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冥土院日本(MADE IN NIPPON)

《風の盆 その1》

(C) Photo by Mr.photon

■はじめに

 おはら風の盆で知られる富山市八尾(やつお)町は私の義父の故郷です。
今年は家族や両親と共に「風の盆」を見物に八尾(やつお)町を訪れました。
五穀豊穣と人々の安寧を願う祭りの話を私のブログの最初の話題とさせていただきます。




●「越中・八尾」

 八尾町は江戸時代、富山の薬売りの薬を包む和紙の製造や販売と他国物産の集積地として隆盛をなした、富山市に隣接する人口2万余りの山あいの小さな町です。(注:2005年4月1日より富山市に合併し、富山市八尾町となりました)
普段訪れれば、気づかずに通り過ぎてしまうような鄙びた田舎町。時の流れが止まったかのように感じるこの町が、一年で最も華やぎ昔日の活気を取り戻すのが「越中おわら節」で知られる「風の盆」です。


(唄われヨー、わしゃ囃す)

♪見たさ逢いたさ、想いが募る

(コラサノサー、ドッコイサーノサー)

 恋の八尾は、おわら雪の中 ♪

 一地方のローカルな祭りを有名にしたのは何と言っても直木賞作家「高橋 治」の小説「風の盆恋歌」の功績が大でしょう。歌謡曲好きの方なら「石川さゆり」の「風の盆恋歌」を聞いた事はありませんか。「なかにし礼」氏の耽美的な歌詞と、しっとりとした女の情感を歌い上げたなかなかの佳作です。


●「風の盆」とは

 この祭りは江戸の寛永年間に始まり、300有余年の歴史があるとされています。本来は7月の盂蘭盆の行事として行われていたものが、何時の頃からか毎年二百十日の厄日に豊穣を祈る行事へと変化したそうです。「風の盆」の名称はここに由来します。[風の盆」は毎年、曜日に関係なく9月の1、2、3日の3日間に行われます。住人や観光客の都合に合わせて、あえて夏休み中や休日に開催しないところが、現代人の都合に安易に迎合する事無く、頑なで清々しいとさえ思えるのです。


●「胡弓と町流し」

 この祭りの特徴は前述の「越中おわら節」の伴奏に三味線太鼓と共に、胡弓が使われることです。胡弓が奏でる旋律がなんとも優雅で哀愁をおび、田舎町の野趣豊かで素朴な唄と踊りに一種の気品を与えています。

 踊り手は男女。男性の衣装は町名と紋所を染め抜いた黒の法被、股引姿に編笠をかぶります。女性は白地と桜色をベースにした上物の浴衣を着用します。袂にはおはら節等の歌詞が染め抜かれ、黒の帯をお太鼓で結びます。帯〆と編み笠の紐、草履の鼻緒の朱色が眼に鮮やかです。最近は様々なの色のバリエーションもあるようですが、これらの色の組合せが一番美しく感じられます。

 祭りの当日は町々にぼんぼりが灯され、町屋の正面には町ごとにお揃の幔幕が張られます。このぼんぼりの灯りの中、男女の踊り手と囃し方が一隊となって通りを踊って歩きます。胡弓の調べと哀調の唄、ゆっくりとした踊りの隊列が歩む姿は、まさに幻想の世界です。特に観光客が引いた後の、深夜から明け方まで続く「町流し」はこの祭りの白眉と言えます。


●「夜目、遠目、笠の内」

 女性が美人に見えるシチュエーションを表した言葉ですが、越中八尾の「風の盆」はまさに三つの条件が揃った祭りです。

 女性の踊り手は編み笠をかなり目深に被りますから、通常の視点では顔を見ることが出来ません。かすかに頤(おとがい)と紅をさした唇唇が見えるだけです。白い頤に結ばれた笠の紐と口紅の朱色が実に色っぽいのです。しかし女性の踊り手の本当の美しさは正面ではなく後姿にあります。

 編み笠を目深に被りますから襟元から首筋や後ろ髪が良く見えます。踊り手達もそれを充分意識して、アップに結った髪に水引や造花の髪飾りをつけて後ろ髪が引き立つように工夫をこらしています。髪飾りと後れ毛が風に揺れる様は実に艶っぽいのです。

 しかも女性の踊り手は年令が25歳以下なので立ち姿が綺麗です。八尾の人達は3~4歳のころから踊りを習い始めます。学校でも踊りを習うそうですから、20年近くも踊っていれば相当の踊り手になっています。実にもったいない話ですが、踊るのはお嫁に行くまでなのだそうです。ちなみに女性の方達への情報もお知らせしてておきましょう。男性の踊り手にも腹の出たオジさんはいません。スリムな体の若者達の黒法被に編み笠姿はなかなかにセクシーです。

                                  続く

Copyright:(C) 2005 Mr.photon

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