Port Nine Jazz Orchestra

すみだストリートジャズフェス出演決定!
ーーーメロディを紡ぎ、喜びを創造する

アイデンティティとしてのハード・バップ

2016-06-09 | ジャズ史放浪記
Memorial Album
Blue Note Records



田丸智也先生の港区ジャズ大学の3回目に行ってきました。1950年代半ばに、白人を中心としたウエストコーストジャズが現れクールジャズが広がりました。逆に、農業の機械化に伴い、東海岸には黒人の人口が増大します。その東海岸、特にニューヨークではジャズの原点である黒人霊歌やブルースやラテンを織り交ぜて、ハード・バップと言われる音楽領域が広がるようになります。


ハードバップの潮流は、白人への抵抗からでなく、黒人のアイデンティティとして出現した点が特徴です。ハーモニーはブルース色が強くシンプル。一拍が重いグルーヴ感。ソロはビバップよりも長め。ハードバップでは、ラテンや土着のリズムも取り入れます。編成も、クールジャズのように多様な編成でなく、クインテッド、つまりシンプルな五重奏が主流となります。タイミングは、ビバップは前のめりにラッシュした感じ、クールジャズは後ろでタイミングをとるややレイドバック、ハードバップは完全に後ろでタイミングをとるレイドバックであり、ハードバップは重厚な雰囲気が特徴でもあります。


A Night at Birdland, Vol.1
Blue Note Records



1954年2月21日の深夜にバードランドで行われたライブがハードバップのピークと言われています。ナイアガラロールで知られるドラムのアートブレィキー、トランペットのブラウニーことクリフォードブラウン、ピアノにファンキーことホレスシルヴァー、アルトがルードナルドソン、ベースはカーリーラッセルの熱い演奏でした。バードランドとは、チャーリーパーカーのニックネームから命名されたジャズの名店となっています。なお、アートブレイキーは、来日時、「俺は黒人だぞ、一緒に写真に映ってもいいのか?」とリアクション。そんなシニカルなアートブレイキーを日本人は手厚く迎えたため、アートは熱心な親日家としても知られていました。


悩めるソニーロリンズは、このハードバップの重鎮として活躍します。ソニーロリンズは、マイルス、クリフォードブラウン、マックスローチとの交流も厚いことで知られます。彼は人気が上がれば上がるほど悩み、ウィリアムパークの橋の下で練習を繰り返したそうです。公園でハードバップの練習をしていたら、通報されてしまったエピソードも有名です。


直立猿人
ワーナーミュージック・ジャパン



黒人の存在感、アイデンティティとしてのハードバップですが、やがて人種差別問題とも結びついていきます。まさに差別される側の「黒人の叫び」として、ハードバップは昇華していくのです。怒りのミュージシャンであるチャールズミンガスは、このような時代背景に基づき、名盤となる直立猿人を発表します。ミンガスは、アームストロングのバンドで活動後、パーカーやガレスピーとの共演でジャズ界にデビューし、集団的インプロヴィゼーションをふたたびモダンジャズに復活させます。アーカンソー州のリトルロックの戦いといわれる黒人差別事件について、「フォーバスの寓話」として発表し、ハードバップの寵児としてミンガスの名はジャズ史に燦然と遺されます。