近藤史恵「サクリファイス」

オリンピック出場も夢ではないと言われた陸上競技の道を捨て、ロードレースの世界に入った“チカ”こと白石誓は、過去にうけた心の傷から、自らが勝つことよりもアシストになってエースを勝たせることこそが自分に向いていると信じていた。そして彼が所属する「チーム・オッジ」には、不動のエース、石尾豪がいた。チカは、勝利に貪欲でエースとしてのプライドが高く、自分にも仲間にも妥協を許さない石尾を恐れつつも尊敬していた。しかし、あるレースのある出来事をきっかけに、チカはそれまで知らなかった石尾の過去を知る事になり―

※ミステリー小説なので、細かいあらすじが書けません。なので感想もぼやけた内容になってしまうかもしれませんが、ご了承くださいませ。


上で「ミステリー小説なので」と書きましたが、読んでからの私の印象は「青春小説」でした。途中でいろいろ起きますが、メインはロードレースの世界を通した、チカの成長物語ですから。でもその割には、チカとチカの周りの人たちとの関係があっさり描かれすぎな気もしますが。チームメイトやライバルの外人選手など、個性的なキャラがいっぱい出てくるのに、さらっとしか描かれていません。ちょっともったいないです。チーム・オッジの次期エース候補の伊庭でさえ、最後まで人物像が見えませんでした。前半は出番が多かったから、もっと話に絡んでくるかと思ったのになぁ。あと、私は近藤史恵さんの作品を読むのは初めてなので、改行と読点が多い文体も気になりました。こういう作風（と文体）の人なんでしょうか？？

タイトルの「サクリファイス」とは、ロードレースの世界で自分を犠牲にしてエースを勝たせるアシストのこと…だと思っていました。最終章（第十章 サクリファイス）を読むまでは。しかし、最終章のどんでん返しでその意味は大きく変わります。真の「サクリファイス」は誰だったのか…最終章にはもう涙、涙です（心の中で）。あれ、もしかしてこれってネタばれ？？ごめんあそばせ～。

ロードレースの世界が舞台なので、登場人物のほとんどがレーサーもしくはレース関係者です。唯一の例外がチカの幼なじみにして元恋人の香乃でした。この香乃の描かれ方もいまひとつ…チカの主観でしか描かれてないうえにチカが香乃をとことん神聖視しているのもひっかかりました。もう少し女の生々しさとかしたたかさとかがあってもよかったんじゃないかなぁ。しかも最後はあんなことになってるし。香乃は○○が何をしたか知ってるんでしょうかね？知ってるにせよ知らないにせよ、恐ろしい結末だなぁと思いました。（ネタバレになってたらごめんなさい）

私はロードレースどころか自転車競技そのものについてまったくの素人なので、この小説に出てくる世界を「ふんふん、なるほど～」「へ～そうなんだ」と素直に受け入れて読むことができました（多少、抽象的だな～と思うところもありましたが）。でも、ロードレースのファンの人や選手がこの本を読んだらどんな感想を持つんでしょうね。聞いてみたいような、聞くのが怖いような…。


ところで、ヒットした小説やマンガはすぐに映像化されてしまうのが最近の流れですが、この小説もドラマか映画になったりするんでしょうかねぇ。私の脳内では
チカ＝山田孝之
伊庭＝山Ｐ
香乃＝長澤まさみ
だったんですが（石尾は思いつかなかった）、どう考えてもこのキャストだけはありえないっすね。。。