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映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

奇想天外~泡坂妻夫さん死去

2009-02-05 23:54:33 | 本・マンガ・雑誌

映画関係の話題が先になってしまいましたが──
作家の泡坂妻夫さんが、2月3日に亡くなりました。享年75歳。

直木賞作家の泡坂妻夫氏が死去(産経新聞) - Yahoo!ニュース

紋章上絵師にして奇術師にして作家。平成2年に『蔭桔梗』で直木賞を受賞したことにより、一般にもその名を知られることとなりましたが、私にとっては何よりもまず「奇想」のミステリ作家でした。そういうファンは他にも多いことでしょう。
ペンネームが本名「厚川正男」のアナグラムであることからして、遊び心が感じられます。

いわゆる「新本格」ミステリが台頭する以前の「冬の時代」と言われた頃に、本格ミステリの牙城であった雑誌『幻影城』を支えた一人でしたが、その作品内容は「亜愛一郎」シリーズに代表されるトリッキーでユーモア味ある短編から、耽美的な長編、「宝引きの辰」捕者帳などの時代ミステリ、また、ミステリ以外の時代小説から普通小説まで、思いのほか多岐にわたっています。

一方、直木賞などを受賞すると「一般受け」する作風へシフトチェンジして行く作家もいる中、泡坂氏はこの人にしか書けないであろう実験的でトリッキーな作品も発表し続けていました。
奇術師らしい企みを秘めた『しあわせの書』もさることながら、『生者と死者』に到っては、本そのものに大仕掛けが施されています。
どういうことかと言うと、文庫本のページをめくる側を断ち切らず、綴じたままの形で出版され、その状態で読めば一編の短編小説なのに、すべてのページを開くと、まったく別の(ヨギ・ガンジー・シリーズの)長編小説が出現するのです!まさかあの登場人物が実は「あれ」で、あそこのページがああだったとは……!と、驚愕仰天すること間違いなしの奇作です。発売当時のキャッチコピーは「消える探偵小説」だったと記憶しています。追記:「消える短編」でした。
正直言って、ストーリーよりも、そんなことまでしてしまう作者そのものに顎が外れそうになりました。
クリストファー・プリースト作の『奇術師』、また『ダークナイト』のクリストファー・ノーラン監督がそれを映画化した『プレステージ』などを、もし泡坂氏がご覧になっていたのなら、ぜひご感想を伺いたいところでした。

それでも泡坂妻夫の代表作と言えば、自分にとってはやはり「亜愛一郎」シリーズです。
よく引き合いに出されるチェスタトンのブラウン神父は、一見ドジな田舎司祭、実は鋭い観察眼と悪への直観力を有する名探偵ですが、亜愛一郎は更にひとひねりされています。
雲や昆虫などを撮影対象とするカメラマン。いつもパリッとしたスーツに身を包み、女性たちばかりでなく男性までもが思わず見とれてしまう超美形。でも口を開けば「ギャッ」などと奇声を発し、動作もおぼつかなくドジばかり。しかし、ひとたび事件が起きるや、余人にはなし得ない発想と論理展開で、奇妙な状況を解きほぐしてみせる──
と言うわけで、日本のミステリの名探偵で今でも最も好きなのが、この亜愛一郎さんなのです。

余談ですが、家の近くに「上岡医院」というのがあって、前を通るたびに「歯痛の思い出」の「亜さん、井伊さん、上岡菊けこさん……あら、失礼しました」を思い出して笑ってしまいます。

このシリーズ、家にあるのは昔の角川文庫版ですが、現在は創元推理文庫から全3巻が出ています。

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角川版の権田萬治氏の解説、当時はあまりピンとこなかったのですが、いま読むと『幻影城』の時代と名編集長・島崎博への愛惜に充ちた実に良い解説でした。

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泡坂氏の最後のミステリ小説は、これに発表された短編だったのでしょうか……

そう言えば、もう十年以上も前、NHKに出演されたのを見たこともあります。奇術の話などもされていましたが、マジック用のコインとしては昔の5円銀貨が最も使い易いそうです。今の500円硬貨ではうまくいかないとか。
番組進行のアナウンサーの人に、簡単なマジックのトリックを「今度おせぇたげます(=教えてあげます)」と気さくにおっしゃる東京方言が心地よかったです。

何だかとりとめなくなってしまいましたが、謹んでご冥福を──ではなく、その作品はこれからもずっと読み続けられることでしょう。ファンとしては、むしろそれを喜びと感じます。

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