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こんな本を読んできた、ほか少々

これまでに読んできた本やマンガについて、好き勝手に書てみることにした。記憶のままに書いているので、間違い等はご容赦を。

アーシュラ・K・ル・グィン「闇の左手」「言の葉の樹」ほか

2012-09-20 20:02:17 | SF
アーシュラ・ル・グィンも好きな作家である。

好きな作家には会いたいと思うのが普通だろう。しかし、私、ル・グィンは、多分苦手なタイプだと思う。
バリバリのフェミニストで、同性愛許容派、おまけにヘビースモーカー。歯に衣着せずにものを置いうタイプと見た。
私はどちらかというと保守的であり、どちらかというとアンチ・フェミニズム(男女平等には賛成だが、どうもフェミニズムには女性中心主義の臭いがして好きになれない。偏見だと思うのだが)、気は弱い方。

おっかないわ、この人。

でもル・グィンの作品は好きである。

最初に読んだのは岩波書店の、いまはなき同時代ライブラリーの「ゲド戦記 影との戦い」だった。「たまには軽いファンタジーでも・・・」と思って読んだのだが、軽いなんてとてもとても。がっちりと組み立てられた世界の中で、主人公が自分自身の「影」と対峙し、それを克服するという骨太のストーリー。「ファンタジー・・・侮りがたし」という感を持ったことを覚えている。(おかげで、軽いファンタジーでは物足りなくなってしまった)

その後、ル・グィンがSF作家ということを知り、ハヤカワ文庫で多数出版されていたのを片っ端から読んでいった。長編では「闇の左手」「世界の合い言葉は森」「所有せざる人々」「言の葉の樹」、短編集では「風の十二方位」「オルシニア国物語」「内海の漁師」。確か長編の「ロカノンの世界」「辺境の惑星」「幻影の都市」も読んでいるはずだが、よく覚えていない。

彼女の作品の特徴は、描き出す世界のリアリティである。全く架空の文化や生物なのに、それが本当にどこかに存在するかのように、目の前にありありと浮かぶ。
登場人物も、たとえ特異な才能や能力を持っている者であっても、特殊な人ではない、我々と同じ感情や悩みを持った存在として描かれる。物語中の存在なのに、あたかも血が通っているかのような感じを覚える。

一番最近に読んだということもあり、「言の葉の樹」が印象に残っている。舞台は進歩的な惑星連合と接触したことにより、先端的な技術や物質的な物の考え方が怒涛のように流入しつつある後進惑星。いわゆる「近代化」のために、古来の伝統文化を捨て去ろうとしているその惑星に、文化の観察員が連合から派遣されたところから物語が始まる。古いものを隠そうとする政府に対して、監察院は調査を進め、やがて、政府によって禁止されている伝統的な信仰を探し求めていく。
この物語を読んでいくうちに、舞台が明治以降の日本と二重写しとなり、不思議な気持ちになった。世界を席巻する欧米文化と地域の伝統文化の対立という問題は、現在でも世界のいたるところで見られる。それを、米国人のル・グィンが、文化が流入してくる側の視点に立って描き切ったことに、非常に興味を覚えた。
(ちなみに、ル・グィンの父親は文化人類学者、母親は作家だそうである。異文化に対する視点やリアリティのある物語世界の構築には、このような背景があるのだろう)

日本で刊行されていても、まだ読んでいない物語も多い(ゲド戦記の2巻以降や、「西のはての年代記」シリーズなど)。今は積極的に手を出そうという感じではないが、いつかまた、ボツボツ読み始めようかという気もしている。