日本史大戦略 ~日本各地の古代・中世史探訪~

列島各地の遺跡に突如出現する「現地講師」稲用章のブログです。

雨の宮古墳群|石川県中能登町 ~在地的世界からヤマト的世界へ切り替わる能登の様相が分かる古墳群~ 【北陸古代史探訪 3日目④】

2021-08-24 15:29:43 | 歴史探訪
 

3.探訪レポート                         


2021年7月21日(水)



この日の探訪箇所
氷見市博物館 → 朝日貝塚 → 朝日長山古墳 → 雨の宮古墳群 → 雨の宮能登王墓の館 → 羽咋市歴史民俗博物館 → コスモアイル羽咋 → 吉崎・次場遺跡 → 内灘町歴史民俗資料館

 荒山峠を越えて邑知潟地溝帯へ降り、少し走ってJR七尾線の能登部駅の横の踏切を渡りました。

 電車乗りたいなあ。

 踏切を超えると山へ入り、雨の宮古墳群に到着。

 朝日長山古墳からここまで、途中荒山峠で小休止しましたが、50分で来れました。

 駐車場に車を停めようとしていると、説明板の前でガイドさんらしき方が来訪者に説明しているのが見えました。

 チャンス!

 車から降りて説明板の前へ行き、ガイドの方と来訪者の方にお願いして私も混ぜていただけることになりました。



 雨の宮古墳群は、説明板に書いてある通り、4世紀中ごろから5世紀初頭にかけて築造された古墳群で、現在見つかっている古墳の数は36基です。



 それらの中でも特に大きいのが1号墳と2号墳で、1号墳は墳丘長64mを誇る前方後方墳で4世紀半ばの能登の王の墓で、墳丘長65mの前方後円墳である2号墳は、その次代の王の墓です。

 時間があれば古墳群全体を歩いてみたいですが、今日は行程の都合上、最初から1号墳と2号墳だけ見られれば良いというスタンスで来ました。

 もう一つ説明板。



 地形図上に古墳をプロットすると、1号墳のある雷ヶ峰(標高187.9m)から派生した尾根上に古墳が築造されているのが良くわかりますね。



 ただし、こちらの図は表示されている古墳の数が少ないことから少し古い図です。

 では、ガイドの中島さんの案内の元、古墳群に入っていきます。

 入口には鳥居。



 1号墳には昔から天日陰比咩神社の本殿があり、地元の方々からすると古墳群はもう神域なのです。

 少し登ると素敵な墳丘が現れました。

 円墳の6号墳です。



 ここには、6号、5号、7号墳が並んでおり、すべて円墳です。



 真ん中の5号墳。



 7号墳。



 5号墳の前には説明板があります。



 この図を見ると5号墳と6号墳が切りあって(重なって)いますが、5号墳の横に新たに6号墳を作るということで、5号墳を削って作ってしまったようです。



 各地の古墳を見ているとこういうケースはたまにあって、どうしでも「この場所でこの大きさ」に造りたいこだわりがあった場合は、以前からある古墳を壊してでもその場所に造ることがあるのです。

 もちろん、そうした理由は分かりません。

 5号墳の墳頂には主体部が表示されています。



 さて、彼ら3兄弟の横にはひときわ立派な墳丘がありますよ。

 葺石もゴロゴロ見えています。



 首長墓級の前方後円墳である2号墳の後円部ですね。

 前方部側を見てみます。



 2号墳には階段が付いていますので階段で墳頂へ登りましょう。



 3段築成に見えるのですが、中島さん曰く、一番下は「基壇」の扱いで、基壇+2段築成とするそうです。

 段築の段の部分に葺石よりも大い石が配列されています。



 後円部墳頂から3兄弟を見下ろします。



 なかなか良い景色だ。



 この古墳は邑知潟地溝帯方面の眺望に優れており、その方面の写真パネルがあり、土地勘のないよそ者にとってはありがたいです。

 北東方面から始まって、有名な七尾城跡や昨日訪れた能登国分寺跡があります。



 先ほどは荒山城跡のすぐ南側の峠を越えてきました。





 小田中親王塚古墳と亀塚古墳の名前は聞いたことがあります。



 今日は訪れる予定はありませんが、小田中親王塚古墳は、宮内庁が崇神天皇の皇子で能等国造の祖とされる大入杵命の墓に治定しています。

 亀塚古墳は、宮内庁は親王塚の陪冢としていますが、雨の宮1号墳と同じころに築造された墳丘長62mの前方後方墳です。

 雨の宮1号墳と同規模であるので、どちらがその時代の「能登の王」であったか分かりませんが、両墳の築造をもってこの地域の前方後方墳の築造は終わり、前方後円墳を作る、より「ヤマト的」な世界へと切り替わっていきます。

 今いる2号墳は、能登における「ヤマト的」な世界の幕開けを飾る古墳と考えていいでしょう。



 でも実際の眺望はパネルのようにうまくいきません。





 後円部墳頂から前方部方向を見ると、1号墳の墳丘がチラっと見えていますよ。



 上から見下ろすと、前方部も2段築成ですね。



 前方部にやってきました。

 1号墳も見えます。



 葺石がゴロゴロしていますが、川原石ではなく山石ですね。



 今なお白い石が多いため、築造当時は墳丘はモザイク状に白く輝いていたに違いありません。



 天日陰比咩神社の拝殿。



 降りたところに2号墳の説明板がありました。





 墳丘長の65.5mというのは、基壇部分を含めておらず、基壇を含めればもっと大きな古墳になります。

 地域によっては基壇部分を墳丘長に含める場合もあるので、ここもそうしてもいいんじゃないかと思います。

 説明板を読むと、基壇を墳丘長に含めない理由としては、基壇部分に葺石がないというのもその一つのようです。



 私的には、とくに基壇と呼ぶ必要はなく、普通に3段築成の前方後円墳でいいんじゃないでしょうか。

 全国の古墳を見ると、最下段に葺石を施さない古墳はよくあります。

 おや、お隣にあるこの古墳は主体部の表示もありますよ。







 36号墳です。



 さて、つづいては雨の宮古墳群でもっとも重要な古墳である1号墳へ行ってみましょう。

 1号墳出現!



 いいねえ。



 1号墳の墳頂にはもともと神社がありました。



 整備にあたって神様は墳頂から降りていただいています。



 こういうのって氏子さんたちの理解を得るのがとても難しいので、私たちがこうして綺麗に整備された古墳を見ることができるのは、地元の方々の理解の上でできているということを忘れてはいけません。

 説明板があります。





 1号墳の葺石も全国的に見られるのと同じように、一定間隔で竪に大きめの石を並べています。

 一般的には、それが作業者の担当範囲を示していると言われています。

 しかし、前期の古墳は関東地方などの平野部を除いては、ここみたいに山の上に造るケースが多いですが、葺石を葺く作業は縄文人がストーンサークルを作るよりも大変だったでしょうね。





 後方部を見ると、左右の墳丘の中ほどに大きな石が埋め込まれています。



 地元では「目玉石」と呼んでいるそうですが、こういう造形は他では見た記憶がないです。

 古墳を築造した人は何の意味を込めたのでしょうかね。

 前方部側から見ると顔に見えるので、もしかしたら被葬者の顔を思い出すように設置したのかもしれませんよ。

 墳丘は本当にきれいに整備されています。



 前方後方墳は、とくに後方部が四角いことが分からないと面白味が半減しますから、このようにきちんとエッヂが分かるようになっているのは素晴らしいです。

 考えてみれば今は真夏ですが、真夏に来てもとても歩きやすい古墳というのはとてもありがたいですね。



 この地の王様の顔を想像してみてください。



 北側にある小さな35号墳もきれいに整備されている。



 墳頂が雷ヶ峰の頂上で、標高187.9mです(プレートには188mとあります)。



 先ほどの2号墳とはまた少し違ったヴュー。



 埋葬主体の表示があります。



 最近個人的にお気に入りの車輪石も出ています。



 能登王墓の館には遺物のレプリカが展示されているそうです。





 2号墳が見えますね。



 後方部から前方部を見ます。







 17号墳があります。





 あとで行ってみようと思います。

 1号墳からの眺望をしばし楽しみます。



 今日は日差しもそれほど強くなく、真夏にしてはとても良いコンディションです。

 雪が降ったら来ることができなくなるので、晩秋あたりにまた来てみたい。

 中島さんにこの辺は雪が多いのか聴くと、「この地域はそれほどでもないですよ。積もっても40㎝くらいかな」と返ってきました。

 東京人にとっては大雪だ!







 17号墳を見ておきたい。



 こちらもちゃんと説明板があります。





 この主体部は面白いですよ。



 板石を重ねて天井部分を造っています。



 円形ではありませんが、まるで南九州の隼人の居住地と重なる板石積石室墓のようです。

 でも不思議なことにこの古墳は発掘調査を開始したのですが、このように天井石を露出させた段階でやめてしまったそうです。

 1号墳よりも古い古墳と考えられていることから、雨の宮古墳群の歴史のもっともコアな部分を握っているかもしれず残念です。

 これ以上掘ったら、何か既得権益者にとって「都合の悪い」史実が分かってしまうから止めたのでしょうか。













 1号墳、さようなら。



 雨の宮古墳群、かなり良いです!

 このあとは、能登王墓の館を引き続きご案内していただけるそうです。

 (つづく)


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