大航海時代~ロイルート編~

大航海みたいな日々の事。そんな日のこと。

『この虹の先へ…』第二十回

2007-02-07 | 小説
久し振りで、今年初めての小説です(--;
では、さっそく始めます!><;



                        10月9日

 さて、月曜日。今日は朝から講議だ。ノートをとりながら先生の話を聞いている美希が隣にやってきた。見事に遅刻である。まぁ、最後に出席取る講議だから問題ないが。俺もする時あるしな。小声でおはようと挨拶を交わす。
 …そういえば、説得しなくちゃならないんだったな、勘違い野郎を。
 講義が終わり、さっそく美希が話しかけてきた。
「英志、さっそくなんだけど…」
「分かってる。って、すぐか?」
「ううん。昼休み。2限終わってすぐよ。私達、次の講議も一緒じゃない?だから、時間もある昼休みに設定したの」
なるほど、と俺。じゃあ、それまでにどうやって説得するか考えておくか。って、ちゃんと先生の話聞かないと駄目か。

 で、昼休み。
「美希の事は諦めろ」
考える時間がなかったから単刀直入に言った。相手もいきなり俺が居て、いきなり俺がんな事言い出した為、当然戸惑っていた。美希の方は『なんで、そんなに簡単なのよ!』って感じのなんとも言えない顔をしていた。
「な…な、何だって…?え?えっ?」
おろおろしている男。
「まぁまぁ、落ち着いて。ほら、深呼吸を」
男は俺の言葉に従って深呼吸する。何度かやって落ち着いたのか、真剣な顔になった。
「で?君はなんだ?」
「美希の友人」
男は顔をしかめた。
「ずいぶんと親しみがある呼び方じゃないか」
「ああ、名前で呼んでくれって言われてるし」
ふむ、と男。俺が嘘ついていないと分かっているみたいだ。当たり前だ、今は嘘をつく時じゃない。できれば、嘘ついて誤魔化したくないのが本音だ。しかし、好きな子をその友人が『諦めろ』と言って素直に応じる奴は多くないだろう。状況に応じて、だ。男は少し大柄。わりとがっちりしていて、体育会系の部活動でもやってるのかも。取っ組み合いにならないようにしなくては。
「いくら友達の頼みでも、この想いは譲れん」
いや、譲ってもらいたいわけではないんだが…。
「私、断ったじゃない!その想いには応えられませんって!」
「照れなくても良いですよ」
にっと笑う三枚目。なるほど、天然か。こういう天然はやっかいだな。
「見て分からないのか?本当に嫌がってるじゃないか」
率直だが、こう言うしかないと判断。俺の言葉に反応してかさっと俺の後ろに隠れる美希。その姿を見て、うーむと唸っていた。
 「ありがとう~」
ニコニコしている美希。
「なんだよ、話せば分かる奴だったじゃないか」
そう、あの男は美希が俺の後ろに隠れる姿を見て諦めてくれた。さすがにあの姿を見たら…なぁ?ショック受けるよな。しつこいのはよろしくはないが、少し同情した。
「英志が居てくれたからよ」
…まぁ、そういうわけでお礼で昼飯をご馳走になっている。
「俺は特になにもしていないんだがな」
カツ丼を食べながらそう言った。…同情しておきながらしっかりとご馳走になっている俺も俺だよな。
「とにかく、ありがとう」
「いえいえ」
「……英志は、さ」
美希はチャーハンを食べていたスプーンを置いて、こう言った。
「好きな子とかいるの?」
真剣な顔で俺を見る。俺も箸を止めて答える。
「いない……かな」
そう…と言う美希はなんだか、寂しそうな顔をしていた。
 昼休み後、まだ講議がある美希と別れた俺は、陸上部の部室へと来ていた。部室でもあり更衣室でもある。中に入るとシューズの紐を結んでいた男がいた。
 安部 貴志(あべたかし)。3年生。陸上部のエースだ。部長もやっている。冷静で判断力もあり、まさに部長には適した感じに思われるが…この人はいかんせんほとんど無口で無愛想。それで上手く部員をまとめられているわけがない。と、思うのが一般的。が、実際はこの陸上部は上手くまとまっているのであるから不思議だ。
「こんにちは、部長」
と、俺が挨拶すると反応してこちらを見る。が、すぐに靴紐結びを再開する。………これだ。俺はどうもこの人が苦手だ。信頼はしている。この無愛想なのが苦手なのだ。沈黙。やがて、部長は靴紐を結び終えるとこちらに歩いてくる。そして、俺を通り過ぎ入り口のドアを開ける。
「すみません、今日も練習休みます」
振り向かずに俺はそう言った。部長の足音が止まる。少しの沈黙。
「…………休むのは勝手だが、次に出る場合は俺の相手をしてくれ」
そう言い残しドアを閉めた。部室に残ったのは俺一人。
「…帰るか」
部長の後を追うように部室を出た。
                           続く。