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藝祭2024 9月8日(日)に聴いた演奏会

2024年09月15日 | pocknのコンサート感想録2024
藝祭2024 9月8日(日)に聴いた演奏会

藝祭最終日の8日も演奏会を5つ聴くことができました。それぞれの演奏会について簡単な感想を記します。


上野公園での独りライブ

短編ミュージカル「歌う列車は舌の上で夢を見る」
~第6ホール~

【出演】アマノ:村越桜/ノナ:浅野瑞月【演奏】Pf:半田珠璃/Vn:早川ももこ【作・演出】反町梨里佳【音楽】小林知夏 ほか

オリジナルの台本と音楽による出演者2人の短編ミュージカル。超マイナーな言語(ウラヌ語)を話すノナと、ウラヌ語で書かれた日記の和訳を元に演じる俳優のアマノとの夢と現実の間を超えたやり取りから、2人の思いが深まっていくというストーリー。山場になるようなシーンが欲しい気もしたが、マジョリティの中で生きるマイノリティの思いが反映された考えさせられるテーマが扱われ、それを穏やかで心優しい歌と音楽で綴っていく、ほんわかと心温まるミュージカルだった。ノナ役の浅野さんの初々しく純粋な歌と、アマノ役の村越さんの落ち着いた大人っぽい歌がよく噛み合い、早川さんのヴァイオリンと半田さんのピアノによる温かなデュオが、全体を優しく包み込むようだった。

オペラ・ガラ・コンサート
オペラ専攻G年と有志オーケストラによる

~第6ホール~

1.『ラクメ』より”花の二重唱”
ラクメ:遠藤更/マリカ:松岡なつ美
2.『愛の妙薬』より”おおアディーナ、ひとことだけ”
アディーナ:押見理沙/ネモリーノ:齋藤傑
3.『愛の妙薬』より”ラララの二重唱”
アディーナ:岡本なつみ/ネモリーノ:大野利貴
4.『フィガロの結婚』より”なんということだ”
スザンナ:押見理沙/バジリオ:大野利貴/伯爵:新町佳風
5.『フィガロの結婚』より”手紙の二重唱”
スザンナ:押見理沙/伯爵夫人:野田萌々
6.『セヴィリアの理髪師』より”金貨の二重唱”

伯爵:齋藤傑/フィガロ:新町佳風
7.『皇帝ティートの慈悲』より”ああ、これまでの愛に免じて許してください”

セルヴィリア:遠藤更/アンニオ:野田萌々
8.『蝶々夫人』より”花の二重唱”
蝶々夫人:岡本なつみ/スズキ:松岡なつ美
(アンコール)
♪ 『椿姫』より”乾杯の歌”
指揮:岡崎広樹、西村広幸/藝祭有志オーケストラ

藝祭の演奏会でも一二を争う人気公演、抽選だった頃は絶対当たらなかったが、先着順になったので頑張ってチケットを2枚入手することが出来た。この公演のために編成された精鋭の学生オケをバックに、オペラ専攻の歌手達が次々と自慢の歌唱を披露し、華やかで聴き応え十分の公演。出演した歌い手達は皆、全幕上演もこなせそうな実力を持ち、映える歌を聴かせてくれた。

「花の二重唱」での遠藤さんと松岡さんのデュエットはオープニングに相応しい華やかで鮮やかな歌唱。舞台がパッと明るくなるようだった。押見さんと齋藤さん、岡本さんと大野さんがそれぞれアディーナとネモリーノを歌った「愛の妙薬」からの2つのデュエット、前者は初々しく繊細な表現が、後者では貫禄を感じる濃厚な歌が印象に残った。「フィガロ」からも2つのシーン。「何ということだ」では伯爵役の新町さんの歌が、してやったりの自信満々ぶりが伝わり頼もしかった。「手紙の二重唱」では、野田さんの気高さを感じる、落ち着いたしっとりした歌と、押見さんの初々しく聡明な歌のやり取りが、ほのぼのとした中に企みの心を覗かせていた。「セヴィリア」と「ティート」のデュエットでも、それぞれの役どころをうまく表現していた。そして「蝶々夫人」からの蝶々さんとスズキのデュエットは、締めに相応しいドラマチックで叙情味溢れる歌唱で魅了した。喜びで高ぶる気持ちを表現する岡本さんの艶やかで瑞々しい歌は鮮烈で、聴き手を悲劇の前の眩しいほど明るいクライマックスシーンに一気に引き込んだ。一緒に喜びを分かち合うスズキ役の松岡さんのブレない歌も良かった。

最後に全員で歌った「乾杯の歌」は、「ニューイヤーオペラコンサート」の華やかなステージを思い起こすゴージャスさで盛り上がった。ずっと演奏していたオケの存在も忘れてはならない。場の空気を生き生きと伝える演奏だった。NHKで放送されたファビオ・ルイージの「スーパーレッスン」に出演した姿に好印象を持った岡崎さんの指揮に接することが出来たのも良かった。

8人の歌手達は皆素晴らしい才能と実力の持ち主だと感じた。こういう逸材が藝大に、そして他の音大にもまだまだいると思うが、今日の出演者は記憶に留め、注目していきたい。

尺八×琵琶
~武満に『蝕』発されて~

~第2ホール~

1.武満徹/エクリプス(蝕)
2.長沢勝俊/詩曲
3.塩高和之/まろばし
尺八:屋代佐央里/琵琶:中山誠也

尺八と琵琶という、藝大ならではの組み合わせ。屋代さんの尺八と中山さんの琵琶は、どちらも鬼気迫る息遣いで胸に響いて来た。なかでも武満の「蝕」は、厳しく透徹とした世界を描いた傑作だとつくづく感じた。2つの楽器が、一点に向かって音を集中させ、破裂させる打楽器的な扱いなども盛り込んで対峙する様子は常に緊迫感に支配されている。2人の奏者は、集中力を途切れさせることなくこの作品の魂を聴かせてくれた。「詩曲」は、モチーフの反復的な扱いに西洋音楽の手法を感じた。「まろばし」は、両者がバトルを繰り広げ、また対話している様子が窺えた。

合唱団潮騒
~第6ホール~

1.武澤陽介/新緑
2.ケヴィン・メムリー/アナデュオメネ
3.西森幹也/朝露
4.宮本正太郎/綻びる
5.スヴィリードフ/起床の合図だ
6.松井啓真/金めだか
7.信長貴富/天空歌
8.ヘルビック貴子/永遠の花

【演奏】伊東新之助 指揮 合唱団潮騒 他

美校と音校の垣根を越えて結成され、3年目を迎える30名超の合唱サークル。昔、合唱団誠組というのがあったなぁ、なんて思い出しつつ美しいハーモニーに聴き入った。以前はよく藝祭で声楽科1年生の合唱を聴いていたが、ああいうソリスト集団的なパワーの代わりに、柔らかく澄んだハーモニーを聴かせる合唱団だと感じた。自分の経験からも、良い歌声を近くで聴きながら声を合わせると、普段より自分の声が出る気がするが、この合唱団も声楽科の学生の存在が、合唱団全体を良い方向へ導いているのではないだろうか。ソロイスティックな声が突出して聴こえて来なかったことからも、ハーモニーを大切にする合唱団の姿勢が窺える。

プログラムには、団員や指導教員によるオリジナル楽曲も散りばめられ、オリジナリティ溢れる魅力的な小品が並んだ。コンサート冒頭を飾った藝大教員の武澤氏が作曲した「新緑」は、インスピレーションに富み、生命力に溢れた繊細な曲で、ピアノとともに美しい情景が紡がれて行った。こうしたデリケートで色彩感溢れるハーモニーが、その後に演奏された団員の作詞(岡嶋美柊さん)・作曲による「朝露」や、団員作曲の「金めだか」などからも伝わり、この合唱団の持ち味だと感じた。

一方で、スヴィリードフの「起床の合図だ」や信長貴富の「天空歌」などからは、リアルで強烈な光が感じられたり、ヘルビック貴子の「永遠の花」からは温かな郷愁が漂ってきたりと、様々なテイストを表現することが出来る合唱団だとも思った。ケヴィン・メムリーの「アナデュオメネ」のようにオーボエのソロ(田邊奏貴さん)が加わる曲が入るのも音大の強みだろう。「潮騒」には、これからも長く活動を続けてほしいし、藝祭以外にも活動の場を広げていってもらいたい。

ところでMCで「去年の潮騒の藝祭公演ではマスク着用だったけれど今年はマスクなしで歌える」と聞いて驚いた。コロナはとっくに5類になっていた去年の藝祭でも合唱団はマスク着用を強いられていたなんて、藝大の過剰な感染対策に益々疑問を持った。学生達もよく黙って従ったものだとも思うが。

古楽×現代
~第6ホール~

1.オトテール/プレリュード ヘ長調
2.青木大地/リコーダーと通奏低音のためのソナタ
3.青木大地/うた、リコーダー、ヴァイオリン、チェロ、チェンバロのための五重奏曲「感情と装飾音への試み」
4.青木大地/バロック趣味の3つの協奏シンフォニア

【演奏】歌:久保田里奈/Rec:下田和直香/Vn:寺内詩織/Vc:山田亮平/Cem:佐藤輝季
青木大地指揮 室内合奏団Collegium Musicum Geidai


この演奏会のタイトルを見て、オペラシティがやっているリサイタルシリーズ「B→C」のように、古楽器を用いたバロック音楽と現代の作品を盛り込んだプログラムによる演奏会だと思っていたら、冒頭のオトテール以外は全てCollegium Musicum Geidaiを結成した学生の青木大地さんの作品を特集する演奏会だった。

所属しているバハカンをこよなく愛し、古楽器を愛でる青木さんの作品は、バッハの時代の音楽様式を基調に、新しいテイストを加えたポスト・バロック的な音楽(と云っても殆どバロック音楽を聴いている気分)や、その一方で「感情と装飾音への試み」では、独自の記譜法を駆使した非常に前衛的な響きの音楽もあり、青木さんの多才さが披露され、楽器紹介も交えた楽しいコンサートだった。ただ、このコンサートでメインとなったバロック風の作品を今書く意味とは、という思いも残り、昨日の日本歌曲勉強会のステージで聴いた、同じ青木さんの作品から聴こえた繊細で即興的な魅力を具えた音楽を聴いてみたいとも思った。

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