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未払いの残業代請求

2009-04-25 17:39:27 | 残業代請求
今回は、残業代請求に関する判例を紹介します(つづき)。 

第3 当裁判所の判断
1 雇用契約上の地位確認並びに基本給及び季節賞与の請求について(争点〔1〕)
(1)原告は,被告から,〔1〕実際には大幅な人員整理や原告を解雇しなければならない事情が存しなかったにもかかわらず,9割以上の人員を削減しないと被告が倒産してしまう,退職勧奨に応じなければ解雇する等と言われ,また,〔2〕実際には推薦状の交付,関連企業等への転籍・再就職先のあっせん及び適切なアウトプレースメント・サービスの提供をする意思がなかったにもかかわらず,その旨をすると詐欺的な説明等を受けたことから,本件退職合意をしなければ,懲戒解雇される以外に選択肢がないと追いつめられた結果,被告から上記再就職支援を受けることを条件に,本件合意書に署名したのであって,本件合意書の内容に同意するという原告の意思表示には,要素の錯誤があると主張する。
ア しかしながら,まず,〔1〕被告から,9割以上の人員を削減しないと倒産してしまう,退職勧奨に応じなければ解雇すると詐欺的な説明をされ,懲戒解雇にも言及されたため,原告において,本件合意書に署名しなければ,懲戒解雇される以外に選択肢がないと追いつめられたという錯誤の主張についてみると,なるほど原告本人尋問の結果によれば,平成19年7月25日にC氏から「このまますると・・・会社が懲戒解雇をしてもおかしくない」と言われたとの供述部分があると認められるが,そのような発言がされたからといって,本件合意書に署名しなければ,懲戒解雇される以外に選択肢がなくなってしまうなどという認識を有するに至るとはにわかに考えられず,その錯誤に陥る経緯は不自然であり,実際,その前後の供述を子細に検討しても,原告が上記錯誤に陥り,その結果,本件合意書に署名したと認定するに足りる部分があるとはいえない。原告自身,その陳述書(〈証拠略〉)においては,「被告会社の倒産を救わないといけないという事情・・・を信用したうえ,不本意ながら,やむなく「会社支援プログラム合意書」にサインしました。」と供述していたのであって,また,原告の主張をみても,本件退職合意の錯誤無効が最初に主張された訴えの変更申立書においては,上記錯誤の主張を含め、そもそも人員整理に係る詐欺的な説明がされたことにより原告において何らかの錯誤に陥ったとする主張自体がされることもなかったのである。そうすると,原告において,本件合意書に署名しなければ,懲戒解雇される以外に選択肢がないと追いつめられたという錯誤に陥り,その結果,本件合意書に署名したとの事実を認めることはできない。
 また,被告から9割以上の人員を削減しないと被告が倒産してしまうという虚偽の退職勧奨又は解雇の理由が述べられたという点についても,平成21年1月の時点で被告による採用募集がある(〈証拠略〉)ことをもって,直ちにこれが虚偽のものであったと断じることもできないし,原告が上記発言があったとする(原告本人)平成19年7月17日のB氏との会談の内容については,原告による録音がされているにもかかわらず,それに沿う証拠が提出されるわけでもなく,さらに,原告の主張をみると,上記点について,平成20年11月21日付けの準備書面においては,「B氏から合理的な理由もなく,陰湿的に退職を強要され」たと主張していたところである。そうすると,退職勧奨に際し,被告から9割以上の人員を削減しないと被告が倒産してしまうという虚偽の説明があったとする原告の主張を採用することはできない。 
イ 次に,〔2〕被告による原告に対する再就職支援に係る合意についてみると,前記第2の2(5)イ(カ)のとおり,本件合意書10条において,「被告は,原告に対し,無償で,原告が転職先を確保するまで,少なくとも6か月間,被告の指定する業者のアウトプレースメント・サービスを提供することを合意する。」と定められているが,証拠(〈証拠略〉,原告本人)によれば,上記合意に沿って,被告がF社に対して再就職支援を依頼していることが認められる。仮に同社による再就職支援が原告の期待に沿うものでなかったとしても,直ちに被告における上記合意の不履行が論じられるべき筋合いのものでないことはいうまでもない。
 また,原告は,被告との間で,推薦状の交付や関連企業等への転籍・再就職先のあっせんをするとの合意をしたと主張し,原告の供述(〈証拠略〉,原告本人)のほか,平成19年7月17日のB氏の発言にそれに沿う部分がある(〈証拠略〉)が,原告が推薦状の交付を求めて被告に当てたメール(〈証拠略〉)の内容は,推薦状の交付に係る合意があることを前提としたものであるとは考えられないし,原告が上述のF社による再就職支援が不十分なものであると指摘し,被告に対して善処を求めるメール(〈証拠略〉)の内容も,関連企業等への転籍・再就職先のあっせんに係る合意があることをうかがわせるものではない。そうすると,原告自身,上記合意があったとの認識を有していなかったものといわざるを得ないから,この点について原告が錯誤に陥っていたと認めることはできない。
ウ 以上によれば,原告の錯誤無効の主張は理由がない。
(2)次に,原告は,被告において,本件合意書を作成するに際し,推薦状の交付,関連企業等への転籍・再就職先のあっせん及び適切なアウトプレースメント・サービスを提供すると約束し,その合意に係る再就職支援を誠実に実行すべき義務があったところ,その合意に係る再就職支援を一切実行せず,原告の再就職活動を妨害までしたのであって,このような被告の行為は著しく信義に反するから,本件合意書による本件退職合意は無効であると主張する。
 しかしながら,仮に合意により生じた対価関係にある債務の一方が不履行の状況にあり,それが信義にもとるものであったとしても,当該債務者が債務不履行責任を負うことは格別,その不履行の事実が,当該合意自体をさかのぼって無効ならしめるものではない。
 また,その点をひとまず措くとしても,被告による原告に対する再就職支援に係る合意の内容及びその履行状況は,前記(1)イのとおりであるから,そもそも被告において債務の不履行があるということはできないし,ましてや,信義則に反するということはできない。さらに,被告が原告の再就職活動を妨害したという点については,原告の供述中にそれに沿う部分がある(〈証拠略〉)が,その内容は憶測の域を出ないのであって,これをそのまま信用することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると,原告の主張はいずれにせよ失当である。
(3)以上によれば,原告の主張はいずれも失当であるから,原告の雇用契約上の地位確認並びに基本給及び季節賞与の支払を求める請求は,理由がない。

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