「ムソリーニはいいこともした」

http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20130201-OYT1T00222.htm
　
　イタリアで、独裁者ムソリーニを擁護するベルルスコーニ前首相の発言が引き金となり、ムソリーニの評価を巡る論争が起きている。
　前首相は1月27日、ミラノでホロコースト（ユダヤ人虐殺）犠牲者の追悼式に出席し、報道陣にムソリーニについて、「（ユダヤ人を差別した）人種法制定は最悪だが、良いことも多く行った」と持論を展開。（後略）
　追悼式での発言だったため、国内では「不適切で歴史的根拠を欠く」（ユダヤ人団体）、「わが国はナチスやファシズムとの戦いに立脚しており、容認できない」（中道左派「民主党」報道官）などの批判が殺到。ファシズムの擁護を禁じる法律を根拠に、前首相の訴追を求める動きも出た。（後略）
　（読売新聞、2013年2月1日）

　「ムソリーニはいいこともした」。うん、そのとおりなんだろうと思う。二つの世界大戦を経て国民国家が福祉を充実させる方向に動いたのはまちがいない。
　"歴史学の視点に立つと"、E.H.カーも述べているように、歴史上の人物、すでに死んだ人物について「道徳的にここが悪い」などと言うことはまちがっている。その人間はその時代にしか生きなかったのだから、現代の感覚で解釈してはまずい。ムソリーニが悪人なのだとしたら、「英雄」ナポレオンもヨーロッパ中に戦火を広げた悪人、征韓論を主張したみんな大好き西郷隆盛も悪人、ということになる。彼らはそのときそのときの時代の潮流の中で生きたのだから、何かの責任を特定の人物に押しつけることは、繰り返すが、誤っている。

　が、おそらく僕がいま「山本五十六はめっちゃいいやつ！　万歳！」などとfacebookやTwitterで叫び出したら、まちがいなく右翼扱いされて吊し上げられる。何故か？
　それは、「まだ早すぎる」からだ。
　ムソリーニやヒトラーによるファシズムはWWⅡでの敗北を通して「民主的な国家」としての戦勝国を相対的に浮かび上がらせ、そして現代の人間はそのときに生まれた「おれたちはファシズムを打倒した善人による国家だ」（戦勝国）もしくは「おれたちはファシズムを乗り越えて生まれ変わった国家だ」（敗戦国）という意識のもとで生きている。まだまだ、尾を引いている。イタリアにファシズムの擁護を禁止する法律があるのは、その「痛みの感覚」をずっと保持したままでいようとする姿勢の現れだろう。
　そんなデリケートな状況でファシズムに関係した人物を評価するような言動をすると、反発に遭うのは当たり前だ。まだ、傷が癒えていないから。

　"歴史学的に"、正当な評価が下される機が熟していないだけだから、あんまり気にしなくていいよ、ベルルスコーニさん。
　ただ、発言の場所は最悪だったね。