ぽんしゅう座

優柔不断が理想の無主義主義。遊び相手は映画だけ

■ 愛に乱暴 (2024)

2024年09月08日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

淡々と日常を“こなしている”ように見える桃子(江口のりこ)だが、終始、彼女にまとわりつくような視線(カメラ/重森豊太郎)が、この女の“ただならなさ”を暗示して不穏だ。その不穏が彼女の外部に起因するのか、内側から発散されているか、初めは分からない。

気になるモノの臭いを嗅ぎ、こまめに手を洗う。繰り返されるそんな日常の行為ですら意味ありげにみえてくる。なんだか不気味な女なのだ。やがて一家の顛末が明らかになるにつれ、彼女が醸し出す不穏さの謎が明かされる。

女は家庭という「カタチ」に満足(充分)を求めていないのだ。「カタチ」という多角的な構造のなかに身の置き所、あるいは置き方を見いだせずに、夫(小泉孝太郎)や姑(風吹ジュン)との「カンケイ」という細い線の上に懸命に満足(充分)を見いだそうとしているようだ。それは彼女が進んで望んだものではないにしても。

そんな歪んだ幸福願望を淡々と、かつ絶妙な存在感で江口のりこが醸し出して実にサスペンスフル。抑制を効かせつつ「現実に心が蝕まれたすえの行動が、さらに眼の前の現実を蝕み行動が暴走する」不条理サスペンスの秀作でした。

小泉孝太郎の存在感のないダメっぷり(褒めてます)も好かったです。

(9月2日/MOVIX橋本)

★★★★

【あらすじ】
結婚8年目の専業主婦・桃子(江口のりこ)は夫の真守(小泉孝太郎)の実家で暮らしている。同じ敷地の離れには姑(風吹ジュン)が独りで住んでいる。夫には手の込んだ料理を作り姑のゴミ出しを手伝い、週に2日、趣味を生かした手作り石鹸教室の講師をして生徒にも好評だ。だが姑は息子のことしか頭になく、真守もどこか桃子によそよそしい。そんな日々のなか、手なずけた猫が姿を消し、近所のゴミ捨て場で不審火が続く。やがて桃子は誰もいない家で一人、電動チェーンソーのスイッチを入れることに・・・。平凡な家庭の隠れた因縁を描く吉田修一の同名サスペンス小説の映画化。(105分)


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