あの時はたしか肌寒い日だった。98年のJリーグ開幕戦、前年にクラブ運営会社の経営危機が表面化して、クラブは大幅なリストラを迫られた翌年。指揮をしていたアルディレス監督も、自ら減俸を申し出ていたと記憶している。穴を埋めるために若手を大量に起用、新しく獲得したファビーニョをオジーが持ち上げてのシーズンイン。開幕の初戦は、マラドーナ弟やデリーバルデスがいた札幌だった。なんとか勝利を収めた試合の後、酔狂にも駅まで歩くことにして、途中で出会った「息子さんがスタジアムに行っている」と言った知らない女性としばらくエスパルスについて話したことを覚えている。あの時、大榎克己は現役の選手だった。
時代は回って、清水は去年も危機を迎えた。街の人口や経済規模を考えるとスモールクラブでしかない清水だが、やかましいサポーターの存在のせいでなんとかして背伸びする方法を考え続けざる得ない。一方で、やかましい連中に支えられている側面も確実にある。清水のクラブというアイデンティティは、ノイズであると同時に文字通りのサポートでもある。そんな清水の歴史を背負っている大榎監督が目指すのは何度かあった「タイトルを取れる力を取り戻す」ことと、一度もなかった「登頂」ということになる。
開幕戦の相手は鹿島アントラーズになった。共にオリジナル10、共に地方のスモールタウンを本拠地にする鹿島だが、初年度以降ジーコイズムを忠実に守り続け、タイトルを積み重ねる姿は清水サポーターにとって複雑に映る。
前売り完売、地元局でTV中継が組まれるという県民注視の下での開幕戦は、ACL二連敗後の状態の良くない3連戦目の鹿島vsチーム構築の最中の清水という形になった。お互いがプレスを掛け合う均衡した展開。互いにラインをプッシュしてコンパクトを指向するものの、鹿島は柴崎にいつものキレが見られないことと、連戦を考慮して小笠原を外したこと、一方で清水は連携の構築途上で中盤のパスのつながりがしっくりいかなかったこと、そして両チームのサイドバックが攻撃参加を控えめにしたことなどネガティブな要素も重なり均衡する。小笠原がいない中で鹿島はロングボールが多めになり、新加入の金崎が度々三浦玄太を脅かし、幾度かヤコビッチがフォローして難を逃れるシーンになったが、均衡を破ったのは清水だった。
梅鉢からボールをカットしたホンタクからボールを預けられた八反田のラストパス。受けたゲンキのゴールで40分に清水が先制。
後半、トニーニョ・セレーゾはカイオに代えて右サイドに遠藤を投入、これがいろんな意味で試合を動かした。ゴール前に飛び出した遠藤のシュートが、ライン上に転がってこれがゴールの判定、鹿島が同点に。そしてその遠藤に対抗するために大榎が対面に切ったカードが新加入のミチェル・デュークだったことが試合を決定づける。詰め掛けた大半の清水サポにとっても初お目見えになるデュークは、走ってよし、キープしてよし、視野の広いパスもよしの優良選手だった。前半から右サイドを蹂躙していた村田の逆サイドにもう一翼が追加され、結果として鹿島のDFラインを、時間帯によって両サイドから押し下げ、前後分断の状態を作り出していく。
右サイドの村田のクロスにホンタクが飛び込みキャプテンが追加点、
残り10分、鹿島の反撃で金崎のシュートが犬飼の手にあたり、この日二回目の疑惑の判定。確かに審判によってはハンドを取っていたが、ハンドと判定されないにしてもそれなりの理由はあった。
試合終了も見えてきたとき、村田の推進力で再び鹿島のDFラインは中盤以降と分断される。村田からパスを受けたゲンキがダイレクトでプレミアリーグばりのミドルシュート。ドラゴンクエストだったら「かいしんのいちげき!」という表現になるだろうファインゴールにスタジアム全体が沸騰した騒ぎになった。
清水エスパルス3-1鹿島アントラーズ
クラブが契約したプロ選手第1号だった大榎監督、97の経営危機を筆頭に何度かあったクラブの危機をその都度目の当たりにしてきた大榎監督は、今回は「監督」という最大の当事者としてクラブの再建に挑むことになる。
時代は回って、清水は去年も危機を迎えた。街の人口や経済規模を考えるとスモールクラブでしかない清水だが、やかましいサポーターの存在のせいでなんとかして背伸びする方法を考え続けざる得ない。一方で、やかましい連中に支えられている側面も確実にある。清水のクラブというアイデンティティは、ノイズであると同時に文字通りのサポートでもある。そんな清水の歴史を背負っている大榎監督が目指すのは何度かあった「タイトルを取れる力を取り戻す」ことと、一度もなかった「登頂」ということになる。
開幕戦の相手は鹿島アントラーズになった。共にオリジナル10、共に地方のスモールタウンを本拠地にする鹿島だが、初年度以降ジーコイズムを忠実に守り続け、タイトルを積み重ねる姿は清水サポーターにとって複雑に映る。
前売り完売、地元局でTV中継が組まれるという県民注視の下での開幕戦は、ACL二連敗後の状態の良くない3連戦目の鹿島vsチーム構築の最中の清水という形になった。お互いがプレスを掛け合う均衡した展開。互いにラインをプッシュしてコンパクトを指向するものの、鹿島は柴崎にいつものキレが見られないことと、連戦を考慮して小笠原を外したこと、一方で清水は連携の構築途上で中盤のパスのつながりがしっくりいかなかったこと、そして両チームのサイドバックが攻撃参加を控えめにしたことなどネガティブな要素も重なり均衡する。小笠原がいない中で鹿島はロングボールが多めになり、新加入の金崎が度々三浦玄太を脅かし、幾度かヤコビッチがフォローして難を逃れるシーンになったが、均衡を破ったのは清水だった。
梅鉢からボールをカットしたホンタクからボールを預けられた八反田のラストパス。受けたゲンキのゴールで40分に清水が先制。
後半、トニーニョ・セレーゾはカイオに代えて右サイドに遠藤を投入、これがいろんな意味で試合を動かした。ゴール前に飛び出した遠藤のシュートが、ライン上に転がってこれがゴールの判定、鹿島が同点に。そしてその遠藤に対抗するために大榎が対面に切ったカードが新加入のミチェル・デュークだったことが試合を決定づける。詰め掛けた大半の清水サポにとっても初お目見えになるデュークは、走ってよし、キープしてよし、視野の広いパスもよしの優良選手だった。前半から右サイドを蹂躙していた村田の逆サイドにもう一翼が追加され、結果として鹿島のDFラインを、時間帯によって両サイドから押し下げ、前後分断の状態を作り出していく。
右サイドの村田のクロスにホンタクが飛び込みキャプテンが追加点、
残り10分、鹿島の反撃で金崎のシュートが犬飼の手にあたり、この日二回目の疑惑の判定。確かに審判によってはハンドを取っていたが、ハンドと判定されないにしてもそれなりの理由はあった。
試合終了も見えてきたとき、村田の推進力で再び鹿島のDFラインは中盤以降と分断される。村田からパスを受けたゲンキがダイレクトでプレミアリーグばりのミドルシュート。ドラゴンクエストだったら「かいしんのいちげき!」という表現になるだろうファインゴールにスタジアム全体が沸騰した騒ぎになった。
清水エスパルス3-1鹿島アントラーズ
クラブが契約したプロ選手第1号だった大榎監督、97の経営危機を筆頭に何度かあったクラブの危機をその都度目の当たりにしてきた大榎監督は、今回は「監督」という最大の当事者としてクラブの再建に挑むことになる。