一方、脳外科の専門医として次々に難しい症例をこなし、いつしか世間で平成の赤ひげ、スーパードクターと異名を取るようになった弟、澤田聡には数人のパトロンが出資の名乗りを上げた。
予定通り、候補地に鴨川総合病院は建ち、名義だけが予定通りではなかった。
詩鶴の母親、詩津が病院で、兄弟に逢ったのは偶然だった。
たまたま知人の見舞いに来ていた時、貧血を起こし階段から落ちそうにな研究 中心ったのを支えたのは天音の父親、澤田悟だった。
野望に燃える青年医師の強さに詩津は惹かれ、少女のような風情に悟は夢中になった。
詩津は何も知らずに悟に恋をした。
青年医師には既に妻子があり、詩津は日陰の身になれと求められ涙ながらに拒んだ。
誰かを不幸にして、あなたと一緒に居るのは嫌と詩津は告げて去って行った。
満開の桜の下。
泣きぬれる詩津にそっとハンカチを差し出したのが詩鶴の父、聡だった。
聡もまた、一目で恋に落ちた。
余りに暗い話なので、このまま書いていいのかどうか煮詰まってきました。
(′;ω;`) ごめんね、詩鶴くん…最後、ちゃんと幸せにするからね。
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詩津は誰かを不幸にしてまで、恋を全うしたくないのと、話を聞いてくれた弟、聡に涙ながらに告げた。
父も祖父も外に何人も愛人を囲い、正月には妾の家にお年玉を届けるような浸會大學BBA家で育った兄弟には、詩津の涙は意外だった。
「詩津さん。そんなに泣かないでください。」
「わたし、悟さんに、一緒にいようって言われて本当にうれしかったの。」
「でも、悟さんの愛は、わたしが貰ってはいけないモノなの。奥様がいらっしゃるのに、どうして一緒にいようなんて言えるの?」
「わたし、一緒になんて暮らせない。」
弟、聡には返す言葉がなかった。
育ってきた環境が違うと言いきるには、まっすぐに向けられた詩津の涙は、余りに清浄だった。
詩津は和裁士の母と、早くに亡くなってしまった教員の父親と家族三人だけで愼ましく暮らしてきたのだ。
自分は近くの図書館で、嘱託の司書としてわずかな給料をもらっていた。
華やかな生活を送る恋人、悟の暮らしぶりが見えるにつけ胸の中に湧き上がる不信をどうしようもない詩津だった。
だから、妻子が居ながら求婚した恋人の不実にすっか揺し、平静を失っていた。
兄、悟も聞き分けのない恋人に手を焼いていた。
どれだけ機嫌を取ってやっても、詩津は何度も別れ話をする。
身体を重ねては金で始末をつけてきた、これまですり寄た女と詩津はまるで違っていて、悟は苛々と興奮しついに言葉を荒げた。
「一体、何が不満なんだ。月々ちゃんと必要な手当てを渡すし、母親の面倒も見る浸大工商管理と言ってるだろう?いくら、出せば気が済むんだ!言って見ろ、詩津!」
「200万か、300万か!」
激昂した悟に、詩津は小さく頭を振り震える唇で別れを告げた。
「お金が欲しくて、あなたを好きになったんじゃありません。」
「もう、お会いしません。わたしは、わたしだけを好きだって言ってくださる方と結婚します。」
心配で様子を覗きに来ていた聡はたまらず、進み出た。
「兄さん、すみません。ぼくは、詩津さんに結婚を申し込もうと思っています。あの???もし、詩津さんさえよかったらだけど。」
「???聡さん????」