このブログでは、逮捕などの刑事事件についての裁判例を紹介しています。
1 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,行政書士でなく,かつ,法定の除外事由がないのに,第1 共犯者甲と共謀の上,業として,別表1記載のとおり,平成18年6月25日から平成19年3月6日までの間,前後3回にわたり,北海道斜里郡の被告人方において,3名から依頼を受け,事実証明に関する書類である家系図合計3通を作成し,その報酬として合計33万8685円の交付を受け,第2共犯者乙と共謀の上,業として,別表2記載のとおり,平成18年7月10日から平成19年4月1日までの間,前後3回にわたり,前記被告人方において,3名から依頼を受け,事実証明に関する書類である家系図合計3通を作成し,その報酬として合計56万7000円の交付を受け,もって行政書士の業務を行った。」というものであり,同公訴事実を記載した起訴状には,別紙として,依頼日,依頼者,家系図交付日,報酬額等を記載した「別表1」及び「別表2」が添付されていた。 第1審判決は,上記公訴事実どおりの事実を認定した上,刑法60条,行政書士法21条2号(平成20年法律第3号による改正前のもの。以下同じ。),19条1項を適用して被告人を懲役8月,2年間執行猶予に処し,原判決もこれを維持した。すなわち,原判決及びその是認する第1審判決は,被告人が作成した家系図合計6通(以下「本件家系図」という。)は,行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に該当するとして,被告人が業として本件家系図を作成した行為は同法19条1項に違反し,同法21条2号に該当すると判断した。2 所論は,本件家系図が上記「事実証明に関する書類」に該当しないと主張するところ,原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。(1)本件家系図は,戸籍の記載内容を図に表し,親族の名,続柄,出生の年月日及び出生地,死亡の年月日及び死亡地,婚姻の年月日等を記載し,右側上部に「何々(姓)家系図」,左側下部に日付及び「A工房」の文言を付記した巻物状のものである。(2)被告人は,依頼者に送付した被告人作成のパンフレット等に,家系図は1枚の和紙に記載し,その表装はプロの表装師が行い,桐の箱に収めるなどと記載し,現に,取寄せた戸籍謄本等をもとに,パソコンのイラスト作成ソフトを用いて家系図の原案を作成すると,その電子データを印刷業者に送って美濃和紙に毛筆書体で印字させ,こうしてできたものを表装業者に送って掛け軸用の表装具を使って表装させ,さらに,これを保管するための桐箱を木箱製作業者に作成させるなどして本件家系図を作成した。(3)上記パンフレットには,「こんな時にいかがですか?」という見出しのもとに「長寿のお祝い・金婚式・結婚・出産・結納のプレゼントに」,「ご自身の生まれてきた証として」,「いつか起こる相続の対策に」と記載されているものの,本件の各依頼者の家系図作成の目的は,自分の先祖の過去について知りたい,仕事の関係で知り合った被告人からその作成を勧められて作成した,先祖に興味があり和紙で作られた立派な巻物なので家宝になると思った,自分の代で家系図を作っておきたいと考えたなどというもので,対外的な関係での具体的な利用目的を供述する者はいない。3 上記の事実関係によれば,本件家系図は,自らの家系図を体裁の良い形式で残しておきたいという依頼者の希望に沿って,個人の観賞ないしは記念のための品として作成されたと認められるものであり,それ以上の対外的な関係で意味のある証明文書として利用されることが予定されていたことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。そうすると,このような事実関係の下では,本件家系図は,依頼者に係る身分関係を表示した書類であることは否定できないとしても,行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に当たるとみることはできないというべきである。4 したがって,被告人が業として本件家系図を作成した行為は行政書士法19条1項に違反せず,被告人に同法違反の罪の成立を認めた原判決及び第1審判決は,法令の解釈適用を誤った違法があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決及び第1審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。 よって,刑訴法411条1号により原判決及び第1審判決を破棄し,同法413条ただし書,414条,404条,336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宮川光治の補足意見がある。
なお、企業の担当者で、従業員の逮捕など刑事弁護事件についてご相談があれば、契約している顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、不当な解雇、保険会社との交通事故の示談交渉、未払いの残業代請求や多重債務(借金)の返済、遺言・相続の問題、オフィスや店舗の敷金返還(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。
1 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,行政書士でなく,かつ,法定の除外事由がないのに,第1 共犯者甲と共謀の上,業として,別表1記載のとおり,平成18年6月25日から平成19年3月6日までの間,前後3回にわたり,北海道斜里郡の被告人方において,3名から依頼を受け,事実証明に関する書類である家系図合計3通を作成し,その報酬として合計33万8685円の交付を受け,第2共犯者乙と共謀の上,業として,別表2記載のとおり,平成18年7月10日から平成19年4月1日までの間,前後3回にわたり,前記被告人方において,3名から依頼を受け,事実証明に関する書類である家系図合計3通を作成し,その報酬として合計56万7000円の交付を受け,もって行政書士の業務を行った。」というものであり,同公訴事実を記載した起訴状には,別紙として,依頼日,依頼者,家系図交付日,報酬額等を記載した「別表1」及び「別表2」が添付されていた。 第1審判決は,上記公訴事実どおりの事実を認定した上,刑法60条,行政書士法21条2号(平成20年法律第3号による改正前のもの。以下同じ。),19条1項を適用して被告人を懲役8月,2年間執行猶予に処し,原判決もこれを維持した。すなわち,原判決及びその是認する第1審判決は,被告人が作成した家系図合計6通(以下「本件家系図」という。)は,行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に該当するとして,被告人が業として本件家系図を作成した行為は同法19条1項に違反し,同法21条2号に該当すると判断した。2 所論は,本件家系図が上記「事実証明に関する書類」に該当しないと主張するところ,原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。(1)本件家系図は,戸籍の記載内容を図に表し,親族の名,続柄,出生の年月日及び出生地,死亡の年月日及び死亡地,婚姻の年月日等を記載し,右側上部に「何々(姓)家系図」,左側下部に日付及び「A工房」の文言を付記した巻物状のものである。(2)被告人は,依頼者に送付した被告人作成のパンフレット等に,家系図は1枚の和紙に記載し,その表装はプロの表装師が行い,桐の箱に収めるなどと記載し,現に,取寄せた戸籍謄本等をもとに,パソコンのイラスト作成ソフトを用いて家系図の原案を作成すると,その電子データを印刷業者に送って美濃和紙に毛筆書体で印字させ,こうしてできたものを表装業者に送って掛け軸用の表装具を使って表装させ,さらに,これを保管するための桐箱を木箱製作業者に作成させるなどして本件家系図を作成した。(3)上記パンフレットには,「こんな時にいかがですか?」という見出しのもとに「長寿のお祝い・金婚式・結婚・出産・結納のプレゼントに」,「ご自身の生まれてきた証として」,「いつか起こる相続の対策に」と記載されているものの,本件の各依頼者の家系図作成の目的は,自分の先祖の過去について知りたい,仕事の関係で知り合った被告人からその作成を勧められて作成した,先祖に興味があり和紙で作られた立派な巻物なので家宝になると思った,自分の代で家系図を作っておきたいと考えたなどというもので,対外的な関係での具体的な利用目的を供述する者はいない。3 上記の事実関係によれば,本件家系図は,自らの家系図を体裁の良い形式で残しておきたいという依頼者の希望に沿って,個人の観賞ないしは記念のための品として作成されたと認められるものであり,それ以上の対外的な関係で意味のある証明文書として利用されることが予定されていたことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。そうすると,このような事実関係の下では,本件家系図は,依頼者に係る身分関係を表示した書類であることは否定できないとしても,行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に当たるとみることはできないというべきである。4 したがって,被告人が業として本件家系図を作成した行為は行政書士法19条1項に違反せず,被告人に同法違反の罪の成立を認めた原判決及び第1審判決は,法令の解釈適用を誤った違法があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決及び第1審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。 よって,刑訴法411条1号により原判決及び第1審判決を破棄し,同法413条ただし書,414条,404条,336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宮川光治の補足意見がある。
なお、企業の担当者で、従業員の逮捕など刑事弁護事件についてご相談があれば、契約している顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、不当な解雇、保険会社との交通事故の示談交渉、未払いの残業代請求や多重債務(借金)の返済、遺言・相続の問題、オフィスや店舗の敷金返還(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。