カリフォルニア便り ーFROM OQ STUDIOー

~南カリフォルニアから~
陶芸家の器と料理、時々王様の日々

土で出来た紙

2011年07月31日 | Ceramics

ここしばらく私は土で紙を作り続けている。

白は私が陶芸を始めて以来、避け続けて来た釉薬。

嫌いなのでは無い。

好き過ぎて、使えずに今まで来た。

白について長い長い年月考え続け、日常の中で見続けて来た。

白がすべてを輝かせることも、全てを台無しにすることも知っている。

その世界に入っていくのが怖かったんだと思う。

そんな私をとうとうその『白の世界』に誘い込んだのは、

ある出来事をきっかけに、私の中にわき上がったささやかな反発心だった。

紙の皿で食事をすることを『味気ない』と断言した人が居た。

私と同じ陶芸家だった。

その食事が味気ないかどうかは、器によって決まるのではない、

食事をする人の、心のありようが決めるのだと私は思う。

どんな理由があっても、人様の召し上がり物を味気ないなどと言ってはいけない。

紙の皿に盛られた何日ぶりかの暖かい食事をほおばる人の笑顔を見れば、

その食事がこの世のどんなご馳走よりも、今彼らの心を満たしていることが判るだろうに。。。

使い手の表情を見逃し、器という、使い手が居なければ何の意味もなさないものだけに目がいってしまう。

一生懸命になるということは、そういうことかもしれないが。。。。。


紙には紙の、プラスチックにはプラスチックの、そして勿論土には土の魅力がある。

価格、衛生面、便利性、軽さを含む安全性・・・

紙の器を使うことの良さを挙げたらきりがない。

自分が愛しているものを「これがベスト」と言い切ったっその瞬間に、

愛しているはずのものが、誰かから疎まれ、遠ざけられてしまうこともあるのではないか。

そんなことを考えていたら、私は紙の楽しさや美しさを土で表現してみたいと思い始めた。

紙に言わせれば余計なお世話だろうけれど、

はじめは誰にとも無いちっぽけな復讐心も有ったように思う。

でも作れば作る程、そんなことはどうでも良くなった。

楽しくて楽しくて仕方が無い私が居た。

 

 

 

 

作品には全て同じ釉薬を使用しているが、

素地である土を変えたり、表情を付けてやることで、全く違った白を見せてくれる。

同じ作品であってさえ、光りと影をその肌に映し、七変化する。

白は凄い。

作れば作る程、頭の中には無限の可能性が広がって、

私はいつスタジオから出たらいいのか判らなくなってしまう。

 

 

 

元々が反発心などという了見の狭い、嘆かわしいスタートだったし、

依頼を受けてデザインしたものではなかったので、

自分一人で楽しみ、自分のために作るつもりだったのだが、

作品を愛して下さる方々が出来、新作を楽しみにして下さるようになった。


後日、この作品を作り始めてしばらくした頃に、私は砂漠を見た。

見たことの無い強烈な白の世界だった。

白は冷たく、且つ熱いと知った。

今も日々心の趣くままに作り続けている。

私の作る紙には、砂漠のエネルギーが吹き込まれ始めている。

陶芸が有って良かった。

そうでなければ、私には何も伝えられなかった気がする。

 

スタジオにて

 


砂漠へ Vol.2

2011年07月29日 | Travels

ハイウェイを走り続けて、車内の温度計が摂氏40度を超える頃、

突然左側に見えて来る、今走って来た道とは違う風景。

砂・・・・・

砂・・・・・

砂・・・・・

砂。


少し赤みを帯びた白い砂と青い空の他に何も見えない世界です。

砂漠。。。。。。

私が子供の頃からずっと心に抱いていた砂漠のイメージが目の前に広がっています。

ゆらゆらと灼熱の中に浮かぶ陽炎からは静かな音が聞こえます。

何時間でも何日でもこの砂の中に居たいと思いましたが、

靴底を伝って容赦なく登って来る熱で数分と砂の上に立っていることは出来ませんでした。


迫って来るのは衝撃的なパワーとエナジーとしか表現出来ません。

それを言葉にすることはとても難しい。

私の言葉などその程度もの。

肝心なことは言葉で何一つ伝えられないのです。

でも嘆くのは止めましょう。

私には言葉以外にも表現の手段が有るのですから。。。


来て良かったな。

砂漠は私の作品にジワジワと影を映していく、そう感じる今日この頃です。


では


砂漠へ Vol.1

2011年07月27日 | Travels

早朝のハイウェイを南へ。

無限に広がる風車の群れを過ぎ、

岩・・・・・

岩・・・・・

・・・・・どこまでも続く岩。


私が住んでいるところは、かつては赤土と岩しか無い、まさに砂漠だったところです。

長い年月をかけ、人々のどん欲な開拓精神によって人が住める場所となり、

やがて世界の大都市となりました。

普段の生活の中では砂漠を感じるのは、夏の間に何度か乾き切った熱風が吹き荒れる時位で、

遥か600マイルの彼方から運ばれる水に潤され、砂漠は息をひそめています。

それでも車で30分程走ると、低い岩山と赤土の大地が広がり、

ここは砂漠なんだと知ることになるのです。


写真の様な、岩と赤土の砂漠は私にとっては見慣れた風景です。

『だけどこの砂漠、私のイメージと違うのよね。』

ずっとそう思っていました。

今回の旅で、私がずっとずっと見たかった別の砂漠の形を訪ねました。

その時のお話は次回。


To be continued.

 



 


待ってたよ!

2011年07月25日 | Lives

 

スンスン スンスン ・・・・・

 

 

ねえねえ、どこかでいい匂いがするよ。

王様!上だよ上。地面じゃなくて、上を見てご覧よ。

 

 

今か今かと待っていたプルメリアが咲いたんだよ

 

ホント、いい匂いだね

 

この花を見ているとね・・・・・

 

 

こんな景色や、

 

 

あんなことを思い出すんだよ。

今度はいつ行かれるのかな?

行きたいな~

 

あのさ、どうでも良いけどお腹空いた~

・・・・・ 

 

 

プルメリアの花言葉

気品・風刺・情熱・熱心・内気な乙女・恵まれた人

 

 

 

 


バーテンダーのディナー

2011年07月23日 | Food

ここのところ行事続きで胃袋が少々お疲れ気味な私。

何かシンプルなディナーがいいな~などと考えていたまだ昼の暑さが残る夕暮れ、

今夜はバーテンダーがキッチンに立つそうです。ワ~イ

彼は自炊生活が長かったので、ひと通りの主婦業、出来ます。

今のところ私の方が向いていそうなので、私がしておりますが、

イザとなれば出来るというのは心強いです。

夏の夜はミントもさわやかにモヒート

お庭のミントライム、そして蜂蜜が入ったバーテンダー特製モヒートです。

今宵のメニューは  ”リングイネのはまぐりソース 

彼が留学時代、いわば彼の駆け込み寺的存在だったトラットリアのメニューからの一品。

オリーブオイル&ガーリック。ゴールデン・アロマに包まれながら、

私はモヒートに合う前菜を二品用意いたしましょう。

まず一品目、

ミント

スイカをダイスにカットしたもの

フェタチーズ


レシピなどは有りません。この3品をサッと合わせるだけ。

スイカの瑞々しい甘みとフェタチーズのキリッとした塩気をミントが取り持つ、

夏の夜に相応しい一品です。


そして二品目は、

2色のトマトのバルサミコマリネ。

こちらもトマトを一口大にカットしてバルサミコ酢オリーブオイル少々で和えただけ。

キッチンの出窓からバジルをちぎって、仕上げに白ごま少々。

マリネとは申しましても数分置けば良いだけです。


前菜というのは私にとってメインディッシュよりもレパートリーを多く持ちたい分野。

彩りが奇麗で、見た目に楽しく、レシピの複雑さよりも材料の組み合わせの意外性を楽しめますし、

急に予定よりもお客様の人数が増えたときや、急いでもう1、2品という時に大助かりです。

夜遅く、私達の事を思い出してフラッと立ち寄ってくれる友に、

バーカウンターでつまんでもらうのにもちょうど良い。

特別に食材を調達しなくても冷蔵庫やパントリーのストックから生まれる一皿。

レストランに行った際はメインディッシュよりも前菜のメニューを注意深く見る事にしています。

レシピが複雑なメインディッシュではそういう事は無理ですが、

前菜は実際オーダーしなくても、メニューから食材の組み合わせのヒントを貰えたりするのです。

・・・・・そうこうしているうちに、出来上がりました。

リングイネのはまぐりソース


から出ただしと、ホワイトバルサミコ酢、だけのシンプルな味付け。

私はこのパスタが、彼の作るパスタ料理の中で一番好き。

今はもうお店を閉めてしまったトラットリアに私も一度だけ連れて行ってもらった事が有ります。

小さな飾り気の無いお店で、入り口に大きなワインの樽が置かれていました。

そこから勝手に厚手のガラスのコップにワインを注いでテーブルに着く、粋なお店でした。

今は時々こうしてバーテンダーの作るお料理で懐かしむ事しか出来ません。

その後、ソムリエが居てワインはクリスタルのワイングラスでサーブされ、

二つ三つ星が瞬くイタリアンレストランに行く機会も出て参りましたが、

私達二人にとって、あのトラットリアが最も忘れ難いレストランである事は生涯変わらないでしょう。

味とは、そういうものだと思います。

 

Have a wonderful weekend everybody.