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生活保護申請者に不適切対応、横浜市の非情すぎる発言 “録音テープ”の中身を公開

2021年03月17日 | 世相 事件

 

 

 

「生活保護の申請をしたい」横浜市の神奈川区福祉事務所を訪れたひとりの女性が申し入れた。すると面接担当者は誤った条件を提示し、本来は有効のはずの申請書を受け取らなかった。市は対応の不適切を認め、謝罪会見をすることになったが、なぜ、このようなことが起こるのだろうか。今回、福祉事務所に抗議した、生活困窮者の支援活動を行う『つくろい東京ファンド』の小林美穂子氏が、その全容を語る。

 

 

 

■福祉事務所が生活保護めぐり虚偽の説明 

 

 仕事と住まいを失った女性Aさんの所持金は9万円でした。数日後には携帯代金や各種支払い(約2万円)が引き落とされる予定となっています。先行きが不安だったAさんは、節約をしようと考え公園で過ごしていました。

 

 そして翌日の2月22日、Aさんは横浜市神奈川区の福祉事務所を訪ね、アパートで生活できるよう生活保護の申請をしたいと申し出ました。

 

 ところが、対応した福祉事務所の職員は、生活保護の申請を希望するAさんを退け、記録に「申請の意思なし」と記載したのです。Aさんは福祉事務所を訪れる前に、困窮者支援団体や弁護士にも相談しており、インターネットからダウンロードした生活保護申請書を持参していました。また、支援者たちの助言に基づき、職員とのやり取りの一部始終を録音していたため、今回の悪質な追い返し(水際作戦)が明るみに出ることになったのです。

 

 Aさんからの連絡を受けた私たち『つくろい東京ファンド』は、協力する5団体と横浜市市議とともに、神奈川区に対して要望書を提出し、Aさんに対する謝罪と今後の対応改善を求め記者会見を行いました。

 

 

 

■『つくろい東京ファンド』は、協力する5団体と横浜市市議と、神奈川区に対し申し入れをした録音テープとともに神奈川区の対応を検証

 

 では、神奈川区の対応の何が問題だったか。ツッコミどころが満載すぎてひと言ではとても説明できないため、また、生活保護の申請希望者を追い返す行為は、福祉事務所による違法行為であることを広く知ってもらうため、録音していたテープを文字にして解説したいと思います(なお、Aさんのプライバシーに関する発言に関しては伏せてあります)。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

相談係:受付表に「お住まいなし」って書いてあるんですけど? 状況教えてもらってもいいですか?

 

Aさん: 今現在の状況は仕事がなくて、来月までにはお給料入る予定なんですけど。今はお仕事なくて、住所がなくて、カプセル(ホテル)とかネットカフェとか(に泊まっています)。あと、何を言えばいいですか?

 

相談係:お家のない状態だと、ホームレスの方の施設があって、そちらに入ってもらう。そちらは女性の方なので女性相談になる。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 注目したいのは、ここで相談係はまるで施設入所が生活保護の前提であるかのような説明をしていますが、これは虚偽の説明にあたります。施設入所の強制は生活保護法30条違反にあたります。本人が嫌がる場合は別の選択肢を考える責任が福祉事務所側にはあります。

 

 

◆   ◆   ◆

 

Aさん:私が家がないからどうしようかとなってなってるときに、埼玉のNPO法人の人に連絡して。

 

相談係:埼玉? 埼玉にもいたの?

 

Aさん:埼玉にはいないです。ツイッターで連絡しました。“もし申請して断られたら同行してあげます”って言われて、それは申し訳ないなぁと。(生活保護申請)できないんですか?

 

相談係:ほかの自治体の場合だと、お家のない人にはお家を見つける費用とかを援助できるよ、っていう情報としてはあると思うんですけど、ここの場合はホームレスの人の場合は、今日明日泊まる方の部屋がすぐあるわけではないので、施設にご案内するという形になるんだけど。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 この相談係の説明には、大変、驚きました。

 相談係はまるで、アパートの初期費用を生活保護で支給することを都市伝説か、風の噂のごとく話していますが、真っ赤なウソです。そして、神奈川区では生活保護の申請が施設入所前提だとここでも虚偽の説明を繰り返しています。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

Aさん:聞いたところによれば、家がなくても保護申請はできますってNPO法人の方に言われたんですけど、それは違うんですか?

 

相談係:保護申請自体はできるんだけど、(以下音声不明瞭)

 

Aさん: じゃあ、申請ができるなら申請したいんですけど……

 

相談係:今日はどこから来たの?

 

Aさん:今日は……昨日は外で寝ました。昨日はあったかかったので公園。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

「申請したい」と意思を示した途端に話題そらしたのです。間髪いれぬこの華麗な切り返しを生の音源で聞いていると、福祉事務所は普段からその技術を磨いているようにすら思えてしまいます。Aさんはここまでに控えめに、あるいは直接的に三度の生活保護申請の意思を示していますが、申請には至りません。

 

 このあと、Aさんの所持金が9万円あること、3月に5万円のバイト代が入る予定であること、でも今は仕事がないこと、支援団体にも生活保護を利用するよう勧められたことを話し、Aさんはどうにか生活保護の申請をしたいと相談係に訴えました。

 

 それを聞いたあと、相談係は一時退席し、事務所の奥へ消えたと言います。そして誰かと相談して戻って来た相談係は、スラスラとよどみなく以下の説明をしはじめます。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

相談係:お待たせいたしました。今、現時点で問題になっているのは「お家」なんですよ。お家がないのだから、申し込みしたとしてもお家がない状態のまんまだと、住むところがない状態だから、却下になる可能性が出てきちゃうんですよ。

 

 あと、生活保護を申請するときに、持っていていいお金の上限というのがあって、申込時点で持っているお金が上限を超えてしまっている場合は、ここの収入の方に充当されていっちゃうんですよ。そうすると手続きとしてもあまりお得でないというか、損しちゃうので、今の金額からいうと、超えちゃってるから、手続きしたとしても却下になる可能性がある。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 解説します。

 相談係はAさんの所持金が多すぎるから申請をしても却下になる可能性があるとおっしゃっています。確かに、所持金が最低生活費(約13万円)を上回っていれば、生活保護の要否判定で却下になりますが、Aさんの所持金は9万円で最低生活費を下回っています。

 

 生活保護費(最低生活費)は単身世帯の場合、7万~8万円の生活扶助と、横浜市では上限5万2000円の住宅扶助で成り立っており、この相談係は「あなたは住まいがないのだから」と住宅扶助分を計算に入れなかった模様。しかしこれは誤りです。住まいのない状態で申請したとしても、申請後にはホテル等に一旦は宿泊することとなるため、最低生活費の算出には住宅扶助費(宿泊費の実費)も参入されなくてはならないのです。(3月8日、厚生労働省社会・援護局保護課保護係に確認済み)

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

Aさん:質問いいですか? あ、質問いいですか?

 

相談係:はい

 

Aさん:んーと、一応そのごめんなさい、NPO法人の人は、住所がなくても住民票がどっかにあっても、そこにいる場所で申請はできるって言われたんです。

 

相談係:あ、そうそうそう。

 

Aさん:却下になる可能性があるということは、生活費を超えるってことですか?

 

相談係:今住むところがないってことは、住む家賃がかかってないんだから。

 

Aさん:でも、今日から9万円引かれてるわけで……ここの最低生活費っていくらですか?

 

相談係:生活費だけでいうと、7万5000円。もしできるんだったら、敷金礼金がかからない物件を見つけて、それが例えば神奈川なのか東京なのかわからないけど、その住所のあるところで手続きをするのがいいのかなと。もしアパートとか見つけられないというのなら、宿泊所というところ? この辺だと中区の寿町というところにたくさんあるんだけど、そこに住民票を移して手続きをすると。それだと住んでいるところがあるから手続きできます。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 この会話に至っては、相談係は既に自己矛盾を起こしています。

「住所がなくても、住民票がなくても今いる場所で申請できると聞いている」と言うAさんに同意しておきながら、文字どおり、舌の根も乾かぬうちに簡易宿泊所等に住民票設定しないと生活保護の申請ができないと説明しています。その後、困り果てたAさんの声がテープには残されていて胸が痛みました。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

Aさん:じゃあ、今は申請はできなくて却下されるというわけですか?

 

相談係:申請自体はできるけれど、したとしてもメリットあんまりなくなっちゃうから。家を見つけて来た状態でしたほうが確実なんじゃないかなと。

 

Aさん:う―――ん。

 

相談係:敷金とか礼金とか初期費用がかかるところが多いんだけど、それがかからないところをさがして。

 

Aさん:私、保証人を立てられないので、いろいろ探してたんですけど、まぁ、9万円じゃあ難しかったんです。しかも、なくなった段階でお金が引かれてしまったら7万円もないと思うんですけど、どうしようかなぁ……。うううん、うううううん……。困るなぁ……でも、申請はできるんですよね。

 

相談係:申請はしたとしても、住むところがない状態だと(音声不明瞭)

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 怒りしか湧きません。みなさんもちょっと考えてみてください。家がなく、手持ちのお金が9万円で、月末には2万円引き落とされることがわかっている。現在無職。頼る人は誰もいない。生活保護も拒まれ続けていて利用できていない。

 

 このような状況の人に部屋を貸してくれる不動産屋が、大家さんが、いますか? 

 

 相談係は盛んに敷金礼金がかからない部屋と言っていますが、一般的にゼロゼロ物件と呼ばれるその手のアパートは、のちのちトラブルになりがち。だから福祉事務所も生活保護利用者のアパート転宅時には、どこの自治体も「ゼロゼロ物件は避けてね」と常々言っています

 

 これほどまでにゼロゼロ物件を熱烈に推してくる自治体も珍しい。少なくともこれから保護し、生活再建を助けようとする立場の人間が言う言葉ではありません。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

Aさん:その資料あります? 横浜市はホームレスだと申請できません、みたいな。

 

相談係:ううん、申請はできるんだけど、申請しても生活保護を受けれるか受けれないかは別問題ですよと。

 

Aさん:ううううううん、でも家がないから……。申請の紙ってもらっていいんですか? 一応、コピーして申請書を書いて持って来たんですけど。

 

相談係:申請の紙は、お申込みのときにおわたしするので、前もっておわたしするということはしてないです。

 

Aさん:ううううん。どうしようっかなぁ。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 Aさんはとても聡明な方で、相談係の説明の裏付けとなるものを入手しようと、混乱するなかで頑張ります。不安と失望のなかで弱ってきたAさん、その一方で、相談係の方は迷いも消えたような違法行為を繰り返します。

 

 ここでの発言の問題点は、申請用紙を持参したにも関わらず、それを受け取らなかったこと。とても悪質な水際作戦です。申請は、その意思が確認できるものであればフォーマットは何でもよく、それこそ広告の裏に「生活保護を申請します。●月●日 神奈川花子」と書いたものでも有効なんです。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

相談係:アパートとか見つけられないというんだったら、簡易宿泊所をご案内しますけど、どこに泊まるかは自分で探してもらわないと。

 

Aさん:ちょっと私も頭がアレなんで、もう一回、弁護士とNPOの人に話してみます。

 

相談係:勘違いしてほしくないのは、申請自体を受けないってことじゃないよってことです。

 

Aさん:でも、申請のこの紙出しても受け取ってくれないんですよね。

 

相談係:申請自体はできるけど、だからといって生活保護になるかどうかは別だよって。

 

Aさん:でもなかなかこんな感じで、私じゃあ話にならないのでこの紙(しおり)もらっていきます。ありがとうございます。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 相談係は、Aさんに弁護士と支援団体に相談すると言われ、慌てて「申請自体は受けないってことではない」と言っています。しかしこれまでのやり取りで、何度も申請を希望しているAさんに対し、この相談係は、何度退けてきたと思っているんでしょうか。

 

 混乱の極みのなかで、Aさんが持参した申請用紙を差し出そうとしたのに受け取らない。鉄壁の守りです。市民の命と生活を守るはずの福祉事務所が、助けを求めてきた人を追い払う。そのために虚偽の説明を重ねに重ねる。そんな行為は一体なにを守っていることになるのだろう。

 

 

 

■神奈川区の謝罪、そして横浜市による記者会見

 

 Aさんのやり取りに対し、疑問に思った私たちは福祉事務所に申し入れをし記者会見を行いました。すると同じ日の夕方、横浜市も記者会見を開き「対応が不適切だった」と認め謝罪をしました。

 

 そこで配られた『横浜市記者発表資料 神奈川区における生活保護申請対応について』という資料があります。これを見たとき、本当に反省している? と思ったのが正直な感想です。

横浜市が配った記者発表資料



 資料の中で横浜市は神奈川区での対応を「重要な問題と認識している」と書いておきながら、その経緯ではこう書いてあります。

 

《区からは、当事者の生活状況を聞き取りながら生活保護制度について説明しました。当事者より「再度関係者と相談する」と申し出があり、相談を終了しました。》

 

 前述した、区とAさんのやり取りの“会話記録”を読んで、あのやり取りのなかで生活保護制度の説明が十分になされていたと思われるでしょうか? また、そのほとんどが虚偽であったことを考えれば、「制度の説明」なんてよく言えたものだと、再び怒りが湧いてきました。

 

 そして、区側が申請の受け付けをしなかったのが、「再度関係者と相談する」と言って席を立ったAさんの意思であったかのような書かれ方をされているのも心外です。

 

 また、神奈川区の福祉事務所内には、「録音禁止」という貼り紙がされていることがAさんの証言でわかりました。市議が即座に動き、貼り紙撤去の運びとなりました

 

 私自身、これまでの活動のなかで「録音禁止」を別の自治体で目にしたことがありますが、理由を聞けば「ほかの相談者のプライバシー保護のため」などと言うのでしょうが、それは個室の面談室にも貼ってあります。そういう自治体は、録音されたら困る事情を抱えていると考えて然るべきです。市民が公務員の言動を録音してはいけないという法律などありません。

 

 

 

■専門職をそろえた福祉事務所でなぜこんなことが起きたのか

 

 横浜市や川崎市は、福祉事務所に専門職(社会福祉士、精神保健福祉士)を採用することで知られています。この相談係も新米ではなく、福祉事務所での勤務歴8年の専門職採用でした。

 

 職員が一流ぞろいのはずの福祉事務所で、一体どうしてこんなことが起きるのでしょう。

 

 ひとつには、神奈川県に住まいをなくした方を対象にした一時滞在施設が少ないことがあげられます。個室の施設が少なく、コロナ前なら8人部屋(コロナ中は4人)の施設や、個室ならば寿町にある簡易宿泊所と選択肢が限られています。

 

 寿町は多様な人々を内包する懐の深い街ではありますが、そういうところに馴染めない人たちも増えてきています。それは、障害があったり、集団生活が苦手な人や若い世代の人たちや女性です。そういう人たちの一時待機場所がないから追い返す、ではなく、短期間だけビジネスホテルやネットカフェなどを駆使しながら、その間にアパートを探してもらうなどの方策をとるほうが、相談者も安心ですし、職員も志を保ちつつ誇りを持って仕事ができるのではないでしょうか。

 

 今回の“事件”は、対応した相談係ひとりの落ち度では決してなく、組織的なものであったと私たちは確信しています。似たようなケースがいくつも報告されていますし、状況から考えても組織的と考えるほうが自然だからです。今回の失敗を言葉だけの謝罪で終わらせるのではなく、名実ともに理想的な福祉運用をする自治体に変わっていくことを期待しています。

 

「私のような目にあった人が、たくさんいるんじゃないかと心配になった」

 

 窮地にあっても他者に思いを馳せたAさんの言葉を最後にしたためて。

 

 

 

 

小林美穂子(こばやしみほこ)1968年生まれ

、『一般社団法人つくろい東京ファンド』のボランティア・スタッフ。路上での生活から支援を受けてアパート暮らしになった人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネイター(女将)。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで働き、通訳職、上海での学生生活を経てから生活困窮者支援の活動を始めた。『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店/共著)を出版。

 


週刊女性PRIME 2021/3/17

 

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