カリフォルニア便り ーFROM OQ STUDIOー

~南カリフォルニアから~
陶芸家の器と料理、時々王様の日々

2011年05月30日 | Travels

 

 

私は陶芸を通して、常に自分と正面から向き合わざるを得ない。

実際に作品を作るに際しては、お使いくださる方の事を考えて制作するのだけれど、

結果的に出て来るものは今の自分なのだから、

やはり作品越しに自分を見ているというべきだと思う。

何を感じ、何を考えているかが今の自分だが、今の自分は過去の時間の積み重ねだ。

嘘をつく事もごまかす事も出来ないのだから嫌になる。




”木は森を見せてはくれない”

ある国にこんなことわざが有る。

森は沢山の木々で出来ているが、その木には葉が生い茂っていて、

木を見ているだけでは、森全体を見る事は出来ないという事だ。

人も、人の人生も同じだな。

一心不乱に内面を掘り下げていく事も大切だけれど、

そればかりでは自分の全体像が見えなくなる。

私に関しては陶芸が人生ではない。人生の中に陶芸が有るだけだ。

十代の終わりに手痛い挫折を経験し、その時は人生はもうおしまいだと本気で思った。

しばらくは手の施し様がない程沈んでいたけれど、

ある日、こんな馬鹿な話が有るかと思って吹っ切る事にした。

何かひとつを失ったぐらいで終わるような人生を私は生きたくなかった。




それから私は時々遠くに離れて自分を確認する作業を意識して始めた。

その作業が『旅』。私にとって旅行という言葉は何かしっくり来ないから旅。

日本を離れる前の一年間も、私達は日本中を旅した。

何でそんな事をしたのか、はっきりした理由は今も判らないが、

日本各地の、自分が会ってみたいと思う様々な分野の職人さん達に、

片っ端から手紙を書いた。もちろん誰一人、知っている人等居なかった。

その頃の私は当然陶芸等とも無縁だった。

何も知らぬ素人の手紙など相手にされないだろうという予測に反して、

多くの方が返事を下さり、訪ねる事を快く歓迎して下さった。

中には、私達にお金が無い事を知って、旅費滞在費のすべてを負担し、

一門総出で歓迎して頂いた事も有った。何故なのか今も全く判らない。

確かな理由も目的も無い旅だったけれど、結果的にその一年間の旅が私達の今を決めた。




普通の方々と比べて、かなり多くの旅を続けている私達だけれど、

その場所を訪れたなら誰もが一度は訪ねるであろう名所旧跡の多くを知らない。

旅先には必ず人がいて文化が有って暮らしが有る。

それを見るだけで手一杯になってしまう。

旅先で出会うものは笑顔や楽しい思い出ばかりではない。むしろそういうものは少ない。

やるせない程の無力感や、選べない人生の不公平、怒りと紙一重のむなしさ。

そういうものを持ち帰って来ては、日々の暮らしの中で咀嚼し、自分の血や肉とする。

私達の旅はそれで良い。




 

”木は森を見せてはくれない”という言葉が私にはストンと腑に落ちる。

私は森を見る為に旅をしているんだ。



 

日本は梅雨の季節ですね。降り続く雨が好きな訳では有りませんが、

梅雨時でなければ見られない風景を懐かしく思う事があります。

どうぞ日本の美しい季節をご堪能下さいますよう。

しばらく留守にいたします。7月までしばしのお別れです。


 


 


ソーサーを作らない私のこと

2011年05月27日 | Ceramics

大好きなデミタス

 

カップ&ソーサーはスーツみたいなもの。

揃いで着てベストなバランスになるように仕立てられているから、格好いい。

素材を選べば、どんなフォーマルな席にも通用する優等生。

でもそれだけに上下を別々で着るとなんとなく無理矢理な感じかも。。。。。

私はそんな風にカップ&ソーサーを見ています。

 

そして私はお皿もカップも作りますが、カップ&ソーサーを作りません。

理由は二つ。

ひとつ目の理由は、ソーサーというのは多くの方にとって大変無駄なもので、

お皿の形をしていながらお皿として使えない、使ってもらえない。

(ま、使おうと思えば使えますが、やはり ”コレってソーサーでしょ?” 感が否めない。)

ふたつ目は、個人的に焼き物と焼き物のぶつかる音が嫌い。

この2点から、私はセットで作る事をしません。


昔から作られて来た形だけにソーサーにはしっかりと役割は有るんです。

カップを伝う飲み物を受け止めるという役割です。

古き良きイギリス人のお茶とミルクの注ぎっぷりを見れば一目瞭然。

ヨーロッパの伝統的な磁器ブランドのものはカップ&ソーサーが揃って初めてひとつの器。

どちらが欠けても、その魅力は半減もしくは全滅。そこはピアスに似てる。

だけど焼き物と呼ばれる種類のカップはどうなんだろう?

木とか貝とか金属とか・・・受け皿として異素材を組み合わせた方が使う方の個性が出ますし、

カップと受け皿が出会う時の音がステキ・・・と思う私が居ます。

この音の事なのですが、焼き物同士がぶつかり合う音は本当に耳障りなのです。

特にお茶やコーヒーを頂きながらお話ししている時等、

カップを上げ下げする度に、カチャカチャとその存在を主張しているようです。

その上若干ワイルドに器を扱う方は、さては壊れたか?と思わせる程盛大な音を立ててしまう。

磁器に比べると土ものはやわらかいので、作り手としてはつい敏感になってしまうのかな?

人の生活音というのは耳障りなものではないですよ。私はそれほど神経質ではないです。

でも、作っている人間としては、人様の会話の邪魔をするようなものを作りたくないのです。

そんな事で私は焼き物の皿をコーヒーカップの友としては作りません。


・・・と思っていたのですが、お断りするのに忍びない方からのご依頼で、作る事に。。。

でもやっぱりセットものは嫌です。いずれ来客時ぐらいしか出番の無くなるソーサーが不憫。

そこで、コーヒーカップ、小皿2種類を同じテイストで、でもセットでなく作りました。

ただ今追及中のPaperシリーズです。

ソーサーみたいに見える小皿は皿として単品でデザインしました。

勿論お使いになりたければ、ソーサーとして使って頂いても結構ですが、

If ! 単品で小鉢、小皿としてそれぞれお使いいただければ  "More than Happy"

 

私)  お好きな方のお皿をどうぞ

依頼主)いいえ、両方持って行きます

私)  セットでお使いになるのですか?

依頼主)まさかっ!お皿が見えなくなっちゃうじゃないのっ!

私)   ・・・・・

私)  でもソーサーは?

依頼主)あー、いいのいいの、ソーサーなんて普段使わないでしょ?

私)    ・・・・・

・・・・・だそうです。


では



 


白を着るメイク

2011年05月26日 | Fashion

私はメイクに関して、お洋服に対するほどの探究心は持っていないのではないかと思います。

でもメイクは毎日しますよ。例え一日中家族以外とは会わず、スタジオに籠りきりであってもです。

日々お仕事に出掛ける方や、自分を律する事を心得ておられる方には無関係なお話ですが、

私のように、隙あらば手を抜こう等と思いかねない不届き者が自宅で仕事等しておりますと、

身支度に関してだらしなくなろうと思えばどこまでも落ちて行く事は容易です。

例えシンプルであっても毎日メイクをする事は、言うなれば私の最後の砦と心得ております。


で、そのメイクですが、私にとってメイクとは自分の顔を美しくするものというよりは、

好きなお洋服を台無しにしないためのものです。

ですので必然的にメイクはその日の洋服にとけ込むようなものを目指しております。

 

私の場合、これからの季節、白を着る事が大変多くなって参ります。

そして白を着るためのメイクというのが私にはあります。

これはもう私の勝手な好みですので、他の方にとっては恐らく何の参考にもならず、

メイクのセオリーに乗っ取ったものでもないのですが。。。


白い服というのは反射板と同じです。ホラ、女優さん等が写真撮影をされる時に、

照明のアシスタントの方が汗だくで持っておられる白いボードです。

ああいったものはプロの仕事で、計算し尽くされて居りますので効果絶大です。

そこまでとは言わないまでも、白を身につけるという事にはそのような効果があります。

試しに、レストランのテラス席で着席したままの写真を撮られる時等、

膝の上に白いナプキンを広げてみて下さいませ。

ナプキンに光が反射して顔が自然に明るくなり、気になる部分を飛ばしてくれますよ。

私の白を着るためのメイクはその観点から考えたものです。

保湿をしっかりとするという大前提は有りますが、メイクに私が使うのはたったこれだけです。

手前の金色のコンパクトはファンデーション、黒い蓋の丸いケースはルーセント・パウダー、

口紅とリキッドアイライナーで全て。アイブロウは特筆に値しませんので割愛します。


Q. 白の似合う特定の肌の色というのは有りますか?

A. No.


どんな肌や髪の色をしていても白を美しく着る事は出来ますよね。

白を着る時に必要な心構えは「白と争わない」です。争っても無駄です。

自分のあるがままの肌を整えれば、後はお洋服が何とかしてくれると私は信じております。

整えるとはどういう事か?

全ては艶でございます。しかも自然の。

私が白を着るために理想とするメイクをする際、最も有効なのは蛍光灯の照明。

そうです、肌を最もきれいに見せてくれない光です。

その無慈悲な照明の下で見た時でも、メイクが浮いて居なければそれで結構。

これはどういうメイクかと言いますと、

パール未使用、色素不要の肌の自然な艶を引き出すメイクです。

ファンデーションは色むらのひどい部分のみブラシで軽くなでるだけ。

なんなら無くても良いくらいです。

その後顔全体にパウダーでベールを掛けます。これもパールの無いマットなものです。

そしてここでひと技。

このようなパウダー用のパフをティッシュで覆います。

こんな感じにね。

そしてミネラルウオータースプレーをティッシュで覆ったパフにひと吹きします。

それで顔全体をそっと押さえるようにしますと、

パウダーの粉っぽさが消え、肌に自然の艶が生まれます。

ベースはこれで終わりです。

後はリキッドライナーを、入れているかどうか判らない程細く入れ、ぼかすような事はしません。

これでライナーの黒なりブラウンなりが光の反射で目をくっきりと浮かび上がらせてくれます。

リキッドアイライナーで極細のラインを入れるのも慣れればどうという事も有りません。

マスカラはどうでも良いです。これはその方の目力の威力によると思います。

私はマスカラをするとメガネに当って不快なので、お家メイクでは使いません。

最後に、口紅を紅筆を使わず直塗りします。

なぜ輪郭を取らないかは、蛍光灯の下で輪郭を取って口紅を塗った唇を見ればお判りになると思います。


色々試してみましたが、今のところ私にはこのメイクが一番気持ちいいです。

終日メイク直しの必要は有りませんし、崩れるところが無いので夜までそのままです。

白は優しく、そして時に残酷です。

自然な肌そのものの少々の色むらは光で飛ばしてくれますが、

人口的な色素であるメイクがくすむと、そのくすみを全て露にしてしまいます。

これは色彩学的に白は色ではなく、従って色素を含有しないからです。

ともあれ、私の思う白を着るメイクは、一時間に一度メイク直しをするか、

出来る限り人工的な色素を乗せないか、二つにひとつのような気がいたします。


メイクというのも、追求すれば奥が深く、とても私ごときには到達出来ない頂点が有るのでしょう。

全然頂点に達していない私といたしましては、常に自分らしく、気持ちよく、

メイクに行動をコントロールされない自分でありたいと思う今日この頃でございます。


では


 

 

 


オニオンスープ

2011年05月25日 | Food

 

お料理を作る事が好きな方、そうではない方、お仕事として料理をなさる方、料理が趣味の方。。。。。

色々な方が居られることと思います。

私について申し上げれば、好きなのか?そうでも無いのか?仕事なのか?そうでもないのか?

時々考えてみたりもするのですが、どれも非常に曖昧。よく判りません。

はっきりしているのは、私は自分の作る料理がとても好きだという事と、

もしも私の料理を好んでくれる人が居るのなら、何をおいても料理を作り、

その笑顔を見たいという事でございます。


このように申し上げると、料理自慢に聞こえるかもしれませんが、違います。

味覚というのは非常に主観的かつ流動的なものですから、絶対等という味はありません。

例えば超一流レストランのシェフが作る洗練された一皿よりも、

愛する人が不器用な手さばきで作ってくれた素朴な一品が心に沁みることがあります。

だから料理は面白いのです。「絶対価値」など存在しません。

料理を作る事に情熱を燃やせる自分である事は、自慢する事ではなく、

そのような事が許される今に感謝し、幸せに思うべき事だと思っております。


ずいぶん気温が上昇して来て、もう暖かい食べ物が恋しくなる事もしばらく無いのかな?

などと思っておりましたら、グッと気温が下がりまして、

私が『報われないスープ』と呼んでいる、オニオンスープを作る事にしました。

何故そのように不名誉な冠を付けるかと申しますと、

ものすごく時間がかかるのに、メインディッシュとなり得ない一品だからです。

全般的にスープはメインとはなり難いですが、ササッと出来るレシピも多いです。

それに反して、大変な時間がかかるこのオニオンスープは、

本当にオニオンスープが好きな人の為にしか、私は作りたくない一品です。

 

タマネギを泣きながら刻んで刻んでまた刻み・・・・・

あんなに沢山のタマネギが、こんなに減って飴色になるまでひたすら炒め続ける。

ここまでで、既に小一時間でございますよ。

炒めている間にコトコト煮込んでおいたビーフストックをようやく投入。

私はお料理に固形コンソメやスープの素のようなものを使いません。

野菜ストック、チキンストック、ビーフストックなど、

くず野菜や骨付き肉等を大鍋で茹でて取ったスープ・ストックを使います。

ちょっと手間はかかりますが、出来たものは製氷皿でキューブ状に冷凍しておきますと、

分量調節も簡単ですし、急いでいてスープを取っている時間がない時等に、

大変に便利ですので、時間のある時や野菜くずが出た時に作っておきます。

それはそれで、私の味になるので良いのですが、ちょっとコク不足を感じることも有ります。

なのでオニオンスープを作る際には、ちょっとした秘密の材料があります。

それがこちら。

私の場合ゴルゴンゾーラ又はブルーチーズを隠し味に少々入れます。

チーズを感じる程沢山でなくていいのです。あくまでもコクを出す為に使います。

お好みですが、奥深い、フレンチレストランの味を出すことが出来ると思っております。

ここでローリエを加えますが、私はその後直ぐに火を止めてしまいます。

ローリエのスパイシーな香りを、火を通さずにフレッシュなままスープに移したいからです。

そのまま蓋をして、ディナーまでゆっくり休んで頂きます。

時間になったら、薄く切ったバゲットとグリュエルチーズをたっぷり乗せてオーブンで焼きます。

あっ、私はちょっと焦げ目が好きです。


ここまで、長い長い道のりでございました~。

先ほど報われないスープなどと言いましたが、ホントはね・・・・・

テーブルの皆様の笑顔が私にとって大きなご褒美です。


" What's for the main dish ? " とは言わないでねっ!


 


贅沢な椅子

2011年05月24日 | Articles

今の家に住む事が決まり、一番最初に購入した家具のお話です。

私ごときの分際で、分不相応なことは百も承知で購入したものでございます。

それは、コレ。

マッサージー・チェアー

 

贅沢品ではあるのですが、私達にとりまして正に救世主。今や無くてはならない椅子です。

肩こり、腰痛の辛さをご経験の方々も多いかと思います。

私は陶芸家でございまして、それはもう全身コレ筋肉痛とコリの固まりでございます。

アパートに住んでおりました頃は置く場所も無く、

努々マッサージチェアーの購入など考えても居ませんでした。

それが、この家を購入するに当り突然現実のものとなりまして、

何を省いてもマッサージチェアーだけは・・・の一念で探し求めました。

マッサージチェアー等どこにでも売っているのですが、

この明るいベージュを探すのにひと月掛かってしまいました。

真っ白も考えましたが、強すぎます。どうしても明るいベージュが。。。。。

見つけました時は、本当に嬉しかったですよ。

マッサージに通う事を考えれば、投資としては安いものだと理屈をつけました。

この椅子は、ゲストの皆様にも自由にお使いいただける様、ベッドルームではなく、リビングに設置してあります。

座ったまま動かなくなる方ももいらっしゃいます。

結構結構。

多くの方にお使いいただければ、罪悪感も軽減いたしますデス。

レザーですし、色が色ですので、手入れはこまめにしております。

私の場合、汚れ落としと保護を兼ねてミンクオイルを定期的に摺り込んでおります。

こちらのコンディショナーは本来靴のお手入れに使うものですが、大変優秀です。

一日の終わりに、この椅子に腰掛けるのは至福の時間でございます。

 

では失礼して・・・・・