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山田和樹 指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢

2012年01月11日 | pocknのコンサート感想録2012
1月11日(水)山田和樹 指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢
紀尾井ホール

【曲目】
1.モーツァルト/「魔笛」序曲 K.620
2.モーツァルト/ピアノ協奏曲第26番ニ長調「戴冠式」K.537
 【アンコール】
 シューベルト/リスト編曲/セレナーデ
Pf:モナ=飛鳥・オット
3.ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op.67「運命」

【アンコール】
1.ベートーヴェン/交響曲第8番へ長調~第2楽章
2.久石譲/「坂の上の雲」のテーマ音楽

アンサンブル金沢を聴くのは、岩城宏之が存命で音楽監督を勤めていた時以来なので、相当に久しぶりだ。日本初の室内オーケストラとして地方都市に誕生したオケだが、その後も堅実に活動を積み重ね、着実に活躍の場を広げ、評価を高めている様子は頼もしく嬉しい。今夜は最近メキメキと頭角を現し、世界のオケからのオファーも急増して知名度をグングンと上げている若手指揮者、山田和樹が指揮台に上がった。山田の指揮に触れるのは全くの初めて。

新年の冒頭を飾る演奏会の初っ端が「魔笛」の序曲というのは嬉しく、演奏がまた素晴らしかった。山田の指揮するモーツァルトは、若手で気鋭の指揮者というイメージから、ピリオド奏法を採り入れた「今風」の活きの良い演奏が始まると思いきや、遅めのテンポで重厚な、言い方は悪いが、一昔前の演奏スタイルのように感じた。しかし、演奏の気迫、勢い、充実した厚みのある響き、確実に音を繋ぎ、音楽を構築して行く様子など、どれもに並々ならぬ非凡さを感じ、何よりどれもがストレートにハートに訴えかけてきて、たちまち演奏に引き込まれていった。

これには、後半の「運命」でもそうだったが、オケの迷うことなく演奏に喰らい付いてくる思い切りの良さと、勢いを持ちながら、同時に細かいアインザッツも確実に決めてくる「合わせ」の技量の高さも大いに貢献していて、重厚でかつ躍動感あふれる快演で演奏会が始まった。

続いて、若手の山田より更に10歳以上若い、モナ=飛鳥・オットをソリストに迎えてのモーツァルトの「戴冠式」。彼女の演奏は、去年の9月にモーツァルテウム管弦楽団との共演で、やはりモーツァルトの21番のコンチェルトを聴いている。オケの序奏ではヴァイオリンパートがもっと歌って欲しい、なんて思っているうちにピアノが入る。オットのピアノは粒立ちが良く、明るい音色や生き生きとした音の運びには、前回聴いた時と同様に好印象を受けたが、モーツァルトならではの優美さには欠け、何より「歌」の要素に物足りなさを感じた。この「歌」は、アンコールでのシューペルトではたっぷりと聴かせてくれたので、歌心はきっと十分に持ったピアニストなのだと思うが、今回のモーツァルトでは残念ながらそれは発揮できていなかった。

若くてきれいな女性ピアニストには、イメージとしてはモーツァルトが良く似合うが、実際のモーツァルトは手強い相手。オットの演奏を今聴くとしたら、シューマンとかラヴェルのコンチェルトを聴いてみたい。日本とドイツの架け橋となるアーティストでもあるし、今後益々活躍していって欲しい。アンコールを紹介したときの日本語は、日本で生まれ育ったようなきれいな発音だった。

さて、後半の「運命」、これも「魔笛」と同様のアプローチだが、「魔笛」で聴かせてくれた良いところを、全てに渡って更に究極まで極めたような、有無を言わせぬほどの素晴らしい演奏だった。堂々とした風格は、往年の名巨匠の貫禄を彷彿とさせる一方で、若さ溢れる気迫が音楽の四肢にみなぎっていた。弦楽器群は、ギシギシという軋みが聞こえ、焦臭い空気が漂ってきそうなほどに熱気と気迫に溢れ、しかも演奏は決して荒削りにならず、よく揃って充実した音を鳴らしている。

第1楽章では、エネルギッシュななかに、山田の音量と音の密度に対するバランス感覚と、コントロールの巧さに恐れ入った。これによってこの楽章全体が揺るぎなくがっしりと、堅牢に力強く構築される。第2楽章出だしのチェロとヴィオラの何とも柔らかな肌触りの極上の響きと歌も素晴らしかったし、盛り上がる部分で入るティンパニは、今まで聴いたことがないような、頼もしく格調の高い音が届いてきた。第3楽章のミステリアスなシーンも実に堂々としている。

そして第4楽章、これは圧巻以外に言葉がない。凝縮された気迫が一気に炸裂したドラマチックな展開に、手に汗握って息を呑んで聴き入り、そのうち体中の血が熱くたぎってくるようだった。ただ、指揮をしている山田は至って冷静に、どのパートをどんな勢いで投入し、それらをどのように組み合わせて構築して行き、盛り上げて行くかを計算している様子が、指揮姿から伺えた。コーダでの火に油を注いだような燃え上がりも凄いの一言。素直に「感動した!」と叫びたい。

アンコールではベートーヴェンの8番まで聴かせてくれ、これを聴いたら、山田/アンサンブル金沢で、ベートーヴェンのシンフォニー全曲演奏会が聴きたくなった。

山田和樹の指揮を初めて聴いて、いきなり魅了されてしまった。これからが益々楽しみな大物指揮者だ。アンサンブル金沢は、以前の好印象に加え、益々充実した響きを作るようになったと思う。東京での公演数を是非増やしてほしい!

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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-01-17 22:18:55
札幌公演の運命も全くその通りの巨匠風の立派な演奏でした。オケも室内オケと思えないほど重量感のあるサウンドでした。
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室内オケ? (pockn)
2012-01-19 17:24:22
札幌からのレポート、ありがとうございます。
確かに本当にすごいボリューム感でしたね。
このブログ記事で「室内オーケストラ」と書くときに、戸惑ってしまうほどでした。
返信する

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