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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

マイスキー バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲演奏会 I

2007年11月01日 | pocknのコンサート感想録2007
11月1日(木)ミッシャ・マイスキー(Vc)
~ミッシャ・マイスキー 60歳記念プロジェクト~
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1. バッハ/無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BWV1007
2. バッハ/無伴奏チェロ組曲第4番変ホ長調BWV1010
3.バッハ/無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調BWV10112
【アンコール】
1. バッハ/無伴奏チェロ組曲第3番~ブーレ
2. バッハ/無伴奏チェロ組曲第2番~サラバンド

マイスキーは僕の一番のお気に入りのチェリストで、もう20年以上に渡り度々聴いている。マイスキーを聴き始めた頃の、あの全身全霊で表現する苦しいほどの、魂を搾り出すようなチェロから、全てから解き放たれ、自由に羽ばたく演奏へと変遷していったマイスキー。

演奏会を聴くのは3年振り、しかもバッハの無伴奏を聴くのはさらにずっと久し振りで、どんな演奏を聴けるか楽しみだったが、今回のバッハの無伴奏を聴いて、マイスキーが今どんなバッハを表現しようとしているかということに少々疑問を持った。

ずっと以前の、微塵の隙もない完全燃焼して全身全霊でぶつかる演奏に接してマイスキーに魅せられた僕としては、以前のマイスキーにやっぱり一番惹かれるものがあったが、自由に軽やかに羽ばたいたマイスキーの演奏も、一見その前のスタイルとは正反対のようではあっても、表現する可能性を極めたという意味では共通したものがあり、これもマイスキーならではの魅力だった。しかし、今夜聴いたマイスキーはそのどちらでもない、中間に立っているような気がした。「ニュートラルなマイスキー…」 マイスキーという音楽家に一番似合わない言葉が浮かんできてしまった。

もちろん演奏はあくまで真摯で、熱さもあり、よく練り上げられた歌いまわしは、演奏のレベルで言えば申し分ない(一部で見られた演奏の乱れは問題ではない)。しかし、常に極限の表現を追い求めてきたマイスキーを思い出すといかにも物足りない。ふわりと羽ばたいたマイスキーは、その表現を齢を重ねるごとに純化させて行き、誰も行き着いたことのないような彼岸の境地へと向かうのでは、とも思っていたが、今夜の演奏を聴くと、そうした天上的なものではなく、以前の人間臭い情念を求めているようにも見える。

マイスキーはきっといつまでも同じところに留まることがない、常に変化する音楽家なんだろう。その変化は、決して安易なものではないということは、これまでのマイスキーの変遷が証明しているわけだし、一旦ニュートラルな状態に立ったマイスキーが今後どんな音楽を聴かせてくれるかは、楽しみではある。

4番、5番のプレリュードで聴いた怒涛のような音楽や、アンコールでやった3番のブーレで聴いた自由な表情… 他にも良いところはいっぱいあったわけで、次にマイスキーを聴くときは、これまで誰も聴いたことがなかったような新たな境地から、新しいマイスキー節を聴かせてくれることを期待しよう。

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