
 探していたら、ばったりと奈央に出会った。
「あ」
と、一文字が重なる。
「……」
数秒の沈黙。先に口を開いたのは俺だった。
「よ、よう」
「こ、こんにちは」
…何だ、この空気。
「奈央も調べ物か?」
「…まぁね」
くっ…そっけない。どうも一人の時は話しにくいんだよなぁ。和枝や美希がいれば多少話しやすくなるんだが…。というか、まず口を開かない。開いてもこの前のように文句しか出てこない。
「…で?」
「でっ…て?」
つい聞き返してしまう。奈央の目つきは鋭い。
「何についての調べ物なのかって聞いているの」
ああ、そういうことか。とりあえず、言ってみるとスタスタと俺の脇を通って歩き出した。……なんだよ、おい。その背中は黙ってついて来いと言っているようだった。仕方なくついて行くと、少し歩いたところで止まった。そして、振り返って右を指差し、
「ここにあるので調べれると思う」
といつもの口調で言った。見ると、無数のある本の中から確かに必要なカテゴリーが書いてあるタイトルの本が並んでいた。
「ま、頑張って。ボクはもう行くから」
またしてもスタスタと俺の脇を通り抜ける。うーん…なんというか…。
「ありがとうな。案外、良いところあるじゃないか」
ピタリと止まり、勢いよく振り返ると大声を出してきた。
「れ、礼なんて言わなくていいよ!それに一言が余計よ!」
「おい、ここ…図書館…」
思わず耳を塞いだ。奈央の顔が真っ赤だ。うーん、新鮮だ。
「ま、静かにな」
ニヤリとする俺に、くっ…!と睨む奈央。しかし、赤面中の為迫力がない。
 「さて、と…」
本棚と向き合う。うーむ……どれが良いのか分からん。どれも良い資料だろうから、適当に数冊借りて行くのが早いか。本を数冊取り、戻ろうとするとまだ奈央が突っ立っていた。
まだ顔赤いし。
「あれ?どうしたんだ?」
う~…と唸る奈央。そして、ぷいっとそっぽ向くと捨て台詞のようにこう言った。
「あんた、これから時間は?」
「あるっちゃあある。昼からゲーセン行く気まんまんだが」
「ゲーセンはどうでもいいよ。ボクも時間あるから手伝ってあげる」
「ありがたいんだが、鍛えたい格ゲーが…」
「課題が早く終われば、その分練習できるでしょ」
そう言ってずるずると引きずられていく俺。……ま、良いんだけどさ。
 二人向かい合って資料を読みまくる。俺はそれを四苦八苦しているが、奈央はすらすらと読んでいる。必要な情報だけを的確に探しているという感じだ。
奈央は三人娘の中でも成績は一番だ。頭も良くて運動もできる。本人いわく、『勉強はそうでもないけど体育会系は得意』との事だが第三者から見たら同等だと思う。要は完璧超人。
しかし、完璧超人なんてそう存在するもんではないというのが実証するかのように性格は無愛想で人付き合いがよろしくない。これで愛想がよければ本当に完璧超人なんだが。そんな奈央が珍しくというか初めてな事なんだから美希達に言ったらさぞかし驚く事だろう。
「…ちょっと休憩しましょう」
パタンっと本を閉じる奈央。
「お、おう」
おそらく俺がお疲れモードになっているのが気付いたんだろう。頬杖をつく奈央。
「……ねぇ」
「ん?」
「ボクね、昔から成績優秀だった…」
「待った」
と、俺は止めた。さすがに図書館で話すような内容ではなさそうだ。図書館の職員にお願いして本を入れる為の袋をいただき、外に出て辺りが無人のベンチを見つけて缶ジュース片手に座った。
「……で?」
図書館出る前と変わらずの表情で…。