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Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

シャーリィ・ジャクスン「ずっとお城で暮らしてる」

2008-05-17 00:16:20 | 読書感想文(小説)


シャーリー・ジャクスンという名前をどこかで聞いたことがあるなーと思っていたら、宮部みゆきの「模倣犯」の冒頭にシャーリー・ジャクスンの短編「くじ」の一部が引用されていました。宮部さんもジャクスン好きなのかな?



あらすじ:物語の語り手はメアリ・キャサリン・ブラックウッド。姉のコンスタンスは彼女をメリキャットと呼び、二人は6年前に他の家族が毒殺された屋敷にひっそりと暮らしていた。姉妹以外で屋敷にいるのは、伯父のジュリアンと猫のジョナスだけ。年老いた伯父は過ぎ去った過去の記憶の住人でしかなく、姉妹は独自のルールで二人だけの穏やかな生活を送っていた。外界との接触は最低限に抑えて。しかし従兄のチャールズがブラックウッド屋敷に現れたとき、メリキャットとコンスタンスの美しくも歪んだ世界は少しずつ変わり始めた…。



※ここから先はネタバレあります。ご注意下さい。


物語は全編、主人公のメリキャットの一人称視点で描かれています。一人称視点で描かれている文章を鵜呑みにしてはいけないというのはミステリーのお約束(例:『ロートレック荘事件』『ハサミ男』etc)ですが、この小説もメリキャットの言ってる事をうかうか信じて読んでると、後で痛い目を見ることになります。


事件当時、容疑者として疑われたのは家族の食事を作っていた姉のコンスタンスでした。しかし裁判の結果、彼女は無罪になります。そしてそれ以来、コンスタンスは屋敷の敷地から一歩も出ていません。たまにお茶を飲みに訪れる両親の知人たちは、過去を忘れて社会に出るよう勧めますが、その態度はどこかぎこちないものがありました。それはコンスタンスがすすめるお茶菓子に毒が入っているのではないか、自分たちも殺されるのではないかという恐怖心から来るものかと思っていたのですが…。

コンスタンスが家から出ないので、村への食料の買出しはいつもメリキャットの役目でした。過去の陰惨な事件と、ブラックウッド家が広い敷地を高い柵で囲って村人を通れないようにしていることから、村人たちは姉妹たちを忌み嫌っていました。彼らがメリキャットを無視し、ひどい言葉を浴びせ、はやしたてる時、彼女は心の中でつぶやきます。

「みんな死ねばいいのに」

ここでうっかりものまね芸人のホリのネタ“武田鉄矢が「みんな死ねばいいのに」と金八先生らしからぬことをさわやかに言う”というのを思い出しましたが、メリキャットの憎悪はこれくらいではとどまりません。頭の中で、次から次へと村人たちを殺し、恐ろしい光景を想像するメリキャット。私も腹の中で「この○○○○の×××が!!」とか「◎◎なんて□□して▲▲してしまえ!!」と毒づくことはありますが、人を憎んだり呪ったりするのはエネルギーを消耗して疲れるので、長続きしません。怖い顔してるとブサイクになっちゃうし(真の美人は怒っても美しいのだろうが)。しかしメリキャットは憎みっぱなしの呪いっぱなしです。そのエネルギーはどこから来るのでしょう。そして憎みっぱなし呪いっぱなしの彼女が行き着く先は…。

現実と空想がごちゃまぜになった姉妹の世界は、突然現れた従兄のチャールズ(非イケメン)によって少しずつ破壊されます。このチャールズがメリキャットの主観を差し引いてもあり余るくらいわかりやすい俗物で、最初に登場したときからもう「あ、こいつは財産目当てだな」とバレバレだったのが笑えました。しかし俗世間の臭いをぷんぷんさせるチャールズに感化されて、メリキャットの大切な姉であるコンスタンスは、少しずつ外の世界に目を向けるようになってしまいます。このままいくと、チャールズにだまされて結婚して全財産奪われて、ぼろ雑巾のように捨てられるという昼ドラコースまっしぐらです。演じるのは荻野目慶子…いや、大河内奈々子?じゃあメリキャットは小沢真珠か!

さて、こうなるとメリキャットが取る道はただ1つ。ナイフを持ってチャールズに向かって「私の姉さんを取らないでー!!」…じゃなくて、チャールズ追い出し作戦です。持ち物を隠したり部屋を汚したり、やることは結構幼稚でした。その幼稚さこそがメリキャットの恐ろしさなのですが。でもほんとのところ、ここでメリキャットがチャールズを殺そうとして、止めようとしたコンスタンスが謝って妹を刺しちゃう、とかって終わり方のほうがまだ後味よかったかもなぁ。実際はもっと悲惨な終わり方だもの。

ここまで内容を細かく書いといて結末を書かないのは中途半端かもしれませんが、そこはやっぱり実物を読んでもらったほうがいいと思うので書きません。ただ、一度は消えたチャールズがまた戻ってきたとき、やたら写真を撮ることにこだわっていたことと、メリキャットがテーブルクロスをなんのためらいもなく着たことには、きっと関係があるんだろうなぁと思うとぞっとします。

姉妹にひどい仕打ちをしたことへの罪滅ぼしのために、村人たちは屋敷へ施しの食べ物を送り続けます。それは自分達が「人間」であり続けるための行為でしょうし、同時に「人ではないもの」になってしまった姉妹を屋敷から出さないための供物なのかもしれません。

「あたしたち、とっても幸せね」

ラストシーン、二人だけの美しい世界に住む幸福な姉妹は、一体どんな姿をしていたのでしょうか。




2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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過ぎ去りし王国の城 (Flash Dolphin)
2018-11-19 20:20:43
宮部みゆきさんの過ぎ去りし王国の城のエピグラフはこの本から引用されています。
そして辻村深月さんのかがみの孤城という本と過ぎ去りし王国の城を合わせて読むととても面白かったです。
かがみの孤城と過ぎ去りし王国の城のおおまかな内容は、いじめられた中学生が異世界の城への入り口を見つけだんだんと城に惹かれていくというような感じです。
かがみの孤城と過ぎ去りし王国の城、とても面白かったので是非読んでみてください。
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コメントありがとうございます (もちきち)
2018-11-19 23:21:17
>Flash Dolphinさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
過ぎ去りし王国の城とかがみの孤城ですか。
かがみの孤城はつい最近読みました。ファンタジーかと思いきやミステリー要素もあって面白かったです。
過ぎ去りし王国の城はまだ読んでいませんが、興味がわいたので今度読んでみますね。
教えてくださってありがとうございます(^_^)
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