エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XI-14

2024-06-14 06:48:53 | 地獄の生活
これまで全く矛盾していると思えた状況に、今や納得が行ったのだった。ほんの少し前まで、彼はまだこう思っていた。マルグリットの父であるド・シャルース伯爵が死の間際に、パスカルを絶望に陥れるような誓いを彼女に立てさせた、という手紙をマルグリットが彼に書いてきた。ところがド・ヴァロルセイ侯爵が言うには、ド・シャルース伯爵の死はあまりに突然訪れたので、マルグリットを認知することも、その莫大な財産を彼女に遺すと言い残すことも出来なかった、と。この矛盾は一体どういうことか。
どちらかが間違っていると言わねばならぬ……。どちらが? ……手紙の方だという可能性は非常に高い。偽手紙は、マダム・レオンの手になるものであるとしか考えられない。この点での確信は絶対で揺るぎのないものであった。そして動かぬ証拠を手に入れたとまでは言えないにしても、この『必携手紙文例集』が意味するところは明らかであろう。
これであのマダム・レオンが庭木戸のところで何故あれほど取り乱していたのか、パスカルにもはっきりと合点が行った。姿を見られるのではないか、誰かが探しに来るのではないかという不安で彼女は震えあがっていたのだ。マルグリット嬢が不意に姿を現し、すべてが露見するかもしれない、と……。
「私の考えでは」とフェライユール夫人が意見を述べた。「あの気の毒なマルグリット嬢に知らせてあげることが賢明なやり方ではないかしら。彼女の小間使いがヴァロルセイ侯爵のスパイであるということを」
パスカルは同意しようと口を開いたが、考え直した。
「彼らはマルグリットにぴったり張り着いて監視しているに違いありません」と彼は答えた。「もし僕が彼女に会おうとしたり、手紙で連絡を取ろうとすることすら、すぐに感づかれるでしょう。そしたらその瞬間に、今僕が持っている戦いを勝利に導いてくれる有利なカードを手放すことになってしまいます……」
「それじゃお前は、彼女をあらゆる種類の危険に曝しておくことを選ぶと言うの?」
「そうです……彼女が危険に曝されていることは疑いの余地のないところですが……マルグリットは同年代の娘より遥かに多くの経験をしてきています。彼女はマダム・レオンの正体を見抜いているのではないでしょうか。そうだとしても僕は全く驚きませんね」6.14

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