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アジアの裏側

「あるボランティアと不法滞在」

2006-12-11 09:03:25 | ドキュメント
長野県に住む医療技術者のYさん(47)は数年前に東南アジア医療研修ツアーで初めてタイを訪れた。
その時の東北部の農村地帯での体験がきっかけでタイに興味を持つようになり独学でタイ語も習得した。
地方都市である長野県に外国人の姿が目立つようになったのは10年以上前のこと、フィリピン人に次いで目に付くのはタイ人である。
同県には現在3~4千人ものタイ人が住み着いているという。
Yさんは今、多数の在日タイ人を個人的にボランティアとして面倒を見ている。
その中には観光で来日し約1年間の不法就労の間に極度の心労で精神分裂症になってしまい自力では歩くこともできない重症患者もいる。
しかし、彼らもタイを出発する前は『日本は夢の国』と信じて疑わなかった。
在タイ日本領事館I領事によると毎日約500人が調査申請に訪れるという。
リンダさん(22)は、工場の仕事を斡旋するとの約束を信じて来日したが、強制的にスナックで働かされていた。
Yさんに「タイに帰りたいけどボスやヤクザが怖い」と訴えて涙を流していた。
その後、Yさんにリンダさんが警察に捕まったとの知らせが入った、前のボスが彼女を別の店に売り、その店に警察の手入れがあったのだ。
手続きを経てタイへ強制送還されることになった彼女達は自由の身になったことと、帰国できる喜びで一様に笑顔を浮かべYさんとタイでの再会を約束して連れられて行った。
しかし、彼女達の例は少数派だろう、殆どは仕事内容を承知の上で来日し不法滞在・就労している。
20代のK氏は不法滞在のタイ人女性、Pさんと将来を誓い合い生まれて間もない子供がいる。
子供の国籍の問題から正式に入籍しようとしたKさん前にはいろいろな障壁があった。
外国人との入籍は調査の如何に関わらず可能であるが、それには相手の婚姻要件具備証明書といって重婚等を防ぐため、入籍相手から法律的に婚姻が可能かどうかを本国に証明してもらうための書類が必要である。
これは在日タイ大使館でも発行してもらえるが、それには正式な調査所持者という条件がある。
そのためPさんは入籍に必要なこの証明書を日本国内で申請することができない、タイの彼女の出身県でしか取得できないのだ。
日本に住む外国人配偶者には通常、配偶者査証が発行される。
この査証は他の査証と違い期限内の就業にも制限がなく、日本国内で期限の延長もできる上、長期に渡れば日本国籍を取得することも可能である。
しかし、入籍ができないK氏とPさんの場合は夫婦として認められないため、たとえ子供がいようとも配偶者査証の申請は受け付けてもらえない。
二人はYさんと共に2度、東京にある入国管理局へ赴き、事情のある不法滞在者のために特別に査証を発行している部署へ申請したが2時間にも及ぶ事情聴取にも関わらず未だ許可はおりない。
しかも保釈金として20万円の支払いを命じられた。
係官から「支払いに応じられない場合は乳児と共に局内にある拘置所へ泊まっていただくことになる、」と言われた。
係官は「一度彼女を帰国させ改めて正式な査証を取り直して来たらどうか」と勧めるが不法滞在で強制送還された外国人は最低1年間は新しい査証を申請することができない。
日本領事の言葉を借りれば「自分が蒔いた種だから、誰を責める事もできない」。
K氏はついに家族でタイに渡り、1年後に配偶者査証を取得して帰国することを決心した。
そして、それが可能かどうかとりあえず自分だけでタイへ事前調査に行こうと考え、その相談を受けたYさんも随行することになった。
マハーサーラカーム県にあるPさんの実家で彼女の両親を始め親戚一同に歓迎され、家族での来タイを約束したK氏だったがバンコクに戻って来てから厳しい現実に遭遇しその決心が鈍る。
家族でタイに住むためにはK氏が働かなくてはならない。
しかしタイ語を解さないK氏にできる仕事は少なく、更に労働許可証の取得の難しさを知った。
タイ人女性と結婚している日本人に会って話を聞いたり、日本人会へ行って仕事を探したりしたが人に会えば会うほど現実の厳しさを認識するばかりであった。
大勢の人に頼られているYさんだが、本業の病院勤めとボランティア活動で帰宅はいつも深夜。
時間帯が合わないため子供と顔を合わすことも少なく、家族揃っての食事は月に1~2度しかないという。
妻は「人助けをしている本人が家族をないがしろにして子供が可愛そう。普通の家庭に戻りたい。ボランティアって一体何なんだろう、と考えたくなる」、2人の子供は「もう慣れちゃった、でも時々寂しい」といっている。
Yさん本人も「できればやめたい」という。
「しかし国が法律的に弱者の彼らに無関心でいるかぎり、私はやめたくてもやめられない」
ある1人のボランティアにかかっている負担は今や限界に近い。

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