Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

伊坂幸太郎「魔王」

2008-09-27 12:19:53 | 読書感想文(小説)


会社員の安藤は弟の潤也と二人暮らし。両親は幼い頃に交通事故で亡くなっている。ある日、安藤は地下鉄の中で座席に座れず立ち往生している老人を見かけた。その姿と席を譲らない非常識な若者に苛立ちを覚えた安藤は声に出さずに毒づいたが、なぜか安藤の心の中の呟きは老人の口から言葉になって発せられたのだった。“自分が念じたことを他人に喋らせる事ができる”―自分の能力に気づいた安藤は、ある一人の男に近づいていったのだが…。


※いつものことですがネタバレしてます。ご注意下さい。



「魔王」を読み終わって、なぜか筒井康隆の「七瀬ふたたび」を思い出しました。超能力者が出てくる以外、ストーリーはまったく違うんですけどね。なんでだろう?ラストで主人公が辿る道が同じだからなのかなー?

文庫の帯に「魔王とは何者なのか?魔王はどこにいるのか?」と書かれているのですが、この小説の中で魔王候補として

1.若きカリスマ政治家、犬養。
2.常人にはない超能力を持ってしまった安藤。
3.安藤の弟の潤也。
4.安藤とは異なる超能力を持っている、あの人。

の4人が出てきました。潤也についてはその能力が顕著になるのは、この文庫にも収録されている、「魔王」の5年後の世界を描いた「呼吸」での話ですが、「魔王」のなかでも「もしや?」と思われる描写がいくつか出てきてました。

私は最初、「魔王=犬養」と単純に想像してたのですが、「魔王」の終盤で「実は4の人なんじゃないか」と思い始め、「呼吸」を読んだ後には「それも違うんじゃないか?」と気が変わる始末。なので私も安藤のごとく自分であれこれ考えて見ましたが、結局、小説がはっきりした結論を出してないのだから、自分で好きに決めてもいいのでは、という結論に落ち着きました。でもまあ、その結論も「モダンタイムス」を読んだらまた変わっちゃいそうですけどね。

「魔王」の世界における日本の状況は、私たちの住む現実世界ととても似通っています。名前は違えど、「ああ、あの人のことか」とすぐ思い出せる政治家も出てきますし。作者の創作である犬養も、若きカリスマとして大衆が持ち上げてられている姿は某元総理大臣を思い出しますし。

安藤と犬養は「情報に惑わされるな。自分の頭で考えろ」と唱える点が一緒ですが、安藤の場合は「自分で考えろ」と言いつつ他人に自分の言葉を言わせるところが、犬養の場合は「自分で考えろ」と言いつつ独裁者のように自分の意志を押し通していて、なんだか矛盾しています。犬養の場合は、果たして本人の意志でそうしてるのかどうかわからないところもありますが…。もし、安藤に特殊な能力がなく、ただ思索して自分で行動することを信念とするだけだったら。超能力ではなく、犬養毅の名言「話せばわかる」の通り、言葉で人の心を動かす事ができたら。安藤は世界を変えられたのかもしれないなぁ、そんな気がします。さて、それなら潤也は…?

この小説のタイトル「魔王」は、シューベルトの歌曲「魔王」から取られたものでした。魔王の存在に怯える子供と、魔王がそこにいることがわからず、自分の都合のいいように解釈する父親。そして子供の必死の訴えも虚しく、魔王に魅入られた子供は息絶える―そんな内容の歌でしたが、安藤は犬養を熱狂的に支持する民衆を、自分の都合のいいように解釈して、目の前にいる魔王に気がついてない父親と同じだと思っていました。事実、民衆は魔王に気づかず(実際には気がついてるのに、あえて目をそらしてるのかもしれないけど)、犬養を自分たちの指導者として認めてしまいます。そして、日本はどうなってしまうのか―ここから先は「モダンタイムス」の世界ですが、一体どうなってるんでしょうね?単行本の発売はまだ先ですが気になります。こんなことなら毎週モーニングを立ち読みするときに「モダンタイムス」もチェックしとくんだったなぁ。いつも「へうげもの」をざっと読んだところで終わってたよ(←モーニングを買うという選択肢は考えてない)。

ところで、私はこの歌曲「魔王」について、「魔王は存在していて、父親がそれに気づかなかった」という解釈と並行して「いもしない魔王の存在に怯え、恐怖のあまり命を落としてしまった子供」というのもアリだなと思ってます。実際、安藤が魔王だと信じて戦いを挑んだ犬養は実は―でしたし、安藤は誰かから強烈な暗示をかけられたのかもしれないなー、とも考えられるし。まあ、私のこんな考えも、安藤の友人の島に言わせれば「お前はいつだって真面目に考えすぎるんだって」と笑い飛ばされるのかもしれませんが(いや、真面目というのとはちょっと違うか)。


潤也が主役の「呼吸」は、これから何かが始まろうとするところで終わっていて、最後のページを読み終えてから「えっ、ここで終りかよ!?」と突っ込んでしまいましたが、そのおかげでかえって余韻を持たせるいい終わり方になったとも言えます。この余韻と「モダンタイムス」がどう結びつくのかはまだわかりませんが…こんなことなら毎週モーニングを(以下略)。


本筋からだいぶ話がそれますが、この小説を読んでて、私が思わず吹き出してしまった言葉が2つあります。それは
マクガイバー
と、
月刊耳掻き
です。「マクガイバー」は、安藤が子供の時にみていたテレビドラマ「冒険野郎マクガイバー」の主人公の名前なのですが、この名前を見るとどうしても「ピューと吹く!ジャガー」を思い出してしまってつい…。そして「月刊耳掻き」!!これは潤也の妻詩織の同僚の夫(ややこしいな)が編集している雑誌なのですが、耳かきの専門誌で、しかも月刊っていうのがすごいです。一体どんな記事が載ってるんでしょうか。最新型の耳かきとか、形状別耳垢の取り方とか、耳毛の処理の仕方とか…こんな雑誌がもしホントにあったら、私は毎月購読しますよ~。耳掻きマニアの私の姉も、絶対買うと思います。実在しないかな~、月刊耳掻き。




2 コメント

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Unknown (お姉さま)
2008-09-28 21:00:19
当然定期購読だ!!!
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やっぱりな! (もちきち)
2008-09-28 22:48:39
>お姉さま
いっそ君が編集長になって創刊しちゃえ!
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