粉より団子

2007-02-18 01:32:09 | Weblog
 初めてうどんを麺から作りましたよ。箒で。何故かというと、うどん作り当日に麺棒を買う予定だったのですが、何処にも売っておらず、仕方が無く100円ショップで代用品を買う事に。麺棒の代わりになりそうなものをピックアップしていったところ、有力なものが①鎌の木製の柄の部分。②箒のプラスチック製の柄の部分。うどん作りの際に使う麺棒は通常木製なので鎌の柄の部分は長さといい、木の質感といい麺棒の資質を多分に備えているものだったのですが、刃の部分がうどんを引き伸ばす時に回転するため、命懸けでうどん作りをするリスクを考えると泣く泣く消去法的に②の箒を選択せざるをえなかったのです。こうして本来掃除道具であるはずの箒は自らのアフォーダンスを大いに私達に示す結果となったのですが、完成したうどんの味見をしてみると、何故か二人の言葉がでない。しばしの空白を置いた後に『おいしいね・・』。何故か冷や汗が垂れる。麺は一応三人前作り、当日に二人分を食べ、残りの一人分は等分して互いが持ち帰る予定だったのですが、サランラップに彼女の分の麺を包んでる時に彼女が一言『いや、持ち帰って・・』。結果的には半ば強制的に等分して置いてきたのですが、相手の家族の食後の感想

                                     『粉っぽい』
泣けた。箒に。

《今日のお薦め》  

少年少女 福島聡(著)  
 黒田硫黄や浅野いにおが好きな人ならおそらく気に入るはずの漫画。ただし、少年少女以外の福島作品はあまり面白くない。

ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか

2007-02-13 01:20:28 | Weblog
 ティプトリーの小説を夜中に読む。まだ我が目で見ぬ地球の外側に想いだけは馳せながら、体は日本という小さな島国の、其の又小さな東京の一地域である、“東久留米”という街の地酒を吸収する。もっとも、地酒なのに東村山市産。それが久留米人クオリティ。 
 21世紀を生きる私達の“生”の実感はほとんど<社会>という閉じたシステムの中にある。原始的共同体においては、アニミズムやトーテミズムに見られるように、動物だろうが森だろうが死者だろうが、<世界>のあらゆるものがコミュニケーション可能なものとして体験されていたわけだが、主に言語の発達により<社会>が複雑になると、コミュニケーション可能なものとコミュニケーション不可能なものとが区別されるようになり、<世界>から<社会>が乖離するようになった。それゆえ<世界>が<社会>の外側に位置するようになり、近代人は<社会>という閉じたシステムで“生”を構築し、<世界>と接し難い存在となってしまった。
 <世界>とはもちろんあらゆる全体の事である。だが誰しも幼い頃、この問いにぶつかったに違いない。『<世界>はなんであんのよ?』『この<世界>の外側って何よ?』。高校の時も飲み会中にこの話になって皆が異常に“何か”を恐れた覚えがある。そうだ、確か石神井公園の“スマイリージョウ”という胡散臭い焼き鳥屋だった。小学校の時のホワイトデーに嫌いだった子に“意思”ならぬ“石”を丁寧に包装紙に包んでプレゼントするという今となっては駄洒落にもならない暴挙に出たように幼い頃から神をも恐れぬ少年であったが、この“スマイリージョウ”では<世界>の外側という事柄に鳥肌が立つほど戦慄したものだった。
 だが、『<世界>は何故あるの?』『この<世界>の外側って何よ?』という問いは答えを突き詰めると必ずパラドクスに陥る。何故なら、創世の神は<世界>のどこにいるのかと考えた時、<世界>の中にいたら<世界>を創れない。とはいえ外にいたら、ありとあらゆる全体が<世界>だという定義に反し、また<世界>の外に事物を人は認識できないので、神の概念は宙に浮いてしまうのだ。
 もっとも、あの焼き鳥屋で<世界>の外側に戦慄した少年itu君の悩みは、数年後にゲーデルの不完全性定理と出会う事により無矛盾な形式論理で<世界>は完全に覆えない事に気付き解決する。要するに“<世界>は規定不可能なのだ”と。
 だが、そういった<世界>の本源的未規定性ゆえに、自己完結した<社会>の中に不意に名状しがたい<世界>が閲入する時がある。それは特定宗教の装置的機能を持った説明原理としての“神”如き存在とは異なる意味での<世界>だ。その<世界>を感じた時、<社会>の外が突如可視的となり、同時に、<世界>の中にたまさか<社会>があるに過ぎないという事が露になる。
 もうすぐ、桜が咲く。それらが芽吹くのを少し覗いてみるだけでも、おそらく<世界>は少し顔を見せてくれるに違いない。そして、そういった時にこそ<世界>の外側等という大袈裟なものではなく、生物学者レイチェル・カーソンが言う“sense of wonder”のように<世界>そのものの断片々々が奇跡的だという事に気付いて驚嘆せざるをえないのだ。

《今日のお薦め》 
センス・オブ・ワンダー    Rachel L. Carson (原著), 上遠 恵子 (翻訳)