エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XII-10

2024-08-25 07:49:28 | 地獄の生活
気楽な遊び人は、信仰心も持たず戒律も守らず、良心も道徳心さえも持たないことを自慢たらしく誇ったりし、神も悪魔も恐れない。しかしそれでも、生まれて初めて明確な犯罪に手を染めるとなると、激しい苦しみに身を引き裂かれる思いをするものだ。はっきりと法に触れ、発覚すれば陪審団の裁判に委ねられ、漕役刑に処せられる可能性のある犯罪に……。
ド・ヴァロルセイ侯爵が、いかさまゲームのために隅に切り込みを入れたカードを共犯者であるド・コラルト子爵に手渡したその日以来も、どれほど多くの犯罪に関わったか、誰が知ろう?
こういったことを別にしても、この破産状態にある侯爵の日々の暮らしはかなり悲惨なものであった。借金の取り立てに来る者たちの目から見せかけの栄華を守ろうとする必死の努力は、難破した者が漂流物に懸命にしがみつこうとするのと同じようなものであった。フォルチュナ氏に対して認めたことがあったように、このような豪華絢爛たる住居に住みながら、時にポケットには一スーの現金もなく、三十人もの召使の冷ややかな視線に曝されながら、驚くべき嘘で固めた日々を送るのは地獄の責め苦に耐えるようなものではなかったか。自分の立場がいかに頼りないものかを思うときの彼の苦悩は、鉱夫のそれに匹敵していたのではないだろうか。採掘坑の底から地表へ引き上げられるとき、彼が命を預けている綱の麻糸が緩み、一本また一本と千切れ飛ぶのを見ているときのような。坑の入口まで、果たして残っている糸が持ちこたえてくれるかどうか自問するときのような。
パスカルは敵のこの苦悩を間近で手に取るように観察することができた。そして恰も天から降り注ぐ露が彼自身の苦しみを和らげてくれているように感じていた。復讐のときが始まろうとしていた……。
しかし侯爵の言う「すぐに」が十五分にもなろうとしていた。しかも中々終わりそうにない……。
「一体何をやってるんだろう?」とパスカルは訝しく思い、彼の動きを一つも見逃すまいと目で追った。
侯爵はスポーツ新聞に取り囲まれていた。テーブルの上、椅子の上、果ては床の上にまで集めた新聞紙が散らばっていた。彼は一枚ずつ新聞を取り上げて開いては、素早く馴れた様子で目を走らせ、彼の望む内容であるか否かによって、投げ捨てたり、赤鉛筆で印をつけた後、積み上げた山に加えるということを繰り返していた。
更に数分が経過すると、さすがに、パスカルが痺れを切らしているのではないかと怖れたのでもあろう、彼は口に出して言った。
「真に申し訳ない。こんな風にお待たせして。しかし、これを待っている人がおりまして、やってしまわねばならぬのです……」
「ああ、どうぞ、お続けください、侯爵」とパスカルは答えた。「わたくし、今日は偶々急ぐ用はございませんので……もし何でしたら、早目の昼食を取りに出てもよろしゅうございますが」
これは儀礼的な申し出だった。侯爵はこれに対して何か応えねばならないと感じたのであろう、読んではメモを書き込むという作業を続けながら、目下の相手に親切ぶるときの態度で説明した。
「私がやっているのはですね、新聞の切り抜き作業みたいなものなのですよ。数日前、私は所有している競走馬のうち七頭を売却したのですが、そのうちの二頭は実に傑出した馬でした。で、購入した相手は、当然ながら、それぞれの馬の正確で法的な証明力のある戦績報告書---馬の履歴書みたいなものです---を受け取ったわけです。ところがこの相手の方はそれだけでは満足できない、と言い出して、各馬のレース参加、優勝、敗北などを細かに報じたスポーツ紙を集めて提出して貰いたいと頑なに主張するのです。8.25

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