R.I.P.

先週の木曜日、カザフスタンのフィギュアスケート選手で、ソチオリンピックの銅メダリスト、デニス・テン選手が亡くなりました。
車のミラーを盗もうとした2人組の男にナイフで襲われて大量出血し、救急車で搬送されるも手術の甲斐なく亡くなったそうです。

最初に、ネットでこのニュースを見た時、何かの間違い、それこそ悪意ある誰かのフェイクニュースではないかと疑いました。いや、疑ったのではなく、そう思いたかったのですが。あまりに、信じたくないニュースだったので。

彼の死を伝えるニュースが世界中を駆け巡り、SNSでは世界各国のスケーターたちが、追悼のコメントをUPしていました。デニス・テン選手のいちファンとして、それらのコメントを読んでは涙がこぼれましたが、同時に彼がどれだけ多くの人に愛されていたのかがよくわかりました。そのことは、亡くなる前から充分わかっていたつもりなのですが、それ以上にひしひしと。

私は、信心深いというか特定の宗教に深く帰依しているわけではないのですが、“神様”の存在を漠然と信じています。細かい教義のようなものを想定しているわけではなく、神様が書くシナリオには何かしら意味があって、けして破綻してはいない、その時はわからなくてもいつか明らかになる、くらいのものですが。

そう思うのは、私自身の経験によるものもありますが、ソチオリンピックでの浅田真央さんや、平昌オリンピックでのネイサン・チェン選手のように、ショートで大きなミスをした後、フリーで奇跡の復活を遂げた人を見たからというのもあります。失敗を取り消すことはできないけど、そこから立ち上がることはできる。最悪の現状から、より良いものへ未来を変えることができる。そういう意味では、ソチオリンピックのショートでミスが響いて出遅れたけれど、フリーで挽回して銅メダルに輝いたテン選手も同じですね。

でも、だからこそ、彼の訃報を聞いた時は、とても受け入れがたくて混乱しました。理不尽な暴力で唐突に命が奪われる事件は、日々世界中で起きています。今回はそれがたまたまテン選手だっただけで。そう思おうとしても、いま失われたものと、これからの未来に失われたもののことが頭をよぎってしまいます。このような理不尽を受け入れてはならない、立ち上がるべきだと世界中の人に示すために、神様は彼を犠牲にしたのでしょうか。もしそうだとしても、やはり今は受け入れられません。

先週の木曜日、突然の訃報にショックを受けたまま、フジテレビのドラマ「グッド・ドクター」第2話を見ました。このドラマの主人公の新堂湊（山崎賢人）は、自閉症でありながら、小児外科医として「すべての子供を大人にしたい」という夢を持っています。第1話で彼のこの言葉を聞いた時は、確かにその通りだ、そうあってほしいと共感しました。しかし第2話を見る時は、「大人になることがゴールではない、その先もずっと生きてほしい、生き続けてほしいのに」と、複雑な思いになりました。

そして今週、第3話。ドラマの序盤で救急搬送された少女が、小児外科医の夏美（上野樹里）の努力もむなしく亡くなった時は、つらくて目を覆いました。もしこれを見たのが一週間前だったら、耐えられなくて視聴を止めただろうと思いながら。でも、ドラマの最後、夏美が湊の亡くなった兄のことを「大好きだったのね」と過去形で言ったのに対し湊が「大好きです」と返したのを見てはっとしました。大好きな人が亡くなってしまっても、その人の生きている時間が過去にしか存在しなくなっても、好きという気持ちを過去形にしなくていいんだと、気づかされたからです。それは当たり前のことかもしれないけど、ショックのあまり忘れていました。フィギュアスケートとも現実に起きた事件ともリンクしていないドラマですが、直後じゃなくて少しだけ時間を置いてから、気づかせてくれてありがとう、と言いたくなりました。いや、ドラマ側にそんな意図がまったくないことはわかってるけど。

さて、明日は大阪へTHE ICEを見に行きます。ネイサン、宇野昌磨、ボーヤンと若手のスターが多数出演するのでとても楽しみにしていたのですが、心から楽しめるか不安に思うところもあります。でも、このショーを見ることが何かしら自分の中で良い方に作用するのではないかという期待もしています。明日の会場には、同じような気持ちを抱えた人がいっぱいいることでしょう。その人たちみんなが、見に来てよかったと、穏やかで温かい気持ちになれることを祈ります。

今まで本当にありがとう。
どうぞ、安らかに。