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NISSAY OPERA 2017 オペラ『ルサルカ』

2017年11月17日 | pocknのコンサート感想録2017
11月12日(日)NISSAY OPERA 2017
【演目】
ドヴォルザーク「ルサルカ」全3幕
台本:ヤロスラフ・クヴァピル
日生劇場

【配役】
ルサルカ:田崎 尚美/王子:樋口達哉/ヴォドニク(水の精):清水那由太/イェジババ(魔法使い):清水華澄/外国の公女:腰越満美/料理人の少年:小泉詠子/森番:デニス・ビシュニャ/森の精1:盛田麻央/森の精2:郷家暁子/森の精3:金子美香/狩人:新海康仁
【演出】宮城 聰 【照明】沢田祐二 【衣装】高橋佳代
【演奏】
山田 和樹 指揮 読売日本交響楽団/東京混声合唱団

ドヴォルザークのオペラ「ルサルカ」は上演される機会が少なく、僕は存在すら知らなかった。日生劇場の今回の上演を観て、このオペラの音楽、台本、そこから伝わるメッセージに深い感銘を受けた。「ルサルカ」は妖精界と人間界の間の悲しい恋の物語。人間の王子に恋した妖精ルサルカは、恋を叶えるために魔法使いと交渉して自分の声と引き替えに人間になり、一度は王子と結ばれるが、王子の心変わりによって悲しい結末を迎えるという、よくあるおとぎ話だが、台本では人物の心の変化が丁寧に描かれ、ドヴォルザークの音楽が本当に素晴らしかった。

舞台は全幕を通して広い階段のセットのまま、どこの場面かもよくわからず、取り立ててこれというものはなかったが、照明の使い方は印象的で、何より粒揃いの歌手陣と山田和樹/読響が、上演を極めて高いレベルに持ち上げた。

凄みさえ感じる威厳と包容力のある温かな感情表現を持ち合わせた清水那由太扮するヴォドニクが、このオペラに単なるおとぎ話ではない深みを与えた。ルサルカ役の田崎尚美は、役に相応しい透き通った美声で、王子の裏切りに遭っても愛を貫き通す強い信念を劇場の隅々まで聴かせた。王子を歌った樋口達哉の張りと艶のある輝かしい声は常に聴き手を引き付け、終幕で見せたルサルカへの死を覚悟の永遠の愛の誓いからは本気度が伝わってきた。

料理人の少年を歌い演じた小泉詠子と森番役のデニス・ビシュニャは、シリアスな場面にフレッシュな風を送り込んだ。とりわけ小泉が演じる元気一杯の少年は、オペラに「動」の世界をもたらし、また第3幕で王子の様子を魔法使いに歌い聴かせる場面は、バラードのように切々と心に沁み、王子に同情を抱かせた。他のキャストもみんな満足度は高く、日生劇場オペラシリーズのこの日のキャスティングは大当たりと言えよう。

山田和樹指揮の読響は、歌のバックでも管弦楽だけによる演奏でも終始見事な演奏を聴かせた。濃厚で高いテンションと、たっぷりとした歌、熱くドラマチックな表現力、それが整然と的確にコントロールされ、品を保って雄弁に聴き手に届いてくる。民族的な血や武骨な表情の代わりに、インターナショナルな普遍性で勝負してくる。読響の精度の高い凝縮されたアンサンブルや、華やかで艶やかな音色が、歌の背後で演奏していてもオーケストラの存在を聴き手に常に感じさせ、音楽が情景や心情をより深く大きく描き出し、シンフォニーやコンチェルト、スラブ舞曲などで聴けるドヴォルザークの豊かな旋律とハーモニーに溢れた管弦楽の魅力を、心行くまで味わった。

オペラを全幕観て、いつの世でも変わらない人間という生き物の愚かさ、浅はかさ、無慈悲さが、妖精界のルサルカや、ヴォドニクの深い愛情や正義感、信念の強さによってあぶり出されながら、最後は王子が自らの命を賭して「人間だって捨てたものじゃない」と訴えかける人間ドラマだと感じた。ありふれた筋書きが、こんな深いメッセージを伝えてくれたのは、人物を細かく描写した台本にドヴォルザークが極上の音楽を与えたからだろう。そして、その音楽の持ち味を見事に音で表した歌手陣とオケの素晴らしさ!終演後、劇場は満員の客席からの大きな拍手とブラボーに包まれた。

「ルサルカ」は、滅多に上演されないのはもったいない作品だと思った。ヴェルディやプッチーニ、ワーグナーもいいが、「ルサルカ」を是非ともオペラ劇場のレパートリーに加えてもらいたい。また是非観たいオペラだ。

東京二期会オペラ劇場+NISSAY OPERA 「ナクソス島のアリアドネ」(2016.11.23 日生劇場)
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~(小泉詠子が歌う)金子みすゞの詩による歌曲集~

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