オレンジな生活のろくでもない生活

サッカーとかその他諸々に関する日々徒然の感想をダラダラと綴った日記、のはず。

EURO2004 グループB フランスvsイングランド

2004-06-16 18:26:13 | スポーツとか
イングランドは勝っていた。しかしフランスにはジダンがいた。

タレントの質と量ではフランスとイングランドではかなり開きがある。世界でも五指に入るダイナモであろうマケレレ、バランサーとしての能力と展開力を兼ね備えるヴィエラ、単なるウインガーではない、サイドの高速ドリブルからゲームメイクを行うピレス、最前線で決定力を行使する典型的なセンターフォワードのトレゼゲ。イングランドでこれらのタレントと比肩しうるのは、デビッド・ベッカムとマイケル・オーウェンくらいだろうか?ルーニーやジェラード、ランパードやスコールズらは、ほんの少しだがランクが落ちてしまう。そしてフランスには高速でペナルティエリアを動き回る、今まであまり類例がない、しかし間違いなく世界最高のセンターフォワードであろうティエリー・アンリと、ボールを持たせれば魔法使いとなりうるジネディーヌ・ジダンがいる。

タレントに勝るフランスは、予想通りにポゼッションで上回る。イングランドはディフェンスラインをゴール前近くに設定。そしてそのすぐ前に4人の中盤をフラットに並べた中盤のラインを置く。攻撃への展開には、ランパード、ジェラード、スコールズが馬車馬になるしかない。キーパーの技量、DFラインの強度に不安があるイングランドは、中盤に運動量を求めるしかない。そして、ベッカムまで含めた中盤の4人は、それを忠実にこなしていく。

あるいはそれは、オーウェンを活かすためでもある。スピードで勝負するオーウェンは、ゴールに至るまでにスペースが必要だ。それには「引いてカウンター」が好ましい。ウリエのリバプールがそうしたように。イングランドは手持ちの戦力でフランスに対抗する唯一最高の手段を忠実に実行したと思う。

一見中盤以降を支配するフランスは、DFとMFの8人で構成された分厚い守備網を崩す事が出来ない。イングランドは最も警戒するべき、ジダンとアンリにスペースを与えない。本来、こうした展開では、もう一人のプレーメーカー、ピレスで打開を図りたい。しかしジダンがいるため普段の左とは逆の右に配されたピレスは、何処か息苦しそうだ。


強度に劣るイングランドのDFライン、しかし、勇敢さでは世界一ではないだろうか?攻勢に立つと中盤以降をフォローするべくラインを押し上げ、フランスがアンリめがけて縦一本を放りこめばプレミアリーグでの経験を生かしてか、アンリをストップ(アンリは今一つ切れに欠けて見える)そして、フランスはリザラズのファウルでイングランドに右サイドからのフリーキックを与えてしまった。イングランドには、ここからキックを蹴らせれば世界一の選手がいるのだ。

イングランドの先制点は、ここからのベッカムのフリーキックをランパードが頭で合わせて生まれた。そしてイングランドの大脱走がはじまる。ゲームプランを忠実に履行し、フランスにペースを握らせない。もはや最低限の押し上げしかしなくなる。

中盤以降を完全に制圧しているのにゴールを奪えないフランスは、どうしようもないくらい焦れていく。イングランドのDFラインはフランスの波状攻撃を、その度はじき返していく。そして後半24分、はじき返したボールをルーニーがギャラスをかわし、一気にペナルティボックスに持ちこむ。たまらずファウルに及ぶシルベストル。PK。キッカーはベッカム。決めればイングランドの勝利は確定する。しかしこれをマンチェスターユナイテッド在籍時のベッカムの僚友だったバルテズがストップ。この試合に関してはこのストップが複線になったであろうし、ストップそのものの複線は、恐らくバルテズが至近でベッカムのプレーを見てきたからではないだろうかか?

しかしイングランド優位はまだ動かない。試合は後半終了間際まで、イングランド1点リード。技術的、戦術的にはむしろ退屈な試合だったかもしれない。しかし、強大な敵と戦うのに闘争心と勇敢さを見せたイングランドの勝利に対して、フランスファン以外の世界中の観衆は納得できたのではないだろうか?いいものを見れた。良い試合だったと。しかし、フランスにはジダンがいた。後半44分、イングランドはペナルティボックス直前でフランスにファウルを与えてしまった。

昨シーズンのリーガ後半戦、ジダンは疲労から完全に精彩をなくしていた。完全に存在感を喪失していた。しかしジダンはフリーキックを決めてしまった。ゴール左隅に高速で突き刺さったボールに、キーパーのジェームズは1歩も動けなかった。

そして試合が再開される。攻め寄せるフランスに、それまでその運動量でイングランドを支えてきたジェラードが痛恨のパスミス。それに素早く反応したのは、イングランドのDFではなくアンリだった。ジェームズは、ファウルを犯すしかなかった。この試合二つ目のPK。ベッカムは止められた。しかし、ジダンはこれを決めた。
フランス2-1イングランド。

自分が見てきたなかではチャンピオンズリーグ決勝のバイエルンvsマンU以来の大逆転劇。そして、欧州サッカーシーンに、魔法使いが帰ってきた。

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