Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

司馬遼太郎「最後の将軍」

2008-03-27 00:38:45 | 読書感想文(小説)


この本を読むまで、私は徳川慶喜といえば「大政奉還を行った徳川幕府最後の将軍」くらいの認識しかありませんでした。慶喜が大政奉還に踏み切るまでの経緯も、将軍職を辞してからの人生も。なんせ大河ドラマは第1話しか見てないもので。あの大河は内容よりも“まさか紅白のステージに首から○○○○○をぶらさげて出てきたモックンが大河の主役をやるとは”と驚いたことのほうが印象に残っています。しかもモックン、今度は「坂の上の雲」にも出るもんなぁ。すごいなぁ。


…って、モックンの話ばっかりしてちゃいけません。小説の感想を書かなくては。



※ここから先は幕末に詳しい方なら「何を今更」と思われるようなことばかり書いてありますが、私は幕末に関する知識が病院食の味噌汁よりも薄いので、なにとぞ大目に見てやって下さいませね。ぺこぺこ。



えー、まず徳川慶喜の出自ですが、この人は水戸徳川家の出身です。父親は江守徹、じゃなくて水戸斉昭です。そして水戸斉昭はエロ大名で、大奥の女官を襲おうとするわ、息子慶喜の正室付きの侍女を騙して手篭めにするわ、とても黄門様の子孫とは思えません。
さすが江守徹です。
…って、感心している場合じゃありませんね。でも、江守徹がこの憎たらしい斉昭をどんな風に演じるのか気にはなります(←ドラマ見てないくせに)。

で、こんな斉昭の息子ですから、慶喜は大奥でもものすごく嫌われていたそうです。そもそも将軍に世継ぎが生まれなかった場合、御三家(橋幸夫と舟木一夫と西郷輝彦…ではない)のうち尾張と紀州のどちらかから養子を出す事になっているのに、水戸家の斉昭が自分の息子慶喜を十四代将軍に据えようと画策したわけですから、大奥の女人たちに「この身の程知らずめが!」と罵られても仕方ありません。まあ、実際のところはそんな単純な話ではないのですが、面倒なので割愛。でももしかしたら斉昭はどMで、大奥の女官たちに罵ってもらうためにわざとそうしたのかもしれませんが(ありえん!)。

さて、そんな困った父親を持つ慶喜は、血は争えないというか、ある部分は父親にそっくりでした。それは好色であるということ。慶喜は「独り寝」ができず、常に閨に女性を侍らせていたそうです。なので慶喜は子沢山でもありました(慶喜の子女のうち、成人した人だけでも十男十一女います)。なんとなく、この生臭い慶喜が、嫁いで間もなく寡婦となった篤姫とそりが合わなかったのがわかる気がします。

しかし、好色なところは父親と似ていても、慶喜は父親が望んでいたような「将軍になってこの国を支配しよう」などという野心は持ち合わせていませんでした。並外れて明晰な頭脳と、人々に恐れと期待を抱かせる不思議なカリスマ性を持っていたというのに。慶喜の思考はこの幕末の動乱をどう生きるかではなく、長い歴史の中で自分はどのように位置づけられるのか、ということに向けられていました。うーん、なんか最近、こういう人をどこかで見たような…

誰だっけ…

あっ

去年の上杉謙信だ!!

人間離れしたカリスマ性があるのに、それでいて野心がなくて、宇宙から電波を受信してるに違いないような弁舌で周囲をケムに巻く(慶喜の場合、大政奉還と天璋院への敗戦報告でこれを発揮してました)ところとか、自分の論理に酔って周囲から浮きまくってるところとか。“女人への欲”については正反対ですが、去年のガックン謙信にそっくりです。そっかぁ、そうだったのかぁ。でもそれなら今年も

ガックン連投でいいじゃん!!

フランス式の軍服を着て、デムパな口調で幕臣を説き伏せる慶喜…ぴったりじゃないですか。それなら私も見ます。天然篤姫と電波対決してほしいですわ。

…冗談はさておき、この小説に出てくる徳川慶喜は、主人公のくせに読者に共感を抱かせない、奇妙な主人公です。「国盗り物語」の明智光秀や「関が原」の石田三成のような。3人とも、能力はあるのにそれ以外の“何か”が欠けています。「時の運」とか「人間的魅力」とか。

でもだからといってこの小説が面白くないわけではありません。幕末から明示にかけての動乱の時代を、「時代の敗者」である慶喜の側から描いているのは興味をそそられました(プラス私の苦手な坂本龍馬があまり出てこないからかもしれませんが)。

慶喜が将軍職にあったのはほんの一年ばかりだそうですが、その一年の間に慶喜は三百年続いた徳川幕府の残務処理をやり、大政奉還をしたことで“徳川幕府を滅亡に追い込んだ将軍”として後世まで語られる事になります。そして33歳で隠居して70過ぎまでひたすら趣味(写真、油絵、大弓、刺繍)に生きた、と。なんかものすごく偏った人生です。コーヒーで言えば前半がエスプレッソで、後半がアメリカン、てな感じ?まあ70余年の人生をずっと人濃いままで過ごすわけにはいかないか。

小説では、慶喜は自分が後世の人から「悲運の英雄(たとえば義経のような)」と見なされることを望んでいたとなっています。そして自分を追い込んだ薩長が憎むべき悪役となるように、と。なんかものすごい理屈ですが、そうでも考えないと、この時代の将軍職はやってられないのかもしれません。巻き添えになった幕臣たちは気の毒ですが。会津藩主松平容保なんて、「新撰組!」の筒井道隆のイメージがあるから、慶喜にだまされて江戸までついて行ったあげくに領地をとりあげられたくだりは本当に同情しました。しかも慶喜のほうが長生きしてるし。

さて、この小説での天璋院篤姫の扱いですが、なんと2回しか出てきません。しかも2回ともセリフなし、うち1回は名前だけ。篤姫は斉彬から「次期将軍に一橋慶喜を推すように」と言われていたというのに、ずいぶんとつれないことです。ちなみに小松帯刀も出てきますが、慶喜に気圧されて平伏してるだけという、尚五郎モードな出番だけでした。この小説の小松帯刀は薩摩の切れ者設定なんですけどね。やっぱり尚五郎は尚五郎でした。

さて、次は何を読もうかな~?薩長嫌いの慶喜がそれでもその人物のすごさを認めていた西郷隆盛か大久保利通関連の本を読みたいところなのですが、手頃な本が見つかりません…。


4 コメント

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「坂の上の雲」は楽しみにしてるんですけどね (あんの)
2008-03-27 22:35:29
もちきちさん こんばんは

>能力はあるのにそれ以外の“何か”が欠けて

私は来年の大河の主人公をそういう目で見ています。
まあ友達の三成よりソツはなかったみたいですが。

>「国盗り物語」の明智光秀や「関が原」の石田三成

両人ともクライマックスになればなるほど「おいおい」とツッコミたくなるくらい悲惨でしたね。
とくに三成は島左近やにいいところ全部もっていかれてるしで主人公的にもより悲惨な印象が。

大久保どんと西郷どんは意外と主役でいい本が少ないですね。
「翔ぶが如く」は「坂の上の雲」みたいに後半はひたすら戦争描写ですし。
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「飛ぶが如く」もですか… (もちきち)
2008-03-28 12:42:30
>あんのさん
こんにちは~。

>来年の大河の主人公
あ~、わかる気が…。「天地人」は未読なんですが、
面白いんでしょうかね?あれ。

>主人公的にもより悲惨な印象が。
島左近はかっこよく散ってましたね。
読んでて、なぜ左近が三成についていったのかギモンでした。

>「飛ぶが如く」
読もうかなと思ってたんですが長いので躊躇してました。
小説より新書とかのほうが読みやすくていいのかな?
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西郷・大久保は相変わらず本が思いつきません (あんの)
2008-03-29 21:46:36
こんばんは もちきちさん

「天地人」は本屋で買いかけたのですが、少し中を見て「これはダメだ」と思ったので、買いませんでした。
そんなに贔屓じゃない来年の大河の主人公ですが、藤澤周平に主役にしてもらった「密謀」は面白かったです。こっちを「大河」の原作にしてほしかったくらい。

>なぜ左近が三成についていったのかギモンでした

あれはもうあの中年になっても生意気小僧を使って大きなケンカを趣味でしたかっただけじゃないでしょうか。

>「翔ぶが如く」

読み応えはありますよ~
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藤澤周平は私も狙いました。 (もちきち)
2008-03-30 00:30:42
>あんのさん

>「これはダメだ」
うわ~…これはもう来年も最近の大河に倣って「原作無視」の
方向で行ってもらわなきゃいけませんかね。。。

>「密謀」
来年に備えて読む本の候補にあげてたところです。
「天地人」よりはとっつきやすいかと思いまして…。

>大きなケンカを趣味で
まあそんな理由で。やっぱりオトコマエですね。

「飛ぶが如く」は、もしチャレンジしたらこれだけで読むのに1年かかりそうで
心配です。気にはなるんですけどねぇ。
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