お父さんからは夜の匂いがした―
震災で家族を失った十歳の少女・花。孤児になった花は腐野淳吾という遠縁の若い男に引き取られ、2人は親子になった。
それから15年後、花は恋人の美郎と結婚することで淳吾との過去を振り切ろうとするのだが…
※ネタバレあります。未読の方はご注意ください。
この小説が直木賞を受賞した当時は、テレビも雑誌も凄い凄いの連発で、「そんなにすごい話ならいつか読んでみよう」と思っていたのですが…いざ読んでみた、その直後の感想は
「だからどうしたいわけ?」
…でした。いやぁ、この本を読んで素直に感動できないなんて、私もつまらない大人になったもんですわ。はは。
小説は2008年6月の花の結婚から始まって、それからどんどん時間を遡って、最終章は花と淳吾が出会ったときの話で終わります。つまり結末が最初の章に書かれているので、上記の感想になってしまったわけです。
最初の章ではわかりにくかった親子の秘密は、読み進めていくうちに明らかになり、読み手の視界は徐々にクリアになっていきます。この辺は普通の小説でもそうですね。ただ、この「私の男」の場合、読み進めて視界をクリアにしたら、人として見たくなかったものまで見えてしまうので、読み終わってから非常に気が滅入りました。花と淳吾が、けして「この世に2人きり」なわけではなく、なぜそうなるのか動機が明確にされないまま、わざわざ暗いほうへ暗いほうへ突き進んで行くのに共感できなかったのもキツかったです。動機がぼかされているのは作者の意図があってのことでしょうが、それにしたってぼかしすぎじゃないかしら…どうせぼかすなら花の子供時代の性描写をぼかしてほしかったわ。
花と淳吾の過去に2人の人間の死が絡んでいることもあって、物語はちょっぴりミステリー仕立て。でもそんなに効果のある仕掛けではないので、中途半端な感じがして物足りなかったです。殺人や近親相姦は衝撃的でインパクトがあるけど、描写がマンガチックで突っ込みどころが多かったのも不満が残りました。例えば殺人で一番大変なのは死体の始末なのに、そこんところを都合よくごまかしちゃってるなとか(まさか押し入れに入れっぱなしではあるまいし)、避妊もしないであれだけやっててなぜ妊娠しない?とか。性行為の描写にやたら唾液が出てくるのが臭そうで「うへえ」と思ったりもしました。別にあっと驚くどんでん返しを期待しているわけじゃないけど、それならいっそのこと殺人とか近親相姦とかとっぱらって、花と淳吾の間にあるのは“誰にも割り込めない精神的なつながり”だけにすればいいのに、とまで思ったりもしました。実際、そっちのほうが犯罪や体の関係があるよりも厄介だし。
…と散々こきおろしてしまいましたが、興味深い部分もいろいろありました。例えば、花と淳吾が最初に住んでいた北海道の海辺の町の、町中が顔見知りで、生まれた瞬間から死ぬまでの運命がもう決まっているかのような、息がつまるような閉塞感の描写。周囲に溶け込めない淳吾と、そんな淳吾を無理やり自分たちの色になじませようとする周りの人間たちの様子があまりにリアルなので、読んでて「う~ん」と唸らされました。桜庭さん、こういうの得意なんでしょうね。「少女には向かない職業」でも、田舎町に住む、どこかに逃げたいけどどこにもいけない女子中学生のもどかしさが絶妙に描かれていましたから。
小説のメインは花と淳吾の回想ですが、その途中に花の恋人の美郎と、淳吾のかつての恋人の小町の視点で描かれた章がひとつずつ入っています。アマゾンのレビューではこの2つの章は要らないという意見が多かったですが、私は逆にこの2人の章のおかげで花と淳吾のどっぷりねっとりの世界を客観的に見ることができてよかったです。最初から最後まで花と淳吾の主観で描かれてたら、この小説の世界では花と淳吾の価値観・認識こそが絶対の、現実味のないウソくさい話になってしまったでしょうから。特に美郎の章は、あるとないとでは美郎に対するイメージが全く違ってしまいますし、小説の中では描かれていない花の“これから”がどうなるのか、読者に想像させるためにも必要だったと思います。一方、小町さんのほうは、花と淳吾の毒気にあたって人生を狂わされた人として描かれていますが、小町さんを北の田舎町の住民代表だと考えると結構怖いです。花と淳吾は2人の関係を完璧に隠し通せてたと思っているけど、実は町のいたるところに小町さんのような目撃者がいるのかも…なんて。
というわけで、小説そのものに感動したり大絶賛したりすることはできませんでしたが、いろいろ想像&妄想することで小説を楽しむことはできました。一番じーんときたセリフは震災で亡くなった花の父親の最期のセリフ「花、生きろ!」なんですけどね。普通なら泣かせるセリフなのに、それを極限までネガティブに解釈する花(当時10歳)には絶句しちゃいましたが。
それにしても、どう転んでも絶対映像化は無理だよなぁ…10歳の少女の体を26歳の男が舐めまわす図なんて。高校生の花は吉高由里子か仲里衣紗がぴったりだと思うのに。そして淳吾はトヨエツで…ってそこが一番シャレにならんわ。
本の感想や趣味がまたまた一緒なので、ついうれしくてカキコ(^^)しちゃいます。
「私の男」の読後感想第一は「何がいいたいの???」です。作者がこれを書いて何がいいたいのか、だから何なのかさっぱりわかりませんでした。最初結婚から始まっているので、あれでは花の旦那があまりにかわいそうなのでは。「赤朽葉家・・・」のほうがよっぽどよかったです。このごろの直木賞って、周回遅れというか前の作のほうがいいけど、今回やっとくか、ってのがやたら多いような。選考委員がどこがよくて押してるのか訳わからん作品が多いですよね。
テレプシもいいたいことはたくさんありますが、コメント欄でみなさんいってくれてるのでこの辺で。それにしても、山岸涼子自身が書くのに飽きたのかしら。せめて自分で広げた風呂敷くらい畳んで終わりににしてほしかったです。好きな作家さんなので、ますます残念です。気候変わり目なので、くれぐれもご自愛を
こんばんは~
宮部みゆきの「おそろし」の続編が出ましたね。
ハードカバーは高くて手が出ないので、読むのはまだ先になりそうですが…
>「私の男」の読後感想第一は「何がいいたいの???」です。
そうそう。表現したいことがいまひとつ伝わってこないんですよね。
読者の想像にまかせるにしても、想像する余白が多すぎるし…。
>このごろの直木賞って、周回遅れというか前の作のほうがいいけど、今回やっとくか、ってのがやたら多いような。
芥川賞はどうかわかりませんが、直木賞は作品というより
作家に贈っている気がしますね。
東野圭吾が受賞した時も「え、この作品で?」って思ったし。
>それにしても、山岸涼子自身が書くのに飽きたのかしら。
残念ながら、その可能性は大きいですね…
でも燃え尽きるにしてもタイミングが悪すぎ~
夏が長かった分、秋があっという間に過ぎて急に寒くなりそうですね。
お互い気をつけましょう。
わたしも実写なら絶対トヨエツなので、嬉しくてコメントしています。
服装はみすぼらしくても貴族のように優雅、作品全体に漂う廃頽・・そんな雰囲気を出せるのはトヨエツしかいない!って思いましたが、今回の映画化は浅野忠信・・トヨエツは年齢的に厳しいんでしょうね^^;
ですが、モスクワ映画祭で主演男優賞まで獲ったので、浅野忠信もいい演技してるんでしょうね・・!観るのが楽しみです^ ^
おはようございます(これ書いてるのが早朝なので…)。
コメントありがとうございます。
>服装はみすぼらしくても貴族のように優雅、作品全体に漂う廃頽・・そんな雰囲気を出せるのはトヨエツしかいない!
そうそう、優雅さと退廃した雰囲気ならトヨエツかな~と私も思いました。10年前ならトヨエツだったんでしょうね(^_^;)
予告編を見たら、映画と原作は少し内容が違ってそうだったので、見るのが楽しみです。
もっとも、私の住んでるところでは公開が遅いので、いつ見に行けるのかわからないのですが…とほほ。