
F log
宮 駿氏 といえば、トトロやポニョに代表される子供と一緒に見られるアニメーション映画が有名だが、
他の作品の端々に散見される軍事考察から、かなりのミリヲタとしても知られる。
宮ファンである職場の同僚 T さんに、御大のミリヲタぶりを教えてやろうと こんなの や あんなの を貸してあげた。
この二冊はミリヲタから見てもかなりおもろい。
ま、主人公は相変わらず

しばらくして T さんがその二冊を返してくれた時 「 F さん、ナウシカの原作読んだことありますか? 」 と聞かれた。
かの有名なアニメ映画 風の谷のナウシカ は見たことあるが、原作は読んだことが無かった。
そう伝えると、彼女はニヤリと笑って原作漫画全 7 巻を貸してくれたのだ。

化粧箱・・・と呼ぶにはいささかチープな紙のケースに入った大判のコミック全 7 冊。
さっそく読んでみた。そして、
圧倒された

なにこれ? 映画とまったく違うじゃん!!
違うというか、映画は原作の 1~2 巻までしか描いてなかったのねぇ。
それに T さんがニヤリとした訳が分かった。
だって全 7 巻に渡って最初から最後まで戦争してるんだもの
そもそもこの 7 冊セットは 「 トルメキア戦役バージョン 」 とも言うらしい。
要するに戦記なのだな。
登場人物それぞれの描写が映画に比べて深いし、そもそも映画には登場しないキャラの方が多い。
なかでも F が惚れたのは、トルメキア王国第 4 皇女にして精鋭装甲騎兵第 3 軍の最高指揮官である クシャナ殿下 である。
ありきたりな異性としての 「 惚れた 」 ではない。
その男前な生き様にホレたのだ。

自ら率いる第 3 軍の戦旗を前にポーズをとるクシャナ殿下 ( 第 2 巻折込ポスターより )
25歳にして第 3 軍を精鋭部隊に育て上げ、兵から絶大な信頼と忠誠を得ている。
その卓越した戦術的能力と部隊全体を鼓舞するカリスマ性から、敵からは 「トルメキアの白い魔女」 と恐れられている。
( Wiki より )
その勇猛ぶりが遺憾なく発揮されるのが、第 3 巻である。
兄たちの陰謀で手兵第 3 軍を取り上げられたクシャナ殿下は、わずかな兵とともに無謀な作戦に投入される。
3 人の兄たちはその作戦でクシャナが戦死するか、無茶な作戦立案に怒って戻れば造反として処刑するつもりだったのだ。
それほどまでにクシャナ殿下の軍におけるカリスマ性は際立っていたのだ。
期待に反して生き延び、更に命令にも反せず、兵力を激減させながら殿下は南下を続ける。
なぜならその先には彼女の手から奪われた第 3 軍が、兄たちの軍に編入されて存在していたからだ。
しかし神速と表現される機動攻撃を得意とする装甲騎兵第 3 軍は 3 つに分断され、不得意な拠点防御を命じられ損耗していた。
コルベット ( 殿下が座乗する航空機 ) から自ら育てた手兵が壊滅していくのを見た殿下は、軍旗を掲げ銃座から身を乗り出して抜刀し、
自らの存在を絶望的な状況にいる兵に示した。
兵たちは最後の最後、とうに死んだと思っていた自分たちの指揮官の姿を見た。
敵の砲撃が激しくなる中、兵たちは 「 クシャナ殿下 万歳!! 」 と叫びつつ全滅した。
クシャナ殿下は退避しつつ名台詞を吐く。曰く・・・
「 そなたたちの最後見届けた!! わたしから第 3 軍を奪い精兵を虚しく犬死させた者どもへのわが復讐をバルハラにて見守るがよい!! 」
痺れるねぇ。
そしてクシャナ殿下はそこら東に位置するサパタの城に立て籠もる第 3 軍の最後の生き残りを救う決心をする。
敵に包囲されている城に強行突入して、奪われた指揮権を奪回するというのだ。
周囲は敵だらけ、そしてその敵は攻城砲 ( 臼砲のような短砲身の大口径砲 ) を展開し、それらが火を噴けば全滅は必至というシビアな状況。
対空砲火の中、敵陣を飛び越えて城内に強行着陸したクシャナ殿下に、第 3 軍残存兵の士気は大いに上がる。
兵たちの圧倒的な支持により現在の指揮官 ( 兵を見捨てて脱出しようとしていた ) から指揮権を剥奪したが、処刑しようとはしなかった。
突入したのはおそらく朝。
僧が支配する宗教的な敵はその宗教的制約から総攻撃が正午からと決められていた。
クシャナ殿下はあっという間に事態を掌握し、それを打破する作戦を立案する。
またそれが大胆不敵。
城の正門は敵が濃密な火線を布いているので避け、準備砲撃の爆煙に隠れて別な城壁を工兵が爆薬で吹き飛ばし、
その穴から騎兵突撃を敢行し前線の敵兵を飛び越えて攻城砲群を叩くという何ともはや時代がかった作戦。
なにしろ突進する装甲騎兵の少し前に弾幕を張り、襲歩に合わせて移動させよというもの凄い指令も。
殿下は仰る 「 速力が武器だ 」 と。
遠すぎた橋でホロックス英陸軍中将が言っていたのと同じ台詞である。
そうなのだ、装甲部隊はいつの時代もスピードが命でなのである。
砲兵の武器は、デカいパンツァーファウストの様な有翼のロケット兵器。
装薬はたいした量じゃなさそうだし、味方の装甲騎兵の速度に合わせて細かに射程をコントロールできるとは思えないが、
おそらく砲兵が優秀なのだろう。
準備砲撃とともに城壁が爆破され、爆煙のもと突撃の血路が開かれた。
城の防御で犬死するはずが、思いもかけず本分の騎馬襲撃のチャンスを与えられ兵の士気は極限まで高まっている。

先頭に立つクシャナ殿下と配下の装甲騎兵。
馬といってもこの時代、彼らが乗るのはトリウマというダチョウのような馬のような 2 足歩行動物。
装甲騎兵の装甲とは、自らの甲冑とトリウマに着せた鎧である。
上の突撃横隊直後、殿下が抜刀すると装甲騎兵たちもいっせいに抜刀。
それを見ていた砲兵隊の指揮官は、照準を徐々に延長していく。
砲撃に首をすくめていた前線の敵兵は、煙の中から突撃してきた装甲騎兵に驚く。
奴らは城内に立て籠もっていたはずじゃあ・・・
塹壕を軽々と飛び越えて、装甲騎兵の隊列は一直線に攻城砲の群れへと突進する。
連発の銃火器を所持する敵に対し剣をかざした騎兵突撃とは無謀にも思えるが、この場面は何度読んでも血沸き肉踊る名シーンである。
トルメキア軍は出てこないと油断していた敵は、砲台に護衛も置いていなかった。
片っぱしからショルダーバッグ型の爆薬で粉砕され、わずかな時間で攻城砲群は全滅した。
僧兵である敵の指揮官はここでやっと悟るのである。
「 なんという迂闊。トルメキアの白い魔女は生きていたのだ 」
この後、やっと登場した敵の騎兵 ( こちらは毛長牛という 4 足歩行動物に騎乗 )
立ち直った歩兵に挟撃されそうになった部隊は、
ナウシカの鏑弾 ( かぶらだま : 非殺傷の音響弾 ) に助けられ、無事に脱出する。
その際、装甲騎兵の 1 分隊 5 騎がナウシカの援護のため分派を上申して許可される。
彼らはその装甲でナウシカと彼女のトリウマを取り囲み守ろうとする。
しかしナウシカは軽量という非装甲の利点を生かして突破する心づもりがあったのだ。
装甲騎兵に守られて結果、スピードが鈍った集団は敵の的になってしまった。
1 騎、また 1 騎と倒れ、最終的にナウシカを逃がすため 5 騎全兵が犠牲になった。
その後、紆余曲折あってナウシカだけが城内に戻るのだが、愛馬であるカイも同時に力尽きて死ぬ。
ナウシカに守られたという自覚のある装甲騎兵たちは、整列して勇敢なる軍馬に別れの敬礼をするのだった。
そしてクシャナ殿下はといえば・・・
そのシーンを離れた所から見守っていて、「 あの馬、食糧せず丁重に埋葬してやれ 」 と部下に指示する。
泣けるなぁ~このシーン。
と、クシャナ殿下の活躍する一場面を書いてみたのだが、これは殿下がナウシカとの生き様の違いを明確に自覚した大事な一節である。
そしてクシャナ殿下はこの後、アニメ映画とは段違いの深みのある人物に成長していくのである。
エヴァの庵野氏がクシャナ殿下を主人公にしたスピンオフ 「 クシャナ戦記 」 をやりたいと表明して宮御大に却下されたという話があるが、
監督が誰であれぜひ見たいのだが、御大自らやってくれないものだろうか。
というわけで F のようにアニメ映画だけを見て原作を未読の方には、ぜひ一読を勧めたい漫画であった。
あ、ミリヲタじゃなくとも面白いので念のため

ナウシカは細かいことまで書いちゃっても大丈夫な作品ですよ、たぶん。
詳細要約、よりぬきを見聞きしても、ちっとも読んだことにならない「まともな作品」ですから。
宮崎駿さんはやっぱり稀代の「戦争作家」だと思います。
「よきもの」を希求するという表現を、戦争という素材をもって、というのは多くの人がやっているようで、実は全然なしえていない。
戦争はだめ、だめだめダメダメ!というのは表現ではない。何も言ったことにはなんない。
物欲しそうな言辞、表現、そういうのを極力排除して、それでもなお物語への衝動を隠さずに、なにかしらのものが描きうる宮崎さんはやっぱり・・・目が行ってしまうんです。見ないようにしていても。
雑想ノート系の著作は確かに宮崎さんを味わう好適なテキスト(+絵)ですが、そこに以下のちょこっとマイナーな物件もぜひ加えていただきたい。
(あえてアマゾンではないところにリンクしてます。ISBNとかの参考にひとつ)
ロバート・ウェストール著 『ブラッカムの爆撃機』 岩波書店
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4000246321.html
宮崎さんが強い共感を隠さない、童話作家として名のあるウェストールの「戦争について」の代表作ほか短編集。
ここに宮崎さんは、ウェストールと自らの邂逅を描いたストーリーを添えています。これがまた素晴らしいんです。多くは書きませんけど。
アントワーヌ・ド・サン・テグジュペリ著 『人間の土地』 新潮文庫・改版
https://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4102122028.html
稀なる飛行家、ふるき美文書き、「正気を失わなかった者」のひとり、サンテックスの代表作(「星の王子さま」はサブテキストにしか思えない・・・)の新潮文庫現行版に、宮崎さんがあとがきを寄せています。吐き捨てるように、いいこと書いてるんです。
果たせないまま時間が流れていました。
Fさまの記事におんぶ&だっこをお許しください。
クシャナ、シブすぎです。
そして彼女が育てた軍団もまた。
全巻通してのアニメがみたいです。
さらに横レスになりますが、
バントウさんおすすめの2冊、私もおすすめです。
特に『ブラッカム』は、宮崎さんを深く知る、
さまざまな示唆を与えてくれると思います。
懐かし過ぎ!
こんなのやあんなのももちろんのこと、ブラッカムも読みました。
豚さんや空島もミリ色が濃いですよね。
たまりませんなぁ(笑)
ダラダラ書いたので長くなってしまいましたが、これ原作でいえば第3巻のほんの数十ページです。
まぁ戦闘シーンなので、F 嫁などはすっ飛ばして読んでたらしいです。
ただ、決め台詞はまずかったかな
宮さんの描く戦争は、おっしゃる通り強い衝動を感じます。
彼に充分な資金を提供して、制約なしに好きなものを好きなようにやらせたらどうなるんでしょうね。
案外アニメなんて作らずに、戦史跡めぐりなんかに使っちゃいそうです。
『ブラッカムの爆撃機』も『人間の土地』も当然のように未読です。お恥ずかしい・・
今度のことで宮さんに興味が湧いてきたので、手に入れてみようかしら。
そういえばアマゾンはISBNを表示してなかったんですね。
先日、某有名書店で例の日本戦車の写真集を予約するとき電話に出た女性に、
「ISBNいいますね」と言ったら、「ハッ? IS・・?」
という対応で驚いたことがあります。バイトですよねぇ、まさか
全編を通してのアニメ・・・まったく同感です。
ライフワークなんて生ぬるいものじゃないほど、巨大な建築になりますね。
う~む、もう無理なのでしょうか。
hirorinさんのナウシカ記事を楽しみにしています。
あ、クシャナファンクラブでも作りますか(笑)
単行本全巻揃えていないのは私だけ・・
ブラッカムを読んでいないのも私だけ・・でした。
焦って先ほどポチッとしました。楽しみです
で、トランペッターのウィンピー購入に走るのかなと(笑)。
はまりますよー
サンテックスはなにか、昔のFMのジェットストリームを思い出しました。