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わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?

翻訳もののSF短編を主に,あらすじや感想など、気ままにぼちぼちと書き連ねています。

世界の合言葉は森~アーシュラ.K.ルグィン②

2008-01-29 20:46:52 | 海外SF短編
 地球から27光年の彼方に位置する惑星「ニュー・タヒチ」。

 100万年前に地球から移植された動植物が独自に進化し,陸地を深い森が覆うこの惑星は,今や貴重な存在となった「木材」の産地として,人類が開発に着手したところであります。

 その労働力として,緑色の背毛を有する1メートルばかりの背丈の原住種族アスシー人を徴用し,使役していたのですが,彼らが突然,開発部隊に襲い掛かるという事態となります。

 物語の主要な登場人物は3人。
 部隊の高級将校であるデイビッドソン大尉。彼は,アースシー人を「人」であるとは認めない,狂信的なマッチョな人間であり,男たるもの女をものにし,男を倒すことこそ勲章であるという哲学?の持ち主であります。

 部隊の科学将校であるリュボフ大尉。彼は,アースシー人とのコンタクトを図り,心を通わせる,良心的ではありますが,孤独な線の細い人間であります。

 そして,アースシー人の精神的支柱として反乱のリーダーとなるセルバー。
 彼は,妻をデイビッドソン大尉から犯され,さらに大尉から半死半生の目に合わされたところをリュボフ大尉に救われたという経緯の持ち主です。

 なぜ当初アースシー人たちは,侵略者である人類に対して従順な態度をとっていたのでしょう。争いを好まない彼らは,無用な摩擦を避けることが第一と考えていたのでしょうか。

 しかしながら,仲間同士でも殺し合い,助命を請うアースシー人を虫けらのごとくに殺すような凶暴な人類は,まさに「人」ではないと判断するに至って,人類を殺す理屈ができたかのごとく,反乱ののろしを上げて,拠点を殲滅するに至ります。女性たちの皆殺しも含め,やることはかなり徹底しています。

 ところで,アースシー人は,「攻撃衝動排泄手段」というものをもつ特異な種族です。そして,現実の世界とともに,夢の世界も,また確かに存在する世界であると認識しています。

 おそらく,攻撃に替わる代償的行為のうえで,夢の世界に怒り,憎しみを運んでいることで成り立っている社会なのでしょう。

 でも,温和なアースシー人にも,たとえ代償的行為によって,その衝動を抑えているとはいえ,やはり積もり積もっていくものがある。夢の世界に運んでいたとしても,ついに耐え切れなくなるとき,夢の世界と現実の世界とを結び,現実の世界で発散させる必要が出てくる。

 セルバーは,崩壊寸前の世界を救う「神」として,その役割を果たしたのではないかと思います。セルバーとハイン人ルペノンとのラスト近くの会話は実に重いものがあります。

 人類とアースシー人,デイビッドソンとリュボフ,表と裏を対比させながら,その結び目に立っているかのようなセルバーを通じて,単なる善悪ではない「人」の本質の相克を描こうとする作品であると思います。

 対比の明確化のためか,デイビッドソンはかなり類型的おバカとなっているきらいはあるものの,なかなか骨太の読み応えのある作品となっています。

 1973年度ヒューゴー賞ノヴェラ部門受賞作。

○ 「帝国よりも大きくゆるやかに」



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