というのも、戦後60年、日本囲碁界は国際戦ではかっての1人勝ちの状態から新興勢力中国、国の後塵を拝しつづけ、国内にあっても呉清源、趙治勲、張栩という中国、韓国、台湾というかっての囲碁後進国からの“出稼ぎ外国人”によってその時代の第一人者の地位をほしいままにされてきていたのである。そこに来てやっと純国産の20代のスター誕生である。碁界がわかないほうがおかしい。
そしておもしろいのは、アマチュア囲碁の世界(萩谷和義というアマチュアが1981から指導しているクラブ)で育てられた逸材が、藤沢秀行という昭和囲碁史を代表する指導者に預けられ今日を迎えたという事実である。実際囲碁の指導者として秀行さんほど国籍、プロアマの垣根を取っ払うことに力を注いだ(というより、意識しなかった?!)人物は古今稀有な存在である。そんな傑物(今回の本因坊戦の始まる前もインタビューで「そこそこはいけるのと違うか」なんて他人行儀な予言を吐いていたのも、らしくて面白い)に薫陶を受けた高尾紳路が碁界のトップに躍り出たというのも、日本囲碁界の将来に明るい展望をちょっぴりうかがわせる事件ということになろう。
実際、現在の日本囲碁界のトップ3は棋聖が羽根直樹、名人が張栩、本因坊が高尾紳路といずれも20代で、世代交代には成功したといえるのだが、いかんせん国際棋戦では韓国、中国の後塵を拝し続けている現状ではあまりいばれたものでもない。
国際連合の常任理事国入りがむつかしそうな情勢でもわかるように、あらゆるジャンルでジャパン・アズ・ナンバーワンの時代は遠い過去のものとなった。というより、アメリカという巨象がイランや北朝鮮に対して巨大な軍事力、経済力で圧倒的な優位にたちながら実際的な交渉局面では有効な手がうてないことに象徴されるように、一国が抜きん出て国際社会をリードしていくことは困難な状況になっているといえるのだろう。とすれば囲碁の世界でも同様であって、高尾紳路ら若い世代が手をたずさえて国際協調をはかっていくのを期待するのが道理となるのだろう。