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エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-VI-5

2021-01-20 09:57:03 | 地獄の生活

今夜の彼の振る舞いは、医者としても、判断を下す者としても、既に行き過ぎていた。個人的な事柄に無理矢理首を突っ込むのは、人から信頼を得るための良い方法ではない、ということは彼も理解していた。というわけで、彼は元来た道を引き返したが、もやもやした不満で一杯の思いを抱えながらであった。

「ああ俺はなんて馬鹿なんだ!」と彼は呻るように呟いた。「あの婆さんにいきなり本当のことを言ってしまんじゃなく、もっと気を持たせるような言い方をしてたら、彼女の訪問の真の目的を知ることも出来たのに……彼女には確かに目的があったんだ……けど、何なんだ、それは?」

この答えを探しあぐねているうちに、二回目の往診までの二時間があっという間に過ぎた。可能性のありそうなことからとてもあり得ないことまで、彼は取りとめのない空想を逞しくしたが、これだと思うようなものは思いつかなかった。唯一、議論の余地がないと思われたことは、伯爵が意識を回復するか否かという点を、マダム・レオンとマルグリット嬢が、等しく重要な問題だと考えている、ということだった。この点につき、二人の女たちが得る利益は同じではなかろう、というのがジョドン医師の推測だった。それどころか、二人の間には密かな敵対関係さえあり、家政婦は隠れて彼に会いに来たのに違いない、と彼は睨んでいた。彼とて、マダム・レオンその人及び彼女のマルグリット嬢への愛情の表白を額面通りに受け取るほど馬鹿ではなかった。彼女が入って来たときから、その丁寧な物腰、信仰に身を委ねている口ぶり、本当は由緒ある身の上なのだと匂わせたところなど、全てが強い印象を与えんがため計算されていたのに、終わり頃になると馬脚を現し、疑いを抱かせずにいられないものになっていた。ジョドン医師は、自分の素晴らしいアパルトマンに戻る気になれなかったので、小さなカフェに腰を下ろし、パリで醸造された最悪のビールをバイエルンで製造されたグラスで飲みながら、このように考えを巡らしていたのだった。

そうこうするうちに真夜中の鐘が鳴った……出かける時間であった。しかしジョドン医師は立ち上がらなかった。このように待たされたのだから、その意趣返しに今度は人を待たせたかった……。そんな訳で、カフェが店仕舞いをする頃になってようやく彼はクールセル通りをまた辿り始めた。マダム・レオンがシャルース伯爵邸の門を半開きにしておいたのであろう、彼は扉を押すだけで、中庭に入ることができた。宵のうちにそうしていたように、召使い達は門番小屋に集まっていた。しかし、いつもは悪口で盛り上がる彼らの顔には、今や危うくなった将来への不安が映し出されていた。ガラス越しに、彼らが立ち並び、最も力を持っている二人、即ち門番のブリゴー氏と下男のカジミール氏の間の話し合いにじっと聞き入っている様子が見えた。もしジョドン氏が聞き耳を立てていれば、彼の独りよがりな幻想も多少ぐらついていたかもしれなかった。というのは、頻繁に飛び交っていた言葉は、召使いの給金、特定遺贈、忠実な労働に対する謝礼金、終身年金などだったからである。しかしジョドン医師は何も聞かなかった。中に入れば邸内で働く従僕がいるであろうと考え、彼は玄関ホールに入った。しかし、彼の到着を大声で知らせる者は誰もいなかった。入口のドアは音もなく閉まり、大理石の階段を覆っている分厚い絨毯は彼の足音を消していた。こうして誰にも気づかれることなく、彼は二階の踊り場まで辿り着いた。1.20

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