阿川佐和子さんの食にまつわるエッセイ集、「残るは食欲」を読みました。
よく行く輸入食料品店で、見かけるたびに買おうかどうしようか迷っている食材があります。
それは、「ウーピーパイ」なるお菓子の素。見た目はクリームを挟んだココア生地のどら焼きみたいな感じで、見た目はいかにもアメリカーン。箱に書いてあるレシピはいたってシンプルで、ウーピーパイの素に水と油と卵を混ぜてオーブンで焼いて、フィリングになるクリームの素に牛乳を混ぜたのを挟んでできあがり。これなら私にも余裕で作れそう…と思ったのですがここで問題が。この「ウーピーパイの素」を使って作ると、一度に12個もできちゃうんですねぇ。
うちは両親と私の3人暮らしなので、たくさんお菓子を作っても、なかなか消費しきれない。しかもわが母マリコはチョコレートケーキとかブラウニーとか、ココア味のお菓子が好きではない(でもチョコレート自体は大好き。矛盾を感じる)ので、最悪私一人で消費しなくてはならなくなります。
というわけで、今のところ私にとってウーピーパイは、作りたくても作れない憧れのお菓子、になっております。こういうとき、自分が作ったお菓子を楽々食べてくれる、食欲旺盛な人がそばにいてくれたらなぁ、と思います。お菓子の場合、一人で作って一人で食べるのは結構大変ですから。
こういうとき、どうすればいいのか―「一人で作り一人で褒め、一人で食べ尽くす」阿川さんに聞いてみたいです。
で、話は阿川さんの本に戻ります。
これまで、盟友の檀ふみさんとの共著「ああ言えばこう食う」などで、檀ふみさんは「食べること」についての文章が多いのに対し、阿川さんは「作ること」についても詳しく書かれていたので、私は阿川さんのことを
「料理が好き&得意な人」
だと思っていました。エッセイの中では、珍しい食材や調味料がさらっと登場して、とてもざっくりした、それでいて手際のよさを感じるレシピが書かれているので、
「ああ、この人は料理のセンスがあるのだろうなぁ」
と、尊敬の念を抱いておりました。そしてそれと同時に、不器用で料理人としてのセンスに欠ける私は、勝手にコンプレックスを感じてもいました。
…が、この「残るは食欲」には、阿川さんなりの料理や食べ物についての失敗談があれこれ書かれていたので、失礼ながらちょっぴり安心いたしました。カレーが辛すぎたり、地方の空港で買った新鮮な野菜の消費に困ったり、他所で飲んだ生姜ジュースの味が再現できなかったり。なんだ、やっぱり成功の影には失敗もあるのね、と。まあ、だからといって私の料理の腕が低空飛行なのは変わらないんですが。
とはいえ、やはり収録されているエッセイの大半を占めるのは、美味しそうな食べ物の話。中でも気になったのは、阿川さんが子どもの頃、お父様の酒の肴によく作っていたという、薄焼きせんべいのバターサンド。想像するとくどそうだけど、上質なバターとせんべいで作れば、チーズおかきの濃厚バージョンみたいになって、お酒には合いそうです。カロリーを考えると、ちょっとアレですが。
そして、クリスマスでもないのに焼いた、阿川さんのオリジナルローストチキン。実は私はローストチキンを食べたことがありません。せいぜい骨付きの鶏もも肉くらいで。鶏まるごとってのが見た目で勝負している感じがして、食べにくそうだし、あまり興味がわかなかったのです。でも、阿川さんが作っている過程がとても美味しそうだったので、私も「これは食べてみたいなぁ」という気になりました。もちろん、私が阿川さん手作りのチキンをいただけるわけはありませんが…どこかの惣菜チェーンで商品化しないかしら。クリスマス限定で完全予約制とか。
あと、読んでるこちらが「ん?」となるようなエピソードもいくつかありました。韓国の木の根のジュースとか、カレーライスにイチゴジャムとか。イチゴジャムはカレーにこっそり添えておくと、福神漬みたいで違和感はありませんが、充分トラップです。こういう気取りのないこと、むしろもうちょっと気取ったほうがいいんじゃないかと心配してしまいそうなことを書いてしまうのが、阿川さんのかわいいところなのかもしれませんが。でもイチゴジャムは…無理。せめてマーマレードかな。あんまり変わらないか。
新潮文庫版の表紙は絵本作家の荒井良二さんの手によるもの。これはエッセイにも出てくる、“作るのがものすごくめんどくさいオレンジのケーキ”をイメージしているんでしょうか。とても美味しそうです。作るのはめんどくさいそうですが。几帳面な檀ふみさんなら、こういう作業も平然とやってのけてくれるかもしれませんね。ぜひまた共著で食にまつわる本を書いていただいて、その本の中でこのケーキを再現してほしいです。
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