美男子俱楽部

※単行本はBOOTHにて発売中。

科学と恩寵

2022-10-27 | 

病気の所為で 痛みに耐えながら歩く老人の前を

原子爆弾をつんだスポーツ・カーが煙を上げて過ぎ去る

 

おれにはわからねえ

そそりたつあのパイプが 何の為に

やがて おれ達に終りをもたらす死の灰を

今も明日も 撒き散らし続けているのか

錆び、腐りかけたゆり籠の中で

何かを愛し 愛される事が出来るのか

 

科学とは無限の未来を放棄し

文明とは有限の自覚を放棄させるんだろ

 

おれはいま知る この世の堕落を 虚無を 汚らしさを

おれは知らない 世界、お前の愛を 夢を 性懲りのなさを

 

 

 

(『蓄音機』収録)


明日の歴史

2022-10-27 | 

希望の爪にまで

毒が流し込まれた鳩 もう翔び立てない

 

うなだれた平和見て おれはもはや

悲しみから それとも 憐れみから

涙を流す人みて

なにかを思う事は無くなった

希望は切なさを通り過ぎ 夢の中で黙り続けるんだろう

 

おれは今 絶望の海渡る

なくした君の羽をもいで

時間の上泳ぐ 誰のためでもない

あそこでふんぞり返ってる

 

明日の歴史の為に

明日の歴史の為に

明日の歴史の為に・・・・・・・・

 

 

 

(『蓄音機』収録)


詩的な散歩、超現実的なモデル

2022-10-27 | 

青いカラスの夢を見て

プロパンガスの爆発で目が覚める

太陽は月に急かされて

「まだ眠い」なんて喚いてるって言うのに

 

銀のパイプでスーツを着て

科学工場に叩かれて窓を開ける

昭和の時代をポケットに押し込んで

風の構造を頬で調べる

 

今日もいつも 変わらない

気違いどもにおはようございますでござんす

橋の上でエレクトリック・ギター

旭日の芸術 影のコントラスト

 

AUSCHWITZ行きの列車 宇宙船地球号

ガラスの作り物 電気ペガサス

リンゴ売りに来たイモ野郎

森羅万象の下らなさに憧れながら

 

婆だらけの仮面舞踏会

偉そうな女のアラベスク

パクリを極めた演奏家気取り

アーティスト面したカメラマン

 

夜も朝も 変わらない

気違いどもに今晩は 唾を吐きながら

氷った手で詩を書き留める

サラダは忘れずにね

 

因果に群がる虫どもに喰い荒らされたおれの死の門

内臓あたりが出血しているんだろう

美しさを綺麗に治療して

夢の序章を見てから夢に夢中

 

青いカラスまた飛んで行く・・・・・・・・

 

 

 

(『蓄音機』収録)


誰れも愛さないと決めた日の午後

2022-10-27 | 

公園のベンチに坐りながら 詩を書いてた

足下からのびる影の うっとうしさを見詰めながら

 

時間はもうすでに 南を遥かに過ぎ去ってしまい

雲は夕刻をすぎてから

機嫌をそこねてしまったために足首を紅潮させている

 

今すこし たったら

君の処へ行こうと思う

皮革の手帖を閉じて

そして聞かせてみせよう 愛の無い午後のうた

 

雨にふられた かたつむりの

抜け殻に響く鐘の音はもうすでに消えてなくなった

 

 

 

(『蓄音機』収録)


青年と婦女

2022-10-27 | 

いま 誰を愛しさけぶ

 

季節のゆらめき 教えてくれた

神々の愚痴に消された おれの時間

あの頃はまだ 愛だと思えた全てが 怪しく思えるおれさ

 

水甕の星たちは 水鏡の幻想といつだって浮気

銀河と思えば 希望を無くした夢の群れだった

 

月並みな愛の台詞を言われたって

おまえの朽ちた乳房に貸す耳はねえよ

 

 

 

(『蓄音機』収録)