韓国のサムスン電子は20日、液晶パネル事業を4月1日付で分社化すると発表した。
価格下落でテレビ用パネルの赤字が続く中、分社をテコに価格の高止まりが期待できる有機ELパネルやモバイル用の液晶パネルヘの生産シフトを進める狙い。
テレビ用液晶パネルは、建設中の中国工場で低コストで増産。国内外で役割分担する体制を視野に入れ始めた。
●事業運営を迅速化
3月の株主総会での承認を経て、4月1日付で新会社「サムスンディスプレー(仮称)」を発足させる。
当初の資本金は7500億ウォン(約530億円)でサムスン電子が全額出資。液晶パネル関連のすべての事業を本体から切り出し、約1万7千人の部門の従業員は全員移籍する。
当面は中小型液晶パネルと有機ELパネルを手掛けるサムスンモバイルディスプレーとともにサムスン電子にぶら下がる形となるが、いずれはパネル子会社2社を合併させるとみられる。
サムスンの液晶パネル事業は2011年10-12月期の部門売上高が8兆5500億ウォン(約6060億円)あったが、営業損益は2200億ウォンの赤字で、4四半期連続で営業赤字が続いている。
1月にはソニーとの液晶パネル合弁会社「S-LCD」を解消、100%子会社化したことで、手持ちの製造装置が急増していた。
テレビ用液晶は中国のパネルメーカーの台頭で今後も価格の低迷が続く見通しで、「価格の高いパネルへの生産シフト」(サムスン幹部)は喫緊の課題となっていた。
サムスンでは今回の分社化により、子会社と本体に分かれていた液晶パネル事業の事業運営を迅速化するための体制を整備。
高精細が要求されるスマートフォンやタブレット端末などに使う中小型液晶の生産を増やすとともに、次世代デバイスである有機ELへの移行もスムーズに進めたい考え。
●サムスンが描くシナリオ
分社化に伴い、S-LCDは新会社の傘下に置くか、統合するかを検討するとしている。
新会社はサムスンが持つ第7世代(1870mm×2200mm)と呼ぶガラス基板で月産30万枚、第8.5世代(2200mm×2500mm)で同32万枚の製造能力を引き継ぐ。
液晶パネル事業の再編の方向が決まったことで、今後のサムスンが描くシナリオが見えてくる。
第1弾として今後はサムスンモバイルと調整しながらスマートフォンやタブレット端末向けのパネル生産を徐々に拡大。
前後してサムスンモバイルと合併することにより、モバイル向けへの転換を柔軟に進めていく。次の段階として、数年かけて製造装置を有機ELパネル用に転換していくことを検討する。
一方、収益性の低いテレビ用パネルの増産については中国工場が担う見通し。
サムスンは昨年5月、中国・蘇州で海外で初めてとなる液晶パネルの前工程の工場を着工しているが、市況の悪化を受け、13年初めとしてきた稼働時期を遅らせる。
その一方で、第7.5世代(1950mm×2250mm)を予定していたガラス基板を第8.5世代にサイズアップする検討に入った。
これにより、韓国内の工場ではモバイル用、そして有機ELパネルへと生産の比重を移し、テレビ用パネルの市況が低迷すればその速度を上げる環境が整うことになる。
中小型液晶の市況に詳しいサムスンモバイルと合併することになれば、この運用も迅速にできるとみている。
●弾力的な運用も
サムスン電子は、今年後半に55型の有機ELテレビを発売する方針を決めている。
価格は1台5000ドル(約40万円)以上と市場ではみられ、歩留まりが課題で現状では大型の設備投資には踏み込みにくい状態。
液晶事業の見直しにより、当初の出荷分の引き合いが強ければ新会社の第8.5世代の液晶の設備を有機ELテレビ用に転用するなど、弾力的な運用にも取り組む見通し。
【記事引用】 「日経産業新聞/2012年2月21日(火)/3面」