Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

川村元気「世界から猫が消えたなら」

2016-02-29 23:42:52 | 読書感想文(小説)




猫のキャベツと共に暮らし、郵便配達員として働く三十歳の僕は、長引く頭痛に耐えかねて訪ねた病院で、脳腫瘍のため余命わずかだと宣告される。
ショックにうちひしがれて僕が家に帰ると、そこには僕とまったく同じ姿をした男が待っていた。男は自分を悪魔だと名乗り、僕に
「この世界から何かを消せば、その代わり一日だけ命を長らえられる」
という駆け引きを持ち掛けてきた。電話、映画、時計。悪魔の誘いに乗った僕は、生きるために何かを消すことに決めるが…。


佐藤健主演で映画化するとのことで、映画館で何度も予告編を見るものの、正直どんなストーリーなのか想像しづらかったので、「ならいっちょ読んでみるか」と原作小説を手に取ってみました。

小説の序盤、“自分の命を得るために、一日にひとつ、世界から何かを消す”という発想ははなかなか斬新ですごいと思いました。というのは、世界から「何か」が消えている状況を文章でどう説明すればいいのか全然想像がつかなかったから。なので、さて作者はどうやって表現するんだろうと期待してページをめくりました。ま、結果、「何か」は消えていることになるだけで、ドラえもんのもしもボックスみたいに、「○○がなくなった世界」が出てくることはなかったのですが。その代わり、“主人公の僕の主観のみによる、消した「何か」がない世界”がミニマムに綴られていくので、広がりはないけど奥行が感じられました。登場人物も少なく、主人公の背景も最低限の説明で、作者が表現したいもの以外をそぎ落とした物語は、それゆえに純度の高い、多くの人に共感されるものになっています。実際、この世に生まれてきた人は皆主人公と同じくいつか死ぬし、ほとんどの人は人生のうちに大切な誰かを見送りますから。誰でも共感できる“死”というテーマで、最大公約数をうまく掬っています。さすが、多くのヒット作を生み出した、映画プロデューサーの著作だけあります。

で、たくさんの人(皆とは言わないけど)が共感するであろうこの小説を読んだ私の個人的な感想は、

“涙腺を刺激されるところはあるけど、心が揺さぶられるほどではない”

でした。もう少し、主人公の頭の中以外、現実的な部分が描かれていれば、もっと登場人物に気持ちを寄り添わせて読むことができたのですが。文庫の帯のレビューで角田光代さんが「小説だが、これはむしろ哲学書なのではないかと思えてくる」と書かれていますが、確かにこの本を読んでいると、作者は小説の物語ではなく作者本人の思想、哲学を語っている気がします。でも、できれば、私は小説のほうを読みたかったです。多分、私はこの本を読むには歳を取りすぎているんでしょうね。肉体的にではなく精神的に。だって、ウォン・カーウァイの「ブエノスアイレス」に感化されてアルゼンチンまで行ってイグアスの滝を見るって、「???」だもの。多分、この本を読んで初めて「ブエノスアイレス」を見た若人はもっと「????」だろうけど。

映画で主人公の元恋人役を宮崎あおいが演じるので、小説のメインは主人公と元恋人の話だと思ったのですが、読んだらメインは主人公と母親と、2人が飼っていた2匹の猫の話でした。宮崎あおいを出すくらいだから、映画では元恋人の出番が増えるのだろうけど、そうなると原作とだいぶ雰囲気の違う作品になりそうです。もちろん、原作を忠実に再現する必要はないけれど。ただひとつ、映画に対してあえてひとこと希望を言うならば

中途半端にウォン・カーウァイ作品を意識した映像だけは流さないでほしい

くらいです。多分、誰も得をしないだろうから。

あと気になるのは、映画では悪魔がどう表現されるのかですね。佐藤健が一人二役をやるのかな?原作に出てくる悪魔みたいなキャラを演じる佐藤健を想像できないので、それはちょっと見てみたい気がします。アロハシャツを着た佐藤健…。



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